6月10日にめでたく発売された、「魔法少女育成計画 episodesΔ」
魔法少女育成計画 episodesΔ(エピソーズ・デルタ) (このライトノベルがすごい! 文庫)
- 作者: 遠藤浅蜊,マルイノ
- 出版社/メーカー: 宝島社
- 発売日: 2019/06/10
- メディア: 文庫
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の感想をそろそろ書きます! 全部の短編への感想を一記事に収めようとすると多分長さがとんでもないことになるので、4分割くらいにしていく予定です。
今回は「魔女と弁当と愛情表現」~「トリック・オア・マジカルガール」まで。ちょうど全部無印短編ですね。以下続きからさくっと感想です。また、twitterにて公開された遠藤先生の短編解説についてもちょっと触れています。
魔女と弁当と愛情表現
なんとなく一番読者内未入手率が高い短編の印象だった「魔女と弁当と愛情表現」がこうして再録されて嬉しいです!
魔女弁当は……文庫段組にしてたった4ページというコンパクトさのなかに、ほのぼのと重苦しさの両方を魔法的に詰めたすごい短編でした。しかし初読時の自分がこの短編に感じたのはほのぼのや重苦しさよりも先に「驚き」でした。何に驚いたかというと、
【遠藤浅蜊のepisodesΔ短編著者解説】
— 月刊魔法少女育成計画 (@monthlyMGRP) June 13, 2019
☆魔女と弁当と愛情表現(1/2)
旧ぽんぽん野郎の「正体を知られたら魔法少女をやめてもらうぽん」という言葉がかなりファジーなチェックの上に成り立っていたということがわかるようになっています。
これです! 一般人が魔法少女の正体を察する短編といえば他に「たまにはこんなことも」があるので今となっては驚きも低いですが、このファヴのいい加減さとしての初出はこの「魔女と弁当と愛情表現」だったと記憶している……ので、個人的な衝撃は魔女弁当の方が大きかったですね。
トップスピードの死へのやるせなさと同時に「魔法少女の正体が一般人に知られると死」というルールを意識して死へ追い詰められた亜子のことを思い出し二重にやるせなくなる。改めていろいろ濃度の高い短編だった。
特典時からの加筆などもなく、新規要素としては2019年版奥様は魔法少女イラストくらいかな……と思っていたんですが、重大な新規要素はもう一つありました。扉ページの「『魔法少女育成計画』の物語の真っ最中に起きていたお話です。」*1という時系列表記です!
個人的にこの「魔女と弁当と愛情表現」は無印より多少前の出来事だと想像していたので、思っていたよりもずっと短編とデスゲームとの距離が近かったことに改めて驚きました。
そして同時に、「死」の気配のない、考える必要もない、こういったスウィートでマジカルで平和な一瞬こそが、室田つばめ/トップスピードの生き抜く動機の一つだったんだろうなという思いが益々強まってすごかった。「真っ最中」という言葉がなおのこと生々しかったですね……。
マジカルショッピング
この特典短編は特典元のグッズとの結びつきが強く、収録されるとあまり思っていなかったので再録に驚きました! でもこうして一短編として再読するとわりとなんか普通に読めたので杞憂だったっぽい。
色々メタやら何やらをかまして楽しいお話であると同時に、安藤真琴の新しい側面が見られた素敵な短編だったのでこうしてΔで読めてよかったです。姫河小雪が夏~秋生まれらしいことがわかるのも重要です。
「やりたくないことは絶対にやらない」がモットーの安藤真琴/マジカロイド44が、小学生の女の子について「いっそ放って逃げてしまいたいが、それもできない」*2と考えているのとてもぐっときた。
過失で泣かせてしまった少女から逃げてしまいたいと思いつつ(つまりモットーに応じて「放り出したくない」から奔走していた……というわけではない)、そこを踏みとどまって自分のやれること(ラ・ピュセルに高額で魔法のグッズを売りつける)をやろうとしている。その在り方がすごく好きで、グッズ特典という軽妙さの印象以上に素敵な短編だったなあと初読時に思ったのを覚えています。あと珍しく小学生が笑顔で終わってたのにびっくりした。
ところで、魔法少女にはマジカルアイテムを売却してもいいと考えているが人間には基本売らない、小学生の少女にも最後の手段になるまで与えないという姿勢は、どちらかというとアウトロー気味なマジカロイドにしては誠実というか健全というか、手段を選んでいるように感じます。
この辺に関しては「魔法少女vs.鮫」で一般人相手の商売についてファヴに釘を差されていたのが理由の一つでしょうか。それはそれとしてテキ屋のおっちゃんにマジカル射的台を貸したりしてたけど。
また、他のお話との繋がりで言えばラ・ピュセルの
「そもそもスノーホワイトの誕生日プレゼントにボス戦アイテムってズレてる気がする。彼女、倒すべき悪がいてそれと戦うような……キューティーヒーラーとかスタークィーンに登場するタイプの魔法少女じゃないだろ」*3
という指摘は「魔法少女育成計画 in dreamland」におけるラ・ピュセルのスノーホワイト真贋判定に通じるところがあるように思います。無印スノーホワイト周辺に関してはもうこういう何気ない台詞一つ一つがずんとくる。魔法少女暗殺計画がすさまじかったので……。
ちなみに特典小冊子時には各グッズの名前が出たページに、グッズに対応する「ボスキャラ」のシルエットとモチーフが紙面に薄く印刷されていて、どのキャラを対象にしたアイテムなのかがわかりやすいようになっていました。対応としては、
①「絶海コースター」
魔法少女:スイムスイム
モチーフ:兎耳ヘッドフォン
②「ヘアディフェンダーシール」
魔法少女:ピティ・フレデリカ
モチーフ:☆マーク
④「アンチマインドアタックステッカー」
魔法少女:のっこちゃん
モチーフ:吹き出し(モノローグ型)とリボン
⑤「記憶保護ファイル」
魔法少女:プキン
モチーフ:太刀筋(5本)
⑥「草原の貴族仕様コットンバッグ」
魔法少女:グリムハート
モチーフ:ダイヤマーク複数個とハートマーク大一個
という感じになっていました。草原の貴族仕様コットンバッグがグリムハート打倒に有効なのかは謎ですが、ですノートを振り回したところで敬語口調のメルヴィルに襲われるだけな気もするので実際対ボスアイテムとしての効果は保証されてないのかもしれません。
グッズの話といえば「ヘアディフェンダーシール」や「記憶保護ファイル」にはばっちりラ・ピュセル本人のSDイラストもシール化されてたり印刷されてたりしてたので、ラ・ピュセルがもうちょっとしげしげグッズを眺めてたら異常に気づいてたかもしれません。それか実際の(?)短編世界版グッズではオミットされてたのかも。
特典時から省かれた要素としては他に謎の「登場人物紹介」ページがあり、マジカロイド44とラ・ピュセルが簡単に紹介されていました。「魔法少女育成計画」シリーズ未読者向けの紹介だったんでしょうか?
ラ・ピュセルが「愛称はそうちゃん」と(マジカルショッピングを読む上では一切必要ない感じの)紹介されてたりしてちょっと面白かった。
あ、あとタイトルが「魔法少女育成計画 マジカルショッピング」から「マジカルショッピング」に改題されてました。省略とはいえ改題はちょっと珍しいような。
あと変更点ではないしひたすらどうでもいいところなんですが、多分デスノートを知ってるラ・ピュセルとあんまり知らないっぽいマジカロイドが面白かった。知らずにあの命名になってるということはやっぱり未来道具にはマジカロイドの頭にある以上の情報が外部から入ってきて魔法の道具が発生してるのかな。
魔法少女のいないお花見
「魔法少女育成計画 circle of life」から「春」の短編が再録! この短編では木王早苗のより詳しいパーソナリティを知ることができました。まさかのアニメにも一部取り入れられててびっくりでした。
なんというか木王早苗さんは思ったより優秀で思ったより変な人だったんだな……と初読時に思い、その印象は「魔法少女育成計画 16人の日常」収録の「偉大なるリーダーの苦悩」で益々強まり、更には遠藤先生短編解説文の、
【episodesΔ短編著者解説】
— 月刊魔法少女育成計画 (@monthlyMGRP) June 13, 2019
☆魔法少女のいないお花見(2/2)
ちなみにお酒さえ入ってしまえば木王さんと山本さんも仲良くなることができます。というか木王さんは誰が相手でも仲良くなることができます。宴会部長は伊達じゃないんです。
これでもう振り切れました。酒が入ればあの山元奈緒子と仲良くできる!?!? 木王早苗、マジカル規格外が容易に発生する魔法少女としてより、人間時の方がよっぽど色々「異常」になっちゃう枠の人だ……。(例:亜柊雫、芝原海)
彼女はもしかすると、魔法の才能に目覚めて白鳥の自覚を持たないほうが色々上手くやっていけていたのかもしれません。辺見由香曰く本当に何でもできる人だったっぽいし。常時宴会モードなら人間版トットポップになれた可能性がある。
そんな木王早苗視点でN市の未来の魔法少女たちを眺めていく短編の風景は、まさしく「魔法少女のいないお花見」……のはずなんですが、「16人の日常」収録「サークルの王子様」の内容を踏まえると、亜柊雫といちゃついている羽二重奈々は恐らく魔法少女として目覚めていることになります。
そしてシスターナナが誕生しているということは魔法少女発生順的にカラミティ・メアリも誕生してるので、スマホに熱中してた山元奈緒子も実は魔法少女の才能を発揮しているということになる。実は魔法少女になれる人間が二人いるお花見。まあ二人とも変身してないので実際魔法少女のいないお花見ではありますが。(カラミティ・メアリとしての娯楽を発見してからも山元奈緒子が「魔法少女育成計画」に夢中になるか? という部分のはちょっと意外なんですが、案外ゲーム自体を気に入ってたのかも……しれない)
再録前の特典小冊子では、この短編でも「マジカルショッピング」と同様紙面に魔法少女のシルエットが薄く刷られていて、どの人間がどの魔法少女なのか容易にわかるようになっていました。
シルエットに対応していると思われる人間の描写を振り返ると、
大股を開いてベンチに座っていた中年女性:カラミティ・メアリ
中学生くらいの男の子:ラ・ピュセル
桜の木に寄りかかっている背の高い少女:リップル
向こうの子供:スイムスイム
すこぶるつきの美形の男(注:女):ヴェス・ウィンタープリズン
自称ぽっちゃりだけど本人のいないところでデブと陰口を叩かれていそうな、地味な女:シスターナナ
中学生か、高校生くらいの少女:マジカロイド44
向こうの薄ぼんやりした女の子:たま
その向こうの大学生風の女性二人組:ピーキーエンジェルズ
女子中学生三人組:スノーホワイト
茶髪を三つ編みにまとめた十代後半くらいの少女:トップスピード
でした。シルエットがないと「向こうの薄ぼんやりした女の子」が珠なのか亜子なのかわかりにくい……かもしれませんが、亜子は当時……多分……スマホを眺めていないだろうことからシルエットが無くても絞り込めますね。(この頃の亜子は多分まだ両親健在なのでスマホを持ってた可能性もなくはないですが)
というわけでこの短編に不在なのは鳩田亜子と三条合歓と森の音楽家クラムベリーでした。居ないであろう人が居ない。
早苗さん視点から見る人間たちの感想、進学校生徒の華乃は小雪の高校受験を手伝ったりしたのかなとか亜柊雫のことを早苗さんが完全に男だと思いこんでるのめっちゃいいなとかこの時点の奈々はどうにか雫が魔法少女になってくれないかと思いつつそれはそれとしていちゃついてるのかなとか見るからに年下相手でも知らない人相手なら敬語口調の早苗さんいいなとかオカルト桜に引き寄せられる魔法の才能持ちってほのぼのと不気味でいいなとか色々あったんですけど! 挿絵! 挿絵見て全部吹っ飛んでしまった。
スタジャン装備のつばめさんかわいい……満更でもなさげな木王さん良い……。既存短編に挿絵が付くの改めて素晴らしいですね。頭の中の想像図が塗り替わってより一層読むのが楽しい。
トリック・オア・マジカルガール
FANBOOKからの再録! これも予想していなかったので嬉しい驚きでした! ハロウィンの決まり文句と、ひたすら魔法少女に対して「何かのトリックだ」と考えようとする芳子の姿がダブルミーニングになってる地味に好きなタイトルです。
「魔法少女のいないお花見」に続いて、これも色々な魔法少女がわらわら登場する楽しい短編ですね。無印はN市という平和日常空間に密集する魔法少女(と人間)達が見られる固有の魅力があるように思います。
固有の魅力と言えば、この小雪の友達・芳子視点というのは「トリック・オア・マジカルガール」のユニークなところですね。
「アクティブに夢見がち」*4なスミレと並んで、芳子に「ぼんやりと夢見がち」*5と評される姫河小雪さんの描写を読んだ後に、「primula farinosa」の袋井真理子による「彼女はあまりにも隙がない。本来隙を見せていいはずの友人達に対してまで油断なく振る舞っている」*6という評価を思い出すとこう来るものがあります。そしてその2つの短編の間に「魔法少女暗殺計画」があるのだなあと理解しさらに来る。
姫河小雪に対するあれこれはさておき、芳子の遭遇した魔法少女達について。
まず彼女が出会っていたのはねむりんでした。N市民の夢にちらほらニートパジャ魔法少女が登場してると思うと夢見が良いですね。
そしてウィンタープリズン。彼女の人助け描写はかなり当時新鮮だったように覚えています。今でもわりと新鮮ですね。鮫討伐も実際人助けにあたるかもしれませんが……。芳子が実際に会った魔法少女の中で彼女だけビジュアル面で何ら違和感を持たれていないのが面白い。美しさにデバフかかる(意味がわからない)ウィンタープリズン状態ですら「ぎょっとするくらいに綺麗な顔立ち」*7って言われてるのじわじわ面白いな……。
そこから空を飛ぶトップスピードに衝撃を受け、動く生首のスイムで更に慄き、ピーキーエンジェルズに救われる芳子ちゃん魔法少女遭遇運が高い。あわやの危機を「マジクールな事態」*8という言葉で収めるミナエルがすごい。たまはルーラチームの中で唯一登場してませんが、廃寺のどこかしらに居たんでしょうか。
あれこれ言って魔法少女を否認しながらも天使の存在は認める芳子ちゃんかわいい。この短編によって無印事件発生はハロウィン周辺より少し後なのかなと思えて嬉しいです(魔法少女の生前にイベントがあると嬉しい)。ヴェスナナのハロウィンとかトプリプのハロウィンとかルーラチームハロウィンとかを想像できるのかなり良い。スノラピュもハロウィンしてたりしたんでしょうか? かわいいな……。
今回の感想はここまでです。一度読んだ短編を振り返っているだけなのに書きたいことが多く記事がかさばる。以後短編の感想はまた近日中に。
追記:書きました。