すふぉるつぁんど

主に遠藤浅蜊著「魔法少女育成計画」シリーズについて書き残していくブログです。

episodesΔ感想②


mgrp.hatenablog.com


の続きで、魔法少女育成計画episodesΔの短編感想を書いていきます。今回は魔法少女育成計画ができるまで」「正月と亀」まで。以下感想。

 

 

魔法少女育成計画ができるまで

 

「トリック・オア・マジカルガール」と同様、FANBOOKからの再録です!

 この短編は無印~JOKERS(初出当時最新刊)までの魔法少女達が、シミュレーター内とはいえシリーズを跨いで入り交じるお祭りめいた短編で、それだけに読んでいてとても楽しかったです。

 

 基本的に視点はゲームの外側にいるファル/キークです。なので魔法少女たちによるわちゃわちゃの詳細を読むことはあまりできないんですが、示唆された光景を一つ一つ想像するだけで感情が上下します。明るい光景とかそうでないやつとか。

 

 明るい方の光景としては、魔法少女の意地っ張りじゃんけんや魔王塾勢込み徒競走など。かわいくそしてタチが悪い。

 このあたりには「魔法少女ども」成分的どうしようもなさを感じます。魔王探しゲーム魔王パムが参加してる状態だいぶややこしいですね。

 

 明るくない方の光景といえばもう、はい……魔王塾抜きクソ難易度全滅トライです。

 無理ゲーで全滅した世界線シミュレーションにプフレ(シミュレート体)も居たのを想像するとこう、すごい。シャドウゲールはその時参加者として選出されてたんだろうか。プフレに関する余談なんですが、シミュレーター内で「桁あふれによるゲーム破壊」を成立させ、それを対策された現実では通行券を限度量まで買い占めてクランテイルの行動を制限したプフレは本当に本当に悪用の天才でいい。シミュレーター版お嬢はバグ技狙いでデバッグ行為でもしてたんでしょうか……?

 

 

魔法少女育成計画ができるまで」は地味に他短編との繋がりが大きい短編でもあって、この短編を読んでから「primula farinosa」「三姉妹育成計画restart」などを読み返すと色々にやつく要素があります。

 特に「三姉妹育成計画restart」は、どういう状況に三姉妹が放り込まれたのかがよくわかってクソゲー感が加速します。あと魔王塾勢がまとめて参戦するとそれだけで推奨レベルが異様に跳ね上がることが具体性をもってよくわかります。

 

 あとはマジカロイド44とシャドウゲールが初めて接点を持った(持ったのか?)のもこの「魔法少女育成計画ができるまで」ですね!  機械魔法少女と改造魔法少女が出会ってしまうと勢いでゲームが壊れる。すごい。

 ここでシャドマジ推しのファルから「運命の人」という言葉を贈られ、その後オフィシャルファンブックの一問一答コーナーでは、なんと遠藤浅蜊先生の一番好きな魔法少女二人ペアはマジカロイドとシャドウゲール(※逃げてません)というすごいアンサーまで発生してしまいました。

 そんな流れの上で「聖夜の魔法少女ども」での時空を超えた出会いがあったのだと思うと感慨もひとしおじゃないですか? シャドマジは運命なので……。

 

 

 ところで「魔法少女育成計画ができるまで」といえばファルとキークです。ファルとキークの関係性とても好きです。

 restartを経てなお「キークに対して感謝はしていない」*1「感謝はせず、同情もせず、それでもキークのことを思うと悲しくなる」*2と考えるファルのことが好きで、そういう未来がある上で「魔法少女育成計画ができるまで」のなんとも距離が近いようで近くない2人(?)の会話を読めるのがとても……良かった。挿絵もこう魔法少女の面倒臭さにファルが荒ぶってて良かったですね。キークちゃん八重歯かわいい。飲んでるのマジカルモンスターなんだろうか……。

 

 ファルはキークの犯罪行為の片棒を担いでいて、それを止めさせたのが正義の魔法少女スノーホワイトで、そのスノーホワイトを支えるファルの異常スペックはキークの魔改造の恩恵です。因果がぐるぐるしている。

 今となってはスノーホワイトの相棒としての印象が強く、それだけにQUEENSでの衝撃も大きかったファルですが、彼(彼女?)の成り立ちや自我形成自体にキークという魔法少女が大きく関わっているのは面白いなあと今でも思います。

 

 

ペチカ、秋の味覚を想う

 

魔法少女育成計画 circle of life」から「秋」の短編です。

 この短編好きです! restartやlimitedのこういうちょっとした幕間的瞬間の小話いっぱい読みたい。limitedは特に猶予が際どいので難しいのかもしれませんが……。

 

 restart本編中で人間としての姿が描かれたのは、4人のうち建原智香と尾野寧々の2人だけでした。なので、「秋の味覚」という共通点でもってアンナ・サリザエと九条李緒の過去がこの短編で描かれたのはすごく嬉しかったです。特にアンナ・サリザエは既存登場短編が「チェルナー・クリスマス」の一瞬という切なさだったので。

 というわけで4人の気になった描写などについて軽く振り返っていきます。

 

・九条李緒

 好き! 九条李緒はrestartにおける行動指針の変更自体が一部食と強く結びついている人なので、こうして彼女のかつての/現在の食事情を振り返られたのすごくよかった。

 「人生は楽しいし、周囲には良い人しかいない。辛く苦しいのはお話の中かテレビの向こう側だけにしかなくて、そういう可哀想な人のために寄付をしなければならない」*3という幼い九条李緒の考え方はとても……温室育ちという感じ。よくこの生まれ育ちからヤクザと取引するまでになったな……。

 かつての李緒が無頓着に「可哀想な人」と見做していたカテゴリに、今のリオネッタが属している……とリオネッタが自嘲する描写が大好きです。ペチカによっておいしい料理が「リオネッタに」振る舞われたことは、この短編を経ると一層意義深く感じられます。

 

・アンナ・サリザエ

  少なくともアンナは現在中学生以上なんですね。現地人と遜色ない日本語を使えるようになったと本人は嘯いてますが確かではない。

 彼女の魔法はもっとよく知りたいなあと思っていたので、この短編で「友達になった動物とは変身を解除しても従属関係が持続する」と思われる描写が見られたのわくわくした。虫で諜報して本体の人間を殺して魔法少女試験を勝ち抜いた那子が好きなので……。

 変身解除しても即座に魔法が解けるわけではない魔法少女は時々居ますが、那子もその枠の人だったんですねー。カラスと友達の帰国子女魔法少女とは別系統でミステリアスでいい。

 

・尾野寧々

 鶏へのネーミングセンスを考えると、「クランテイル」という魔法少女名は多分寧々の命名ではないんだろうなという……気がする。

 この「ペチカ、秋の味覚を想う」で寧々が自然に親しんでいるという描写を読んでからbreakdownのサバイバル描写を読むと、なんというか……尾野家(実家)のイメージがとんでもないことになる。とりあえず木登りは実家の山で覚えたのかな寧々……。

 

・建原智香

 まず智香というかペチカについて。遠藤先生短編解説の

 

 

 こちら! こちらについてなんですが……さらっと重要な情報が提示されたように思います。

魔法少女のコスチュームや固有魔法には元の人間の精神が影響しているのではないか」という言説はわりと古いうちからまほいく読者の中で囁かれていたのではないでしょうか? それがついに魔法少女の魔法は本人の精神や性格によって決まることが多いと言われています」というアンサーが提示されたのはわりとかなり衝撃でした。ただ人間に限らないのであれば、動物魔法少女について「本能に根差しているからか強力な魔法を持っていることが多いとされている*4という言及がbreakdownでありましたね。あれはあれで衝撃でした。

 

 個人的にその説に関してはかなり頑固な「そういう魔法少女もいるし、そうでない魔法少女もいる」派だったため、「多い」という(全ての魔法少女がそうというわけではない)非限定的な言葉が用いられたのとても……よかった!!!

 はい。このあたりのあれこれについては書くと長くなるのでこれで切り上げます。これからもそういう魔法少女もいるしそうでない魔法少女もいてほしい。

 

 

 でペチカの話の続きなんですけど、「ペチカ、秋の味覚を想う」にはペチカの魔法に関するちょっと気になる描写がありました。

 

 魔法少女のために食べ物を作る、ということが初めてだったため、一晩考えても纏まらず[……]*5

 

 ペチカ、「ラーメン双龍伝」で双龍パナースにラーメン作ってるんですよね……。

 えーと、なんやかんやでパナースのことを失念していたか、この翌日くらいにパトロールしてたら山で力尽きたパナースに遭遇したか、あの一連の行為があまりにも色々異常すぎて魔法少女のために食べ物を作る」というカテゴリに収まらなかったかのどれかなんじゃないでしょうか。個人的には3番目を推します。

 

 そして、はい! 挿絵です!! 建原智香ビジュアル公開嬉しい!!!

 初見時いや……かわいい子では!? という驚きと、なるほどビジュアルに自信が持てず憧れの野球部エースを遠巻きに見てる中学生っぽい……という納得がすごかった。ただなんというか目が淀んでないのがすごくいい。この子が至極真面目に「えーっと。それはマロングラッセだね」*6とか言ってるの面白すぎる。

 あとこれは智香の話ではないんですが、智樹がチェルナーマークの服着てるの地味にときめきでした。これどうやって調達したんだろう。

 

 

聖夜の魔法少女ども

 

  この短編については一度記事「聖夜の魔法少女ども」を読んでたら2017年が終わりそう - すふぉるつぁんどを書いたので、そこに書いた呻きや感想については割愛します。2017年……?

 ただ、この感想を書いた当時のWeb版「聖夜の魔法少女ども」と書籍版の「聖夜の魔法少女ども」とは大きく違う点が一点あるので、そこについて触れておきます。扉ページの時系列表記です!

 

Web版:魔法少女育成計画JOKERS』の物語が始まる前のお話です。

書籍版:魔法少女育成計画limited』の物語が始まる前のお話です。

 

 一応この違いを説明すると、Web版表記の場合、「聖夜の魔法少女ども」はlimited事件年度のクリスマス(limitedが11月の話なので、その来月のクリスマス)の物語と考えられます。(「JOKERSの前」というだけの表記なので一応restart年度クリスマスと解釈することもできます。無意味に1年クリスマスをすっ飛ばすことになるので考えたことありませんでしたが……)

 それが、書籍版表記では確定でrestart事件年度のクリスマスの物語になるんです。

 

 クリスマス発生年度が1年ずれることで何が起きるかというと、

 

「今回のこれ、どういう狙いがあったんです?」

「来年はより楽しいクリスマスパーティーを開催しようと思っていてね。その予行演習さ」*7

 

  この「より楽しいクリスマスパーティー」、書籍版だとlimited年度のクリスマスに開催してしまえる時間的余裕が生まれるんです……。

 先の感想記事を読んでもらえるとわかると思うんですが(そうか?)、自分は「聖夜の魔法少女ども」の最後のプフレの言葉については「でもこの後亡くなったんだよね」という要素を少なからず含んだオチだと思っていたので……こう……言葉の受け止め方が180度変わってきてしまう!! びっくりした。本当にびっくりした……。

 

 ただその、この「びっくり」はACES初版の魚山護が自分を女子大生と自称してたアレ(かなり信じ難い情報だったけどJOKERSのタイミング次第ではありえないとどうしても断言できなかったのでジタバタしてたら結局女子大生じゃなかったやつ)(2版で修正されてた)の印象とかなりかなり近いもので。

 プフレが部門パーティーを主催する立場にいるのも、シャドウゲールが地下施設を改造しているのも、restart年度に起きていると考えるには少し早い出来事だと感じはするんですが……細かい部分がぼんやりしている(プフレが人事部門長であるという言及がないなど)ため、絶対にありえないと言い切ることは自分ではできなくて。はい、困った。言い切れる人居たらぜひ教えてください。

 

 とりあえず、この時系列の驚きに関しては……ACESの経験を踏まえて、Δ2版の表記を待ってから改めて考えようと思います。なので早く増刷されてほしい。

 もし2版でも変更無いままだったら、その時は腹を決めてlimited年度に開催された「楽しいクリスマスパーティー」と、想像より圧倒的に付き合いが長かったプフみっ(語呂が最悪)について延々考えようと思います。かのまものキャンパスライフと所属学部について一日中考えてた頃のように……。

 

 

 ところでWeb版の感想として書きそこねていた部分の話なんですけど、ダークキューティーを貶されるとガチ切れする双子星キューティーアルタイルのこと考えるとひたすらそわそわします。

 スノリプの(洗脳されてない)会話がスノーホワイト育成計画以来ずっと焦らされ続けているように、ダーアルもこう……具体的な関係性が焦らされているように感じる。

 もしももしも秋の本編でダークキューティーと双子星キューティーアルタイルの両名が登場人物欄に掲載されていたらその時が一つの歴史の変わり目なんだと思います。自分の。

 

正月と亀


魔法少女育成計画 circle of life」から「冬」の短編です。

 全編メイ視点のため特殊な空気感をもったお話です。limitedのメイ視点がかなり好きだったので読んでてほくほくしました。哲学的な亀好き。

 

 初読当時は「ゴーグルと亀」から少しだけ立ち直った3人の年末年始にほのぼのとするような切なくなるような何ともいえない読後感を抱いていたんですが、今となってはbreakdownがあるので読み応えもまた変わってきますね。

「正月と亀」と比較すると、breakdown時のメイの方がより色々な知識を身に着けて人間社会を学習しているような気がします。それはそれとしてクッキー泥棒とかしてるけど。

「人間の顔、特に笑った時の顔については研究をしている」*8という独白からは、否応なしに彼女とウェディンとのやり取りを思い出します。メイの中でのlimitedの記憶は、77マナとはまた違う形でもメイの精神に影響を及ぼしていそう。この時点ではまだメイは「家族」の概念を習得してはいなかったのかな。

 

 日々何かを学んだり学ばなかったりしているメイと、limitedのトラウマを(この時点では)未だ根深く抱えつつも仕事をこなし、あとメイに謎のアドバイスをしたりしてる7753と、恐らくは7753に呼ばれるか何かして、正月早々に七谷家を訪れるマナ。マナ父は正月文化とかと無縁なんだろうか。

 この3人は現行breakdownでのっぴきならない状況下にあるのでこう、ああ……breakdownの続きが読みたくなってきますね。Δあとがき曰く連載クライマックスらしいですし。

 

 そして短編解説について。メイの文学知識が七谷家の本棚由来というのはbreakdownでなんとなく察せられたところでしたが、解説でそれが確定しました。

 

 

 文学少女気取り体育会系リケジョ!! この二つ名(?)好き。薬学に通じてるマナからメイが何か学んでたりすることもあるんでしょうか。

  そんな77マナメイがまさかのヒメハジメ挿絵化したのには笑ってしまった。77マナメイというかマナメイですが。改めて姫初め的空気感皆無なの面白すぎるな……。

 

 

 感想は以上です。だらだら書いてたら字数が膨れてたので反省します。

 追記:書きました。
mgrp.hatenablog.com

*1:魔法少女育成計画JOKERS p.41

*2:同 p.42

*3:魔法少女育成計画 episodesΔ p.88

*4:魔法少女育成計画breakdown12話 p.32

*5:魔法少女育成計画 episodesΔ p.94

*6:同 p.98

*7:同 p.120

*8:同 p.131