すふぉるつぁんど

主に遠藤浅蜊著「魔法少女育成計画」シリーズについて書き残していくブログです。

まいにち魔法少女102日目:カナ

 

 本日のまいにち魔法少女です。ナンバーは8。カナでした。

 カナ……! カナは書きたいことがたくさんある! 勢い余ってちょっと文字数がはみ出てしまいましたが疑惑が疑惑なので仕方ない。以下感想。

 

 

 カナ。2班所属の、カスパ派が送り込んだ更生プログラム囚人魔法少女……ということになっています。なっていますが、

 

 ハルナは右の二の腕に手を当てて数度揉み、次は右肩に手を回して揉み解した。強張っている。緊張によるものだ。探り合いと呼べるようなものではなかった。敵対的な意思が見えていたというわけでもない。立場上魔法少女の相手には慣れている。にも関わらずハルナの肉体は緊張している。左の二の腕、左肩と順に解し、最後に長い耳を揉んだ。 *1

 

 今までに無いことだった。精神的な圧力は異常だったといっていい。殺されると思ったとか、そこまでいかずとも明確な害意を感じたとか、そういう言葉にできる身の危険ではない、感じたことのないなにか「大きなもの」があって、カナという魔法少女がそこにいるというだけで圧迫感があった。 *2

 

 馬鹿にしているのか、それとも本気でいっているのか、とにかく正気を失っているのか、カルコロにはわからなかった。ただただ強烈な圧を感じた。[……] *3

 

 これらの魔法使い視点で際立つ明らかな異常存在としての圧、また何度も強調される「銀髪」の描写、その他諸々から、QUEENSにて吉岡が使役(?)していたラツムカナホノメノカミこそが記憶を失う前のカナの姿……なのではないかと言われています。また、

 

「見覚えのある術式だ。契約か」
 ハルナは小さく顎を引いた。間違ってはいない。ごく簡易的な契約の魔法だ。魔法使いとしての才能がより劣った相手に使うための魔法であり、上役が部下を縛る際に多用される。用途は限られてくるが、それだけ消耗は少なく使いやすい。*4

 

 ここで確かに結んだはずの「契約」なんですが……。

 カナがメピスにハルナから受け取った情報について明かさないのは、「ハルナに対する誠意」 *5 のためと言っているんですよね。契約に縛られてていれば誠意とかいう問題ではないはずなのに、そこを障害にしている様子がない。

 この描写について、カナを契約で縛れていないと考えた場合、それはカナがハルナと比較して「魔法使いとしての才能がより劣った相手ではない」ことを示唆しているんじゃないだろうかと思います。もし仮にカナに三賢人が降りてたら、この契約が効き目を示すはずもありません。

 

 自分は初読時、カナはラツム派現身別号機とか……? なんてことを漠然と想像してたんですけど、ラツム「カナ」ホノメノカミという名前in名前ギミック可能性を知ってしまうともう……それは……ラツムだろうと思ってしまう!!

 「カナ」という魔法少女名、シンプルに人名として読める上に問いかけの魔法とも掛かってて素敵な名前なのに、そこから更に真名とも掛かってたりしたらちょっと芸術点が高すぎる。吉岡のネーミングセンスめっちゃいい(cf.魔法少女狩り、スタンチッカ)ので吉岡命名だと思います。

 

 

 カナ=ラツムカナホノメノカミ説を考えていくとして、ではなぜ別に囚人でもないラツムカナホノメノカミが監獄に居たのか。他の派閥がカスパ派が囚人を寄越したと認識しているため、プロローグのあの場は確かに監獄だったのでしょう。

 また、カナが見た「オブジェ」めいて拘束された魔法少女は何者だったのか。ぱっと見ではQUEENSにおけるラツムカナホノメノカミの境遇と似ていますが、動作の端々から感じる意思ある存在っぽさ(?)はQUEENSでのラツム的ではない。カナがラツムカナホノメノカミだとしたら、彼女は一体何者なのか。

 

 これは想像というか妄想なんですが、この鎖で縛られた彼女こそが元々囚人で、それを非囚人であったラツムと取り替えたのではないでしょうか。吉岡がわざわざ監獄にラツム風存在を持っていった理由がわからなかったので、そんな説を考えました。まあ中身が魔法少女な時点で意味のつけようは万通りあるんですが。

 鎖で縛り記憶を奪ったラツムを監獄に持っていって、容器に入っていた囚人を取り出して、ラツムを容器に入れて、カナとして取り出し、2年F組に行ってもらう。なんでそんな川渡りパズルみたいなことをするのかと言われれば……少なくとも目眩ましにはなるんじゃないだろうか。

 カスパ派が「最優秀生徒となるであろう人材を送る」 *6 と謳いながら囚人を突っ込んできて、まさかそれが現身とは思わなくないですか? 大胆すぎる二重偽装……みたいな。推測すぎて万事フワフワした話です。あとはしれっと囚人魔法少女をすり替え脱獄させられるので一石二鳥感がある。フレデリカがカナとの交換で何を引っ張り出すかと考えた時(そろそろ妄想にしても不確かな話になってくるんですが)、フレデリカの縁者の犯罪者で名前がぱっと出てくるのってキークくらいなんですよね。精神崩壊のあと彼女がちゃんと収監されてるかどうかはともかく。キークまで復活すると黒が再生怪人シリーズみたいになってしまう。

 

 オブジェとラツムカナホノメノカミ収監に関しては謎ばかりですが、吉岡があの「ラツムカナホノメノカミ」を2年F組に組み込ませたがる意味については多少の見当が付けられるように思います。魔法少女学級のサブプランと、魔法少女育成計画QUEENSの電子版あとがきのアレです。

 ただ作中にない情報で見当をつけるのあんまりやりたくないので……うーん。これに関する言及作中に欲しかったな……。まあとりあえずここについては考えるのをストップしています。次巻で色々明らかになるのを待ちます。

 

 

 カナ=ラツムカナホノメノカミ説はそこそこにして、カナ本人の話をします。彼女の魅力として、まず冒頭に書いた、謎めいた「大きなもの」としての圧があります。

 彼女の固有魔法は、「質問をすれば答えがわかるよ」。存在感に見合った強力な魔法です。同時に、カナ視点やカナの会話を追っていくだけで楽しい素敵な魔法です。カナが常時変身しているので日常パート全てに魔法要素が重なってきて、初読時はそれがとても楽しかった。

 カナ本人が自制しているので発動回数自体は少ないですが、彼女が「問い」を重ねればその魔法が猛威を振るうことは明らかです。プライバシー皆無。F組の転校生は大体プライバシー無視してきますね。

 

 そんな強大さを匂わせている上で、カナの大きな魅力として挙げられるのが、なんとも「大きなもの」らしからぬ自我です。1日無事に学校を終えたことで大得意になってたり、その後メピスに突っかかられてちょっと凹んでたり。動作の端々に奇妙なおかしみがある。「大間抜け」というクミクミの評価はあながち外れてもいないような。猛烈な天然ボケというか……そんな言葉では収まらないというか……。

 それでもなんというか、ただおとぼけなだけではなく、魔法使いの世界側の知識に通じていたり、かつて詩集を好んでいたり、メピスの尋問に対して絶妙なところでは白を切って切り抜けたり、グリムハートホムンクルスを前に踏み止まったり。カナは随所にそういった知性も滲み出ているのがいいですね。

 

 

 明らかな存在の格と、それにしては親しみやすい妙ちきりんさ。そしてそれに加えてカナの魅力をカナ固有のものたらしめている要素はもう一つ、メピス・フェレスを介した漫画との出会いがあります。

 漫画の話については主にメピスの回でしますが、この漫画を通じてカナとメピスが友情を育んでいく展開は、自分にとって「黒」の大きな見どころの一つでした。

 

 どういう正体にせよ、かつて拘束され不自由を強いられていたカナが、吉岡により人間/魔法少女に混ざって学生を始め、それによって知った漫画という文化。

 「カナ」にならなければ知らなかったであろう喜びは、もしこの先で仮に彼女が「自分がカナではなかったことを思い出す」ようなことがあったとしても、何らかの形でカナ(カナではない)の中に残されていればいいなと……今から……思っています。感傷の種として。

 ……こういう緊張感ってかなりブルーベル・キャンディとラピス・ラズリーヌに感じたものに近いんですが、カナはより非人間なので……また気持ちを新たに怖い。人格が変わるのはいつでも怖いです。

 でも少なくとも記憶を一部失う以前のカナも多分あのおもしろ人格自体は引き継いでそうなのでそこは怖くない。人格、最終的に何がどうなったとしても楽しげにしてるなら良いので……楽しげに……。(怖くないといえば繋がりの余談なんですが、カナがベラ・レイスホムンクルス「死体から無念の思いを集めて物質化する」魔法に囚われたときの怖くなさすごかったです。カナじゃなければ滅茶苦茶怖かったと思う。更に話が逸れますがベラ・レイスって死にアクセスできるレア魔法少女なんだろうか。)

 

 

 さて好きなセリフについて。色々あるんですが、やっぱり「喧嘩上等」 *7 が単純に格好良くて好き。「恐悦至極」 *8 もいい。カナの言いたい漫画のセリフコーナー好きです。これからどんどんレパートリー増えてったりするのかな。

 今更ですがカナってトップスピード以来の俺女なんですよね。実に7年ぶりに俺女が出てきたからには変身前にまつわる何らかの意味があるのかどうか。一人称とヤンキー趣味が合体してていい。カナのSDイラストがヤンキー最終形態だったのに気付いた時は笑ってしまった。メピスがヤンキーらしく(?)結んであげたりしたんでしょうか。滅茶苦茶いいな。

 

 好きなちょっとした描写について。全然ちょっとした描写ではないんですが、体育館のコートラインが理解できないあたりに端を発する、現代に慣れてない描写の数々が好きです。人外視点。「金属光沢で輝く袋がパンパンに膨らんでいる」 *9 という説明が推定ポテチの袋を指してるって全然わからなかった。

 

 以上。カナのパーソナルスペースの近さが好きです。また明日。

 

 

*1:遠藤浅蜊;マルイノ.魔法少女育成計画「黒(ブラック)」(このライトノベルがすごい!文庫)(Kindleの位置No.1209-1212).宝島社.Kindle版.

*2:同(Kindleの位置No.1095-1098).

*3:同(Kindleの位置No.1705-1706).

*4:同(Kindleの位置No.1185-1188).

*5:同(Kindleの位置No.2113).

*6:同(Kindleの位置No.510).

*7:同(Kindleの位置No.3184).

*8:同(Kindleの位置No.3316).

*9:同(Kindleの位置No.2048).