すふぉるつぁんど

主に遠藤浅蜊著「魔法少女育成計画」シリーズについて書き残していくブログです。

まいにち魔法少女66日目:森の音楽家クラムベリー

 

 本日のまいにち魔法少女です。ナンバーは13。森の音楽家クラムベリーでした。
 森の音楽家クラムベリー……!! 彼女は何というべきか、ただ一人で自分の心に根付いてしまった特異な魔法少女です。
 何故好きなんでしょう。自分にもはっきりとはよくわかっていませんが、好きなので、短編などで再登場の折にはもうどうしようもなく心ときめいて困ります。がんばります。

 

 

 森の音楽家クラムベリー。登場話は「魔法少女育成計画」。
 エルフモチーフの魔法少女です。魔法少女育成計画のなかでは珍しく、いや、珍しいというほどでもないのですが、比較的まとまった外見描写のある魔法少女です。

 まほいくはあれだけかわいい子がたくさん居るのに、描写としての「かわいい」要素は結構削ぎ落とされがちです。ありがたく思いつつ引用しますと、

 

長く尖った耳が無造作に伸ばされた金色の髪の間からはみ出し、肩、足、太股、そこかしこに蔦が絡み、大小様々な花々が咲き誇っている。フリルのついたブラウス、薔薇の印章が描かれた若草色のジャケットを飴色の襟留めでまとめ、と上半身は比較的大人しいが、下半身では太股を激しく露出し、外見年齢二十歳程度という魔法少女にしては年嵩の見た目と合わさって、より過激に見えた。

 

 とのこと。
 そう、クラムベリーは現在75人おわします立ち絵付き魔法少女の中で唯一「二十歳以上」という外見年齢を付与されている魔法少女なんです。
 ウィンタープリズンも、カラミティ・メアリも、魔王パムも、外見年齢でいえばクラムベリーには及びません。魔王パムにおいては中学生程度の外見だったりします。疑いたい。

 


 クラムベリーはただ一人大人の姿として「魔法少女」を大真面目にやっているのですが、その頭の中は全くといっていいほど、魔法少女なりたて時の「9歳」の頃の頭から成長した気配がありません。

 9歳。クラムベリーの無印での実年齢は今もなお不明のままですが(ここが明かされると割といろいろな時間軸に目測が付けられるんですけど現状は謎)、少なくとも! 6-7年は魔法少女をやっていることと思います。彼女はその長期間、ずっと9歳当時の精神を引きずったまま生きていたのでした。

 

 クラムベリーの行動原理というのは一見して単純です。戦闘を求める自殺的な戦闘狂。『魔法の国』による生ぬるくかったるい試験に「そうじゃないだろう」と反発し、なりたて魔法少女達に殺し合いを強いる試験官。一見してはmそんな感じです。

 

ヴェス・ウィンタープリズンはかつてない強敵だった。シスターナナの魔法で援護を受けているとはいえ、格闘戦でクラムベリーと渡り合った。自分の全力を使って戦える相手を前に、喜びが湧き起こり、脳の奥の辺りが光り輝いたような気がした。それは恋する乙女の感情に似ていた。恋する乙女そのものかもしれない。

 

 こういう感じのおめでたい頭を持ってます。

 あぁ……。あほの子です。クラムベリーさん、わりとあほの子です。このウィンタープリズン戦にてあの破壊音波を使わなかったのは、是が非でも殴り合いコミュニケーションを実現したいという強い思いの表れか。

 この辺は多少後付け設定の気配がある「N市の試験はクラムベリーの行った殺し合いのなかでもかなり苛烈を極めるものだった」というものの発生源になっている気がしますがそれはそれとして。

 

 

 おめでたい頭を持ちつつもクラムベリーさんはしっかり仕事持ちの魔法少女です。彼女は強い相手と殴り合い、命を奪うという共通の目的をもって対峙することを求めて、自殺的ともいえる「挑戦」を繰り返し、快楽主義者として殺し合いゲームを求めるファヴに協力し、人事の試験官をやっています。「その時だけは一人ではない」がために。

 この「一人ではない」という描写がつらく、重い。9歳当時、12人のクラスメイト(本当にクラスメイトだったのだろうか、それは謎)が一人ずつ潰され、溶かされ、捏ねられ、砕かれていくという発狂ギリギリの体験を経て、そして悪魔と全力で殴り合い、勝利するという経験を経て、クラムベリーは壊れてしまいます。自覚のある壊れようです。

 

 この辺りから自分の想像が入り乱れてくるのですが。

 クラムベリーはただの戦闘狂に見えますが、ここには本人も自覚しきっていないような深い歪みがあるように思えてなりません。クラムベリーは戦いに酔い、自分のやりたいようにやりつつも、9歳当時のあの試験をきちんと飲み込み切れていない気がするんです。

 その「歪み」こそが、無印での彼女の死に繋がってしまったのではないかな、と思っています。

 

 

 クラムベリーを死に至らせたのはひとえに、自分が高く評価していたスイムスイムの人間体が、かつて自分が理不尽な暴力に襲われ、壊れてしまった、その当時と殆ど似たような年齢の少女だったことだったのでした。

 かつて悪魔に襲われたクラムベリーが、無印の現在では、自分が悪魔のポジションになっているのです。明確な立場の反転。少女に動揺し、一瞬攻撃を「躊躇ってしまった」クラムベリーは、壊されてしまった当時の自分を少女――綾名に重ねていたのではないかと考えています。

 クラムベリーは最終的に悪魔にはなりきれていなかったのです。彼女が永遠に「チャレンジャー」としての立場を貫いていたのも、その精神に因るものだったのかもしれません。

 

 そのような歪みに囚われ、魔法の実質を把握し、警戒をしていたはずのたまに致命傷を加えられた時。

 クラムベリーは「後悔がまず頭に浮か」ぶのですが、その中にはただ油断してしまった、攻撃を受けてしまったという後悔だけではなく。悪魔になりきれなかった自分、9歳の頃の、壊れてしまう前の自分をまだ捨てきれていなかった自分への感情も含まれていたのではないかなと思います。ただ突き抜けた戦闘狂ではなく、奥底の奥底で「後悔」を煮やしていたのが「森の音楽家クラムベリー」ではないかな、ということです。

 

 この歪みこそが、クラムベリーがフレデリカに目を付けられた理由になっているのだろうかとか。そういうことも考えています。

 ただの戦闘狂を、反社会的分子を好きになるフレデリカではありません。彼女の審美眼は結構しっかりと軸のあるものなのですが、クラムベリーの在り方は、スノーホワイトを正しい魔法少女だとして育てようとするフレデリカの求めるところとは違うように思えてならないのです。それならばクラムベリーは、ただ戦闘狂である以上に、フレデリカを引き付ける要素があったのでしょう。

 

 素敵です。ただ戦闘狂として魅力的である以上に、本当に際の際にまでしか露出しない、魂の核としての「歪み」を抱えていることが魅力的です、森の音楽家クラムベリー。それが理由となって死んでしまうのもよい。

 クラムベリーの存在は色々と『魔法の国』に影響を及ぼしています。クラムベリー没後の魔法の国はどんどんと変容していき、今となっては実在自体が危ぶまれることになってしまっています。スノーホワイトが誕生したのも、プフレが誕生したのも、クラムベリーの試験によるものです。

 

 様々な出来事の発端となった、精神年齢9歳の大人びたクラムベリーさん。基本的にあほの子なところが大好きです。信仰者が出てくるのもなんとなくわかるような気がする。強い・社交的で大人っぽい・内面はわりと無残という三拍子そろった素敵な魔法少女

 彼女の戦闘シーンはいつ見ても美しい限りです。クラムベリーVS魔梨華、大好きです……。

 

 文字数の都合により好きなイラストとセリフは省略して以上。明日もがんばります。