すふぉるつぁんど

主に遠藤浅蜊著「魔法少女育成計画」シリーズについて書き残していくブログです。

まいにち魔法少女111日目:メピス・フェレス

 

 本日のまいにち魔法少女です。ナンバーは6。メピス・フェレスでした。

 第3回まいにち魔法少女はメピスで最後です。以下感想。

 

 

 メピス・フェレス。2班班長の近衛隊所属魔法少女です。

 名前はメフィストフェレスのもじり、背中に翼、尻尾は髪から、魔法も「甘い言葉で堕落させちゃうよ」と堂々悪魔的。SDイラストの表情も実に小悪魔チックです。これはもうあざとく周囲を振り回すイイ性格の女子中学生なんだろうなと……読む前は……思っていたんですが。

 あのビジュアルからあの中身が出てくるなんて誰も思わないじゃないですか!? というわけでメピス・フェレス/佐山楓子の性格は……いかついです! 幼馴染のテティ・グットニーギルから校長のハルナ・ミディ・メレンにまで噛みつく荒くれ少女。

 

 今でこそ変身前の外見は文学少女的ひっつめ黒髪眼鏡スタイルですが、2年F組に入学前は「髪の色を金に染め、眉は殆ど無いというクラシカルなヤンキーのスタイル *1 」だった様子。その状態も見てみたい……。

 ヤンキースタイルを入学前に改める点においては真面目なんですよねメピス。その結果、変身前も変身後もビジュアルと性格に猛烈なギャップが発生するのはすごく……刺激的でした。まほいく魔法少女、外見と中身のギャップに驚くことが頻繁にあるんですが、その中でもメピスはよっぽどだった。

 

 

 さて、メピス・フェレスについて書く……前に、「黒」の中で最も印象深かったセリフについて。

 

「来な。あたしが教えてやる。漫画という文化<カルチャー>の奥深さを」

「そこまで大仰な話なのだろうか」

「話なのさ。漫画を知らないなんて人生の八割損してるよ」

「読み物だけで八割は大き過ぎるように思える」

「世界が変わるんだよ。単に楽しいってだけの話じゃないんだ。クソみたいな世界の中で誰も彼も死んじまえって呪い続けてたようなやつがさ、ほんのちょっとだけでも生きることが楽しくなってさ、この漫画の続きを読むまでは死ねないなんて思うようになってさ、今週のあれすげー面白かったとかそういう話ができる相手も増えてさ、そりゃもう八割変わってるじゃん。いや八割どころじゃないかもしれない。あんたの人生はどんなもんだったかなんて知らないけど、たぶんそんなに幸せでもなかったでしょ、ムショにいたんだし」 *2 

 

 好きです。改めていいセリフだ……。

 このメピス・フェレスの長台詞が深く刺さったのは、まず第一に「魔法少女育成計画」シリーズが自分の世界を変えた作品だったからでしょう。

 特に大言壮語というわけでもなく、魔法少女育成計画を読んで自分の世界は変わりました。そもそもこうして感想ブログを楽しく書いているところから、過去の自分からすればありえないようなことですし……。他にも数え上げればきりがないような世界の変化がありました。

「世界が変わるんだよ」の具体例が自分の中に間違いないものとして一つあったからこそ、メピスのこのセリフが強く胸に残ったのだろうなと思います。

 

 そしてこのセリフを読んで発生した感情が単なる共感に留まらなかったのは、やはり遠藤先生の言葉運びの見事さがあります。「世界が変わる」喜びがメピス・フェレスの言語野を経由して表現されている。それが……本当に本当に良かった。

 メピスの言葉がメピスの言葉として美しいからこそ、読者が知る余地もない、メピスだけの「世界が変わる」経験も実在性を帯びて立ち上がってきます。そこには単純な共感だけではなく、キャラクターの奥行き、魅力、そしてこの先のカナが漫画に惹きつけられる展開への説得力があります。

 自分の世界を変えた作品の魅力を、文化との出会いで世界が変わるというセリフで再度実感できるのよかった……。改めて遠藤先生の文章が好きです。何度やっても好きの説明が下手でよくないですが……。

 

 

 さて具体的な漫画の話続き。メピスが漫画作品として例に上げた『ギガブラント』『ラッパ吹きの日常』『マルコシアスの血族』『ちびねこちゃん』『まるまるくん』は全部初出作品……のはず。流石魔法少女に別に思い入れがない人のラインナップだ。この辺って何か元ネタあったりするんでしょうか。

 なんやかんやあり、メピスはヤンキー漫画『屑鉄のナックルダスター』をカナに読ませて心を鷲掴みます。「いつになく緊張した面持ちでメピスがカナを見ている」「メピスの表情から緊張感が溶けて消え、喜びが姿を現す」 *3 あたりのメピスの可愛らしさすごい。

 

 ここからカナとメピス・フェレスは本当に……仲が良くなっていきます。二人の狭い部屋での鬼ごっこを読んだ時には、小さな幸せ構図すぎてもう色々すっ飛ばして辛くなってしまった。よくない。

 メピスが色々口出してカナの格好を魔改造したんだろうかとか、裏山戦後の学校がなかった5日間は二人で一緒に漫画読んで過ごしてたんだろうかとか、もう楽しい想像が尽きません。カナがいつかメピスの知らない漫画を布教するような日が来てほしい。本当に来てほしい……。

 

 

 ここまでは主に漫画とメピスとカナの話でしたが、メピスとテティの話に移ります。

 メピス・フェレスにとってのテティ・グットニーギルの関係は、

「なんかさあ、こうさあ、昔はさ、あたしが守る側だったわけ。でもさあ、魔法少女になってからはさあ、なんつうかさ、こう、向こうのがバトル的な魔法なんだよなあ」 *4 

 というセリフに集約されています。

 幼少期は自分が世話を焼いていた幼馴染が、気付けば自分の手を借りずともやっていけるようになっていて面白くない……なんていうのは、幼馴染創作もので時折見かけるような関係じゃないかなと思います。ただ、藤乃と楓子が魔法少女というかたちを得たところは、日常的な幼馴染関係変化にはない要素でした。

 

 守る/守られるという関係の終焉を異常な急激さで突きつけられた楓子は……輪をかけて非常に面白くない思いをしただろうなと思います。小規模ながらハードな体験です。本来ならば時間をかけて納得したり受容したりあるいは反抗したりしていくところを、楓子にはその時間が一切与えられなかったわけで。それは拗れる。

 度々思っていることですが、幼少期の魔法少女化って人間としての情緒発達に多大な影響を及ぼしそう。メピスやテティ個人がどのくらい魔法少女という力の影響を受けているかは不明ですが、少なくとも彼女ら二人の関係には大きな影が落ちています。

 

 それでも入学当初はまだ多少関係良好だった二人があまり関わらなくなった分岐点は、「トランプの大富豪でジョーカーをスペードで返された」事件でした。

 この騒動、かつて守る対象だったテティが(カードゲームというお遊びの場とはいえ)自分に歯向かってきたことがメピスを苛立たせたのは間違いないでしょう。

 それに加えて、佐山楓子と遠山藤乃がかつて住んでいた地域のローカルルールにはスペ3返しが無かったんじゃないだろうか……なんてことを、自分は初読時に想像していました。引っ越しで別れたテティが、自分の知らないルールでジョーカーを返してきたら、それはもうメピスは決別レベルで憤慨極まるんじゃないだろうか。まあ全部妄想なんですが。

 

 守りたかったメピスと、強くなってしまったテティ。この二人の関係はどこに行き着くか気になるものです。願わくば何かしらの満足があってほしい。中庭には行かないでほしい。

 メピスはカナ方面とテティ方面の双方向に危険可能性があり大変です。次巻が怖いので備えます。備えられませんが……。

 

 

 好きなセリフ。どうしても一つに絞るとすればやはり「世界が変わるんだよ[……]」にはなると思うんですが、上に思いっきり書いたので別のものにするとして。

 罵倒というか叫び系に限定して一つ好きなものを選ぶとすれば、「一晩中魔法使いながらネチネチチマチマ尋問すっとかさあ! あたしのしたいことじゃないんだよねえ! 個性がさあ! 向いてねーんだよ! わかっかなあ!」 *5 が好みです。勢いで喋ってるところとなんだかそれでも会話しようとしかけているところに奇妙なおかしさがある。

 このシーン近辺の「聞くな! いえないから! そんなことよりもっと暴れろよ! 囚人なんだろ!」 *6 でも強く感じることですが、勢いよく喋ってはいるものの理性が死んでいるわけではないというか、職業魔法少女的地に足のつき方をメピスにも確かに感じるのがいい。

 

 好きなちょっとした描写。これは、「右手人差し指。左手人差し指、髪の尻尾まで動員してアーデルハイトを指し示し、指差された側は居心地悪そうに「なんやねん」と呟いた。 *7 」のような、髪から生えた尻尾描写です! 尻尾付き魔法少女の尻尾が動いてるところ常に好き。

 漫画の話が先行した結果完全に書きそびれましたがメピスのビジュアルが大好きです。舌ピアスシースルー魔法少女……良い。現実的に圧が強い。シースルーから見える肌に入った蛇模様は入れ墨なんでしょうか。

 

 

 以上。メピス・フェレスをもって、「黒」の登場人物欄キャラクターを対象にした第三回まいにち魔法少女は終了です。楽しかった。

 今回も、まいにちを終えた上での感想や、「黒」全体を通しての感想などを明日に書こうと思います。では最後になりますがまた明日。

 

 

*1:遠藤浅蜊;マルイノ.魔法少女育成計画「黒(ブラック)」(このライトノベルがすごい!文庫)(Kindleの位置No.612).宝島社.Kindle版.

*2:同(Kindleの位置No.2690-2698).

*3:同(Kindleの位置No.2737-2742).

*4:同(Kindleの位置No.2816-2618).

*5:同(Kindleの位置No.2582-2581).

*6:同(Kindleの位置No.2610-2612).

*7:同(Kindleの位置No.2363-2365).