すふぉるつぁんど

主に遠藤浅蜊著「魔法少女育成計画」シリーズについて書き残していくブログです。

まいにち魔法少女83日目:ダークキューティー(QUEENS)

 

 本日のまいにち魔法少女です。ナンバーは7、ダークキューティーでした。

 ダークキューティー、好きです。ACESでもよっぽど好きでしたがいよいよです。がんばります。

 

 

 ダークキューティー。頼れる高戦闘力魔法少女であり、悪役であり、狂人です。彼女を示すのに非常にわかりやすいのはデリュージ視点の地の文です。引用しますと、

まともではないという自覚を持つデリュージから見てさえ、ダークキューティーは正気を失っているようにしか見えなかった。皆、プフレもみっちゃんもグラシアーネもそれを承知していながら彼女のことを放置していた。

 

 という感じ。まあダークキューティーに「悪役らしい」ことをさせたい人たちにとって、彼女が悪役に拘るのは別段気に掛ける必要もないことです。上手く手綱を取ることができさえすればの話ですが。

 きっとみっちゃんはダークキューティーを暴走させずに動かすのが上手だったんでしょうね。みっちゃん没後のグラシアーネは前巻で非常に苦戦していました。

 

 

 彼女は悪役であること、正しくは一流の悪役であることに対してどこまでも真摯であり、そして自分こそが一流の悪役であると信じて疑わない存在です。デリュージに「演出をするというのは悪役らしくない」のではないかと意地悪に問いかけられたときも(少し話は逸れますが、ここのデリュージは非常にJOKERSに居た彼女らしさを感じて嬉しくなりました。ちょっと嫌らしいことを考えられる子で、それがたまらなくかわいいんですよねデリュージ)「主人公に知られることなく演出をするのも悪役の仕事」だと自己正当化して語っています。かわいい。

 

 ダークキューティーは狂人ではありますが、しかし一つ信用のおける狂人です。自分の価値観をしっかり持っていて、ただその定規だけでもって人を判断しているのがわかるからです。ダークキューティーにとっての価値ある他者は同類たる「悪役」、もしくは、自分をいつか殺すかもしれない「主人公」の二種類だけ。

 彼女はそんな視点でデリュージを見つめていました。悪役か、主人公か、取るに足らないそれ以外か。

 

 デリュージはダークキューティーを見、ダークキューティーはデリュージを見返した。

「五分、休憩」

 デリュージを見て、何を思ったのか。それとも何も思っていなかったのか。

 

 ダークキューティーにとってのデリュージは、初めは「悪役」側でした。そう直接的に語られることはありませんでしたが、アーネがそう吹き込んだのでそちら寄りで見ていたんじゃないかなと思います。

 それが次第に変わってくる。デリュージの復讐者としての立場がぶれ、己のやっていることに迷いが生じ始めた時、ダークキューティーは静かに彼女へ問いかけます。

 

「復讐者は時として主人公にもなる。悪役にもなる。だが、どちらにもなれないまま、つまらない死に方をしてしまう者の方が圧倒的に多いのだろう。誰も語ることがないから表には出てこないというだけで、きっとそうなのだろう。デリュージ、お前は復讐者なのか。それともそうではないのか」

 

 悩めるデリュージを更に悩ませる言葉ではありますが、ダークキューティーにとってはただデリュージが何者であるかの判断を進めたいための問いかけ……だったのかな。

 彼女がその直前に語った「演出をするのも悪役の仕事」であるという発言がこの言葉に直接的に関連していると考えれば、この言葉も一流の悪役たるダークキューティーが「主人公」にやがて至るデリュージの背中を押す演出の一環だったのかもしれません。でもきっとこの段階ではまだ、ダークキューティーにとってのデリュージは「主人公」ではなかったのでしょう。

 

 QUEENSにはダークキューティーの視点が存在しておらず、この発言の意図も含め、彼女が何を思って行動しているのか――グラシアーネの死に一瞬でも心を痛めたりしたんだろうか、なんていうことは決して明かされません。まあ物知りみっちゃんの死については視点が開示されていて、みっちゃん主人公説は無いっしょ的態度だったのでグラシアーネに対してもそんな感じだと思いますたぶん。

 一人になってしまったことについては何か思ってたりするかなあ。QUEENS以後は、もう人事のご用からも解放されて完全にフリーなんでしょうかダークキューティー

 

 視点がないというのも悪役的……なのかな。全てが終わったあとのスノーホワイトにはスノーホワイトは自分が主人公であるとは思っていなかったし、彼女が悪役であるとも思っていなかった」なんて言われていますけど。危険人物にストーキングされても苦笑して流すスノーホワイトにはちょっとした精神的余裕が感じられます。こうなったスノーホワイトに対してダークキューティーがこれからどういう判定を下していくのか、QUEENS以降非常に楽しみ。

 

 

 エピローグから話をがっつり巻き戻します。

 視点を見せないまま、あくまで寡黙に、自分に下された指示を淡々と確実に遂行する。それがQUEENSでのダークキューティーでした。プフレの差し向けでプク屋敷に向かわされ、恐らくは何かしら危険な目に遭わされかかる予定だった(というか実際に遭わされかかった)マナをデリュージと共に救出。遺跡での大決戦でも命令に従ってなんやかんやと立ち振る舞い(その課程でグラシアーネを失いましたがダークキューティー本人の機動性には何ら影響なく)プフレを旗頭に遺跡内部に乗り込んでからは、プフレ、ダークキューティー、デリュージの三人体制で最深部まで一気に駆け抜けます。

 

 ここのダークキューティーの頼りになる人具合はすさまじかった……。いろんな魔法少女が遺跡を壊さないようにわりと気を遣っているのガン無視で遺跡ぶっ壊しながら犬を走らせるダークキューティーには一種の爽快感を覚えます。

 

 この三人の即席連携戦闘は、いやあ、良かった。毎巻戦闘描写がすばらしい魔法少女育成計画ではありますが、QUEENS終盤のこの三人によるスピーディな連戦もまた圧巻でした。ダークキューティーが作り出すは猟犬、鞭、ドリル、スコップ、そして虎!

 影絵の虎というのは一体どのようにして作るものなんでしょうか? プフレの目からは幾本にも見える速度で手を動かすダークキューティーは、やはり自分の魔法をよく知り、鍛錬を十分に積んだベテラン魔法少女です。

 

 

 そしてそしてのスノーホワイト戦。ダークキューティーにとっては念願ともいえる再会でありますが、しかし。

 

「あなたはスノーホワイトと戦いたかったのでは?」

「今のスノーホワイトは主人公ではない」

 いわんとすることはなんとなくわからなくもなかった。

「私がスノーホワイトを……殺してしまうかもしれませんが」

「それならそれで構わない」

「いいんですか?」

「お前も主人公だ」

 

 はい。

 はい!

 いやあ。あー。QUEENSを読んでいて、初読において一番心震えた台詞はまさしくこれです。「お前も主人公だ」

 デリュージにとって、スノーホワイトは恩義を感じこそすれ復讐対象でもなんでもありません。だからこの戦闘はデリュージの復讐にはほとんど関係のないものになるはずです。復讐者は主人公にもなるし悪役にもなる、だが復讐者になりきれずに死ぬ者の方が多い、お前はどうなんだ、と問いかけたダークキューティーは、しかし復讐者としてではない戦いに身を投じるデリュージをこそ一人の「主人公」と見なすのです。

 

 この「お前も主人公だ」は、ダークキューティーがデリュージを「認めた」ことに他ならないのですが、きっとそれはブルーベルのキャンディを断ったデリュージが悩み、苦しんでいたのを見ていたがために至った評価なんじゃないかなと思います。プク様に身を委ね、悩まない存在となったスノーホワイトをダークキューティーが「主人公ではない」と判定しているからには。

 選ぶ存在こそが魔法少女、というのは無印でスノーホワイトが掴んだ結論でありましたが、ダークキューティーにとっては選ぶ存在こそが主人公、なのかな。多種の評価ポイントがありそうではあります。

 

 

 全てが終わり、プフレのとんでもない置き土産を押しつけられたデリュージはまた迷い、悩む立場に置かされます。

 その悩みを肯定するのがダークキューティーのこの言葉であればいいなあ。悩むことは滅茶苦茶しんどいですけど、意味不明で理解不能な悪役狂人ことダークキューティーは、あの時確かにそんなデリュージの苦しみを価値あるものと見なしたのだと。なるかな肯定……。でもデリュージにはこれからもどんどん悩んでってほしいですね。完全についでですがラズリーヌにもどんどん悩んでほしいことです。

 

 

 さて好きなイラスト。びっくりすることにダークキューティーには今回挿し絵がありません! あれだけ生きてて無い! ACESから足かけでも一枚も無い! 三部作でイラストが立ち絵以外存在しないのはダークキューティーとアーマー・アーリィの2名です。かなしい……。

 

 しかしダークキューティーのイラスト、あるといえばあります。それは「16人の日常」巻末。キューティーアルタイル&ベガの横にちょこちょこっと描かれていますちびダークキューティー。かわいい!

 キューティーアルタイル&ベガ、とんでもなくかわいい。魔王塾生こと双子星キューティーアルタイルとダークキューティーの因縁(ダークキューティーが見つけた一番最初の主人公ってどう考えてもアルベガの二人ですし、この二人とまともな決着を迎えなかったせいでいろいろねじくれてしまったダークキューティーです)がいつか描かれるといいなあ。パナっち曰くアルタイルも相当アレな子っぽさがあります。

 

 

 続いて好きなセリフ。もはや言うまでもなく「お前も主人公だ」ですが、まあ上で思いっきり書いたので別を挙げるなら

 

「主人公ならどうするかを考えている。大きな目的のためには親しい者の仇であっても行動を共にするべきか、激情にかられて利益も不利益もなく飛びかかってしまうのか。どちらがより主人公に相応しい行動なのか。後者だとすれば悪役はむしろ殺されるわけにはいかない。軽くあしらって力の差を見せつけ、その程度で私を殺そうとは片腹痛いくらいいってやるべきか。殺したければもっと強くなれ、強くなってからもう一度来い、と暗に大きな目的を果たしてからの再戦を申し出れば収まるべきところに収まったといえるが、それは再戦が果たされないという前段階ではないか」

 

の長台詞ですかね。はい狂気。というか長すぎる。この直前のダークキューティー「顔の筋肉が僅かに盛り上がり、頬から口元にかけて力が入った」という意味不明な笑顔(笑顔ですよね……?)の表現も合わせて好きです。

 

 

以上。大好きですダークキューティー。「魔法少女というのは一人一人が主人公」という言葉が非常に好きな自分としては、彼女も悪役でありながら一人の主人公のように思えました。明日もがんばります。