すふぉるつぁんど

主に遠藤浅蜊著「魔法少女育成計画」シリーズについて書き残していくブログです。

まいにち魔法少女88日目:シャドウゲール(QUEENS)

 

 本日のまいにち魔法少女です。ナンバーは4。シャドウゲールでした。

 ……うーん、シャッフルかけたのに結局プフレとシャドウゲールを連続して書くことになるとは思ってませんでした。意図的にこの状況作ったとしたらどんな破滅志願者なんだということで言い訳する必要もないと思うんですがプフレとシャドウゲールが連続したのは乱数結果による偶然の出来事です。はあ。はい。すごいですね。精神力が。

 まあこうなったからにはそれはそれでやっていくのでがんばります。今日こそは4500字以内にしよう、という強靭な意思をもった結果多少はみ出ましたが87日目と比較するとまだ4500字に近いので4500字ということにします。

 

 

 シャドウゲール。シャドウゲールです。シャドウゲールとても好きです。かわいいですね。なんだかんだで人に優しい魔法少女です。クランテイルを穢れに寄せたくなかったりアーマー・アーリィを同情的に見てしまったりプク様の魔法に資質としてかかりやすい気配があったり。ACES初読時は監禁されてなおゲーム破壊を躊躇うシャドゲの精神状態を危ぶみましたがああ何に対しても非道になりきれない人間だったんだなあというのを数ヶ月かけて理解したように憶えています。そういえばrestartではグレートドラゴンにも同情してましたね。

 

 彼女はACES最終盤でプク様に引き取られてそれからずっとプク様に洗脳(強)をかけられて幸せな気持ちでいます。どれくらい強い洗脳かというとプク様との会話の受け答えがちょっと心配になるくらい。自我が消えかかってませんかねコレ。

 シャドウゲールをはじめとした、儀式のために集ってもらった魔法少女達には個室を用意してある。

 一人一人に声をかけ、心を込めて頭を撫でてやり、地下牢のエリアを抜けたところで(後略)

 というわけでプロローグの彼女はin地下牢。個室や客間と書いて地下牢と読みます。初っ端からぞっとする描写を挟んでくることです。

 

 そこから物語は進展し、プク様を筆頭としてトラックで遺跡へと乗り込み、プク様に連れられてシャドウゲールは「魔法の機械」と向かいあいます。魔法の機械は最初の魔法使いが残した大変なオーパーツです。それが何なのかを知っているプク様は当然ながら、機械が何をするものか、どれほど価値があるものなのかを理解していないシャドウゲールにもそれが恐ろしいものであるということが本能的にわかります。

 近づけば近づくほどに印象が変わる。無機物のようだったものが有機物にしか見えなくなり、しっかりとそこに存在したはずの姿がぼやけ、柔らかそうでもあれば硬そうでもあり、角張っているようで丸っこくもある。真四角だと認識していたのに、それが円であり、円でありながら四角になり、三角にもなり、シャドウゲールは「なにか」を見上げながら進むのをやめ、足元を見てあるくことにした。気分が悪かった。

 

 ここの機械の異次元的な描写にとてつもなく「美少女」を思い出したのは自分だけではないのではないでしょうか。 具体的にはサブさんとオールド・スパーキーの最終決戦の、

 閃光が走り白煙が立ち上る。白煙を裂いて金属の塊が出現した。全長およそ三メートル、頂点が五つ、辺が六本ある正七角形を中心に、と、そこまで認識した気がした時点で吐き気がこみあげ、目を逸らした。ありえない。正気で作ることができる物ではない、ということだけはわかった。

 こういう。「わけのわからない理解しがたい機械」としての系譜を感じます。というわけでぜひ読んでみてくださいね、遠藤浅蜊先生著「美少女を嫌いなこれだけの理由」。色々楽しい。

 

 

 閑話休題。そこからシャドウゲールはひたすら魔法の機械改造のためにがんばります。この……この展開なぁ。魔法の機械っていうのは全ての魔法少女のための棺桶なわけで、それを必死で作ろうとする彼女達複数魔法少女は、崖に向かって満面の笑みで行進しているような、そんな空恐ろしさがあります。 

  苛々したり嫉妬したりいろいろありましたが、プク様動画とかポテチとか色々でテンションを保って作業を続ける魔法少女たち。中盤にかけてのシャドウゲール視点はただただ見ているのが苦しかった……。

 

 

 そして最終盤。もはや語るべくもないあれですが、うう、はい、シャドウゲールはなんやかんやあってプレミアム幸子の契約書にサインをします。それこそがプフレにとって最後に残された起死回生の一手であり、プク様を敗北に至らしめる要因でした。ここについてはかなり物議を醸したように思います。

 

 何が醸したかと言えば契約書の幸運と不幸が何を対象にしていたかについてです。契約書のパターンって

 

①幸運:機械設定完了(ないし細々した雑事)/不幸:プク死

②幸運:機械設定完了/不幸:プクとプフレの死

③幸運:プク死/不幸:プフレ死

 

 くらいが洗脳の強度に応じてざっくりありうるラインかなと思ったんですが(心にもないことを書いている……)、さてどれが魔法の効果だったんでしょうねと詰めていくつもりは、実のところあんまりありません。

 魔法がどうあろうとシャドウゲールがプフレを殺したという事実に違いは無く、それはたとえ「契約書の効果だったからどうしようもなかった」なんて理由をつけたとしても、やってしまったことをシャドウゲール本人が消化することが(QUEENSエピローグ段階では)絶対に出来ないような重すぎる出来事だからです。詰めても意味がないと言えばいいかな。

 

 シャドウゲールがプフレを殺した、ということはとんでもなく大きな出来事ではあるのですが。シャドウゲールが洗脳されている状態で幸子の契約書にサインをした瞬間に、洗脳の結果としてプク様を対象に不幸が発動した場合でも、洗脳されている中でそれでもプフレを対象に不幸が発動した場合でも、どちらにせよプフレが殺されるのはかなり自然な成り行きです。前者ならそれほどに強い洗脳下にあって、プク様に笑顔で手を振られて、そんな中で「プク様の元に駆け付けるのを止める」存在を攻撃しない道理がないですし(一発で致命傷が入ったのはそれこそ「不幸」なことですが)、後者は運命としてそうなるので本当の本当に仕方がない。

 

 

 重要なのはあの時発動した契約書の効果がどのようなものだったか、ではありません。そこから少し展開は巻き戻って、

 

 プフレはゆっくりと手を離し、シャドウゲールは自分の手が熱を持っていたのだということに遅れて気付いた。プフレはシャドウゲールを見据えた。シャドウゲールは固く目を瞑り、歯を食い縛って力強く頷いた。

(中略)

 だが、一つだけ、得るものがあった。人小路庚江に嘘偽りがない時は、それとわかることがある。今のプフレは心の底から「すぐそこに迫っている敵」を恐れている。間に合わなければ全てが終わると真剣に考えている。

 プフレを信じようとは思わない。シャドウゲールは、プフレに騙され続けてきた自分の人生を信じることにした。

 

 ここです。QUEENSのプフゲルにおいて最も大事なのはここだと思います。プフレとシャドウゲールが向かい合っている、シャドウゲールがプフレの中に本心を見る、たった2ページ分の会話です。

 QUEENSにおいて唯一の、洗脳下にないシャドウゲールの思考。それはプク様動画によって一瞬で洗脳状態に戻ってしまいますが、しかしあの時彼女は確かにプク様からの至上命令であるはずの、装置の起動という「今すべきこと」を忘れていたのです。

 

 あのごく僅かな時間、シャドウゲールには正常な思考があり、プフレが自分を守るためにやったことを記憶の球を介して理解しており。そしてプフレは自分の記憶を取り戻し、シャドウゲールがスノーホワイトに自分の記憶を託したということを教えられていました。

 何が言いたいかといえば、お互いがお互いに隠れてやっていたことを認識した上で向き合っていたわけです。自分にとっての相手の重要性を知るところのrestartから始まり、片方が片方の見えないところで守るために無茶をするという構図を越えて、ついにその隠し事を知った後改めてふたりが会話をするところに至った。それがすごく、すごく嬉しかったです。

 

 

 嬉しかったのはそこだけではなかったです。

 シャドウゲールがプフレの言葉に頷いてみせた根拠になったのは、シャドウゲールの、魚山護の人生で。彼女はそれを思い出すことでプフレの言葉の中に真実を見るに至りました。その人生の中に相互理解が欠けていれば、護と庚江が最後まで「分かり合わない」ままだったのなら、護が庚江と共にあった人生を信じることで正解を引く、という図にはならなかったと思います。

 言葉として直接やりとりがあったかは定かではありませんが(個人的には言葉にはならなかったんじゃないかなあと思う)、それでも 「分かり合うことなく無慈悲に消える」ではなかった、というのがあの会話を経て感じた自分の感想です。

 護は庚江を守りたい。庚江も護を守りたい。両方がそのことを理解しているから、それが真実だとわかっているから、シャドウゲールは「敵が来ると終わる」というプフレの言葉を心からのものであると認識した時、素直に契約書にサインをすることができたのかなと思います。シャドウゲールを守りたいプフレがそう言うのなら、敵は本当に「私達のこれまでも、私達のこれからも」奪おうとしているのだと、ならば自分もプフレを守るためにそれを止めなければならないと、そういう理解。あの時の(洗脳から脱しかけている)シャドウゲールは「プク様のために」頷いたのではなく、「プフレを守るために」頷いていたのではないかなあ。そう思います。思いたいです。

 

 

 しかし……しかしながら。「私達のこれまで」も、「私達のこれから」も、結局のところエピローグの段階の護の手元には残りませんでした。こればかりは、契約書にサインをした段階でプフレの身は危うく、ブルーベルがやってきた段階でプフレはシャドウゲール生存の最大可能性を追って記憶を抜かせるがために「なるようになった」としか言えないのですが、しかし、やはりううん皮肉的です……。

 

 シャドウゲールが、魚山護がQUEENSの事件によって受けた傷は途方も無く大きいです。ちょっと想像したくないくらいに大きい。庚江から「決して離れられないこと」を自覚していた護は、他ならぬ自分の手で永遠に庚江をつき離してしまったことをどう受け止めるのか。

 受け止める前に記憶は奪われ、護は廃人一歩手前という状態になりました。それは彼女と庚江がそれだけ切っても切れない関係にあったということを示しています。もしかしたら(もしかしたら)自分が庚江を殺したという事実を、記憶を失っているはずなのにどこかで認識しているのかもしれません、記憶処理をしたはずなのに色々なことを「憶えている」子はシリーズ各所に居ます。

 

 でもまあ、お嬢が記憶を奪った護がこの状態になることを見越していたかといえば、いい影響が出ないということくらいは想像の範囲にあったんじゃないかなあ。

 庚江との記憶全てを奪われた護が途方に暮れてしまうであろうこと以上に、庚江が死んでしまったということを認識して受けるであろう衝撃のほうが、きっと護にとっては致命的なダメージになっていたんだと思います。いや当然なんですけど。

 遺跡内の記憶だけを持ち去って済む話ではない。「護が庚江を殺した」だけを奪っても、庚江が死んでいることを護が知れば大変なことになるかもしれない。記憶全部を持っていかせるのが、あの時のプフレの取れる中で、一番護の生存確率が高い方法だった。それだけのことかなと考えます。プフレがそれを望む望まないの話ではなく、「護が死なない可能性が最も高い」からそうする。QUEENSにおいて、プフレは徹頭徹尾そういう考え方をしてきたように思います。プフレの日にも書きましたけどね。

 

 

「これまで」も「これから」も失ったシャドウゲールですが、それでも全てが全ておしまいになってしまったわけではない、とそう思います。 

 思うことには思うのですが、しかしあまりにもきつくつらく苦しく。正直なところシャドウゲールのこれから、あまり考えたくない。これからどうあってほしいと考えること自体が厳しい。

 ただ、うーん、書いててやっぱり厳しい話にはなりますが、いつか護がまた笑ったり喋ったりしてるところを見られたら個人的にうれしいです。(あといつかのいつかのいつかくらいに護がお嬢の思惑を超えてお嬢のいろいろに対してアンサーを出してくれたりすると普通に泣きそうです泣きます。魚山護と人小路庚江、守りたがりな二人ともですけれど、果たして最後の最後はどちらが相手を守るのか? というところはQUEENSの大きな見所だったと思うんですが(自分は十章題こと「全てはあなたのために」について、プフレとシャドウゲール、どちらが最終的に「あなた」に「全て」を捧げるのか、という点で気になっていました。常のことながら視野がプフゲルにしか開かれていない)、護はその点でしてやられた方に位置すると思います。護にはぜひやられっぱなしではいてほしくないなあという気持ち。何を言っているのか今一はっきりとしません。記憶を取り戻してほしいけど記憶を取り戻すと護が今以上に傷つくというジレンマ。記憶を取り戻したところでお嬢は帰ってこないという虚しさ。本当にどうすればいいんだろう。自分がシャドウゲールにどうあってほしいかわからない……。ので、とりあえず今の状態から多少持ち直してほしいなあ、というのが今のところの願望です)

 

 見ていていたたまれない状態になっている護ではありますが、そんな廃人的な護の面倒をみているデリュージも(今でこそ感情を取り戻していますけど)JOKERSではそういう立場の子だったので。単純に護の言動が好きなので、よくならないよりはよくなる方向に期待をもっていきたいなあ。QUEENS次巻でシャドゲが地獄から蘇ったプク派ハンターをやっててほしいという話ではありません。

 

 やっぱり魔法のポテンシャルがあまりにも高いため、シャドゲを「使いたい」と思いたがる人は多いんじゃないかなあ。デリュージはそこまで一気に割り切れる人ではないですが、例えば初代とか、魔法の機械を弄ることができる魔法少女が居ると知った魔法の国側のひととか……。

 ううん。平和にやっていってほしいものです。そういえばクランテイルは友達二人が急に失踪して心配してないかな。今どうしてるんだろう尾野さん……

 

 

 好きなイラスト。対面してるあれ。

 視線が合うことが滅多にないプフレとシャドウゲールがこうして視線を交えているということ自体に滅茶苦茶胸が詰まります。プフゲルはどちらかというと目を合わせず向こうに聞こえないように気を付けて本心を話し、目を合わせた時はにこにこ与太話をするという印象が強かったのでこうやって一瞬でも……一瞬でも全部持った状態でコミュニケーションしてくれてよかった。改めて本当に……明確に洗脳されっぱなしでなくてそれだけが……。

 

 

 好きなセリフ。セリフかぁ。正直QUEENSのシャドウゲールはセリフよりも地の文のほうに目が行きますが、ううええと「お嬢、嘘は吐いてませんよね?」かなあ。「プク様がお越しになった時のために準備をしておく」ことに違いはないので嘘は吐いてませんねあはは。しかしシャドウゲールにまた喋ってほしいです。デリュージとどんな会話をするものだろうか。

 

 

 以上。とんでもなくつらい立場に置かれた彼女がこれから何を選んでいくのか、選ぶことができる精神状態が戻ってきてくれるのか、心を強く持って読んでいけたらいいなあ。明日もがんばります。