すふぉるつぁんど

主に遠藤浅蜊著「魔法少女育成計画」シリーズについて書き残していくブログです。

森の音楽家クラムベリー編 「森の音楽家クラムベリー外伝 魔法少女育成計画 unripe duet」感想(その2)

 

 朗読劇からだいぶ経ちましたが、未だに朗読劇で得たエネルギーとrestartアニメ化の高揚でのぼせているような気分です。そんな感じでつらつら朗読劇の、というか朗読劇に登場した魔法少女に関する感想を書いていきます。

 今回はこの朗読劇の主演たる「森の音楽家クラムベリー」について。演じるのは緒方恵美さん。初登場シリーズは「魔法少女育成計画」(通称無印)。今回の朗読劇でなんと魔法少女歴20年以上ということが判明した想像以上の大ベテラン魔法少女です。今回の朗読劇では描き下ろしイラストや新規SDも描かれ、少しあどけない表情のクラムベリーを見ることができました。以下感想。

 

 

 実はクラムベリーについては以前に二度感想エントリを書いてます。これ(まいにち魔法少女66日目:森の音楽家クラムベリー - すふぉるつぁんど)とこれ(まいにち魔法少女号外:森の音楽家クラムベリー(二回目) - すふぉるつぁんど)。

 上記では長々書いてるので要約すると、クラムベリーの戦闘狂でやりたい放題で大人っぽいようでいて結構直情的な精神性(大好き)のルーツは、彼女が受けた魔法少女試験にこそあり、クラムベリーはそこから時が止まってしまっているのではないか? だからこそ彼女は試験官という立場でありながらチャレンジャーとしての気質を持ち続け、だからこそスイムスイムの人間態、坂凪綾名を見た時動揺し、攻撃を躊躇してしまったのではないか? というふうに考えていたんですね。

 今回のunripe duetは、そういったクラムベリーの過去や内面への答え合わせと言えるようなものだったと思います。「なるほどな」と思うこともあれば、「そうだったの!?」とびっくりするような情報もありました。

 

 まずびっくりしたのはクラムベリーが推定29歳ということ。29歳!? 「魔王を討伐したいから」とのタイムラグがあることを考慮してもそんなに長いこと血祭り魔法少女試験してたんですか!? 魔法の国いくらなんでもガバガバ過ぎないか。クラムベリーもよくもまあ飽きずに(そしてワンチャン一撃必殺魔法とかご無体高レア魔法にぶちのめされずに)試験官やってたな……。

 

 そして次のびっくりはクラムベリーの誕生日が3月31日ということ。それはありとあらゆる同年代に対して遅れを取った早生まれです。そして誕生日が公開されていてお祝いできるのは魔法少女育成計画において激レア現象です。すごい

 クラムベリーが魔法少女になる前、蔵野苺という一人の少女だった頃から、周囲のほぼ全てに「悔しい」という感情を抱いていた……というのは印象的でありつつ、クラムベリーがなぜ無印に至るまで20年間挑戦者であり続けたのかという部分の納得に繋がっていたように思います。魔法少女になる前から「そう」だったんだ……。

 

 

 まず苺/クラムベリーにとっては唯一「悔しい」以外の感情を持つ対象であった其宮桃ことミーヤ・オクターブについて。そうはいっても、苺は桃に対して「悔しい」「勝ちたい」という気持ちはきっともっていたはずです(だから桃に身長で勝った時興奮していたわけで(ここのクラムベリーがデカさで優位取るのチェルナーとほぼ同じ土俵に立っててかわいい)。それなのに、あの事件の日に、ミーヤ・オクターブはクラムベリーを守って死んでしまった。それはある種の勝ち逃げです。

 魔法少女における執着していた対象にリベンジを果たせず死別すると大変拗れる例は枚挙に暇がなく、実はクラムベリーもその一人だった……のではないだろうか。原作小説だと魔法少女試験でのクラムベリーはミーヤ・オクターブに大きく遅れを取っていたことが描写されており、そんなミーヤに守られる形でクラムベリーは生き残ってしまった。うう……。

 

 ミーヤとクラムベリーの関係について書くとあまりにも長くなってしまうのである程度はミーヤのエントリにも回すとして、ただそれでもとりあえずメモしておきたい感想について。

 クラムベリーって「森の音楽家と呼ばれているもののあんまり外見が音楽家してないんですが、unripe duetではミーヤとクラムベリーが二人の音楽家扱いされててちょっと面白かった。しかし実際魔法の相性はよかったですね。いやミーヤが魔法の武器で悪魔をぶん殴って爆音出す度にクラムベリーがうるさそうな顔してたあたりそのへんの相性は悪いのかもしれないが。

 

 ただ勿論クラムベリーは音を操る魔法少女なので、当然音楽にも通じるところがあります。その音要素は、桃と苺が死んだひよこを弔った際の音楽体験から来ていたのかなあとか思います。桃が楽器を演奏し、苺が歌を担当した小さな演奏会。

 ところで桃には音楽関係で「先生」がいたことが描写されており(生育環境的に音楽の先生とかだろうか?)、苺よりは明らかにしっかり音楽をやっていた様子でした。そういう音楽が好きで、ピアノの演奏が上手くできなくて本気で落ち込むような桃を見てきたからこそ、クラムベリーの固有魔法にも音が関わってきたのかなあとか。

 あと苺はおそらく環境的に楽器を習うことはなかったんじゃないだろうかと思うんですが、作中弾いていたピアノ(や、建原智香や三笠千乃の前で見せた横笛)はクラムベリーとしてたわむれに練習するようなことはあったんだろうか。それとも常に演奏するフリだけして音は魔法でチャチャっとチートしてるんだろうか。後者かな……。

 

 あと朗読劇での大詰めの悪魔戦がかなり短編「GUNS OR ROSES?」での一シーンをなぞっていたというか、時系列的にはGUNS OR ROSES?がunripe duet悪魔戦の再演だった(追記:推定GUNS OR ROSES?が朗読劇の前ですね!訂正します))ことがわかって、朗読劇初見(?)時は内心すごく盛り上がってました。あの時のクラムベリーよくまあ一見平然と重機に飛び乗ってたなあ。

 こういう、クラムベリー関連の話がunripe duet以前・以後で異常に味わい変わってて魔法少女育成計画シリーズの再読が捗ります。自分はunripe duetに備えて全巻再読してから朗読劇に臨んだので、初見時は脳裏で無印からΣまで跨いだ様々な描写やシーンがバチバチと繋がったり繋がらなかったりしてて脳が爆発しそうだった。楽しい体験でした。とっととミュージックって実は結構重要短編だったりしたのかもしれない。なんとクラムベリーが作曲業してたのが明らかになってるし……。

 

 

 さて、短編では結構いろいろエンジョイしてた節がある森の音楽家クラムベリーですが。unripe duetでは、無意識に「期待の新星」たるミーヤ・オクターブと「落ちこぼれ」たるクラムベリーと……という二人の関係を、自分の試験の候補生に重ねていたことがペチカ&カプ・チーノの試験で明らかになりました。これも驚きました!!

 スノーホワイトとコンビ組んでたラ・ピュセルをボコしに行ったのもそういう関連が!?とちょっと思いましたが……でもスノーホワイトにはそんなに興味なさそうだったな。ミーヤとの再会と別れを経てそのへんは一区切り付いたのかもしれない。いやスイムスイムへのトドメを躊躇ったあたり全然区切りはついてなかったんですが……。

 

 しかし、ほんの一瞬、コンマ一秒の半分の半分もないくらいの短い時間ではあるが、躊躇した。戦闘狂のクラムベリーは、敵の強さや能力には興味を持っていたものの、正体に関してはまったく無頓着で、それが裏目に出た。高い評価を与えていた魔法少女がこんなにも幼い少女だったことが、クラムベリーを戸惑わせた。

 躊躇はほんの一瞬だったが、攻撃対象の幼さにほんの一瞬躊躇したということを自覚し、クラムベリーは動揺した。 *1

 

 クラムベリーが死ぬ直接的な要因となったこの「躊躇」。今までこれは、かつての「蔵野苺と悪魔」と現在の「坂凪綾名とクラムベリー」という構図が1対となってしまったからこその躊躇だと思っていたのですが……。

 ここにきて、過去に自分が助けることができなかった「其宮桃と悪魔」のビジョンが、そして現在の綾名と桃・悪魔とクラムベリーの配役がダブる形で「其宮桃とクラムベリー」という連想に繋がり、それもまた彼女を動揺させた……とも考えられるようになったと思います。

 

 ここの躊躇に関してはどう読んでもいい、どう読んでも楽しい部分だと思います。無印におけるスイムスイムは間違いなく(デスゲーム的な意味で)「期待の新星」でした。そして無印における「落ちこぼれ」の最たるたまにトドメを刺されるクラムベリー、うおお……。楽しいな無印……! 

 

 クラムベリーなんて今までいくらでも小学生魔法少女を見てきただろうに、なんで今さら坂凪綾名にびっくりしたんだろう?(スイムスイムが優秀すぎるにしても)……という理由付けも、今回のunripe duetで深められていたように思います。自分の試験周りのことまるっとぼんやり忘れてて20年近くそのままだったけどペチカ試験で急に思い出したというのは結構パワー的解決手段でちょっと笑ってはしまったんですが。

 unripe duetを観劇/読了したあとだと、クラムベリーの「相手が強いことは大前提だ。相手の命を奪うという共通の目的を持ち、文字通り命を賭して行為に向かう。その時だけは一人ではない *2」という独白も全然味が違ってて面白い。その時だけは一人ではない。クラムベリーとミーヤのタッグが幻のように現れては消えた一夜のことを何度も思い返してしまう。

 

 

 ちょっと話が逸れました。無印の話に戻ります。unripe duetを経た無印、面白いんだ……! 魔法少女育成計画無印こと、森の音楽家クラムベリー最後の試験。それはunripe duetから約半年後の物語です。半年後って……かなり近い!

 そう、クラムベリーはミーヤ・オクターブと出会い、別れ、それでも殺し合いを主催するのです。ミーヤを看取って自分の応急処置しか間に合わなかったあの日から約半年に、彼女は試験をどうしても開きたくて魔法を駆使しN市にやってきたパレットを煙に巻いたり、ウィンタープリズンと殴り合ってニコニコしたりするのです。試験がやりたい人すぎる!

 

 ミーヤと出会ったからと言ってクラムベリーは止まらなかった。自分の行いを後悔して道を改めるにはあまりにも遅かったし、それをしようとしてくれたであろうミーヤはもういなくなってしまった。だからクラムベリーは止まれない。自分が「こうなってしまった」、どうしようもない存在であることを強く自覚した上でもう一度、森の音楽家クラムベリーは殺し合いの幕を開きます。そうするしかなかったとも言えますし、そうしたかったとも言えると思います。

 悲痛な生い立ちだろうが、自分の過去に取り憑かれていようが、森の音楽家クラムベリーという魔法少女が七面倒臭い業務をファヴに丸投げしつつ、それでも試験官としてのノウハウは頭に叩き込まれている程度にはちゃんと試験官していたのは、間違いなく魔法少女試験に対するそれくらいの熱意があったからだろうと自分は思います。

 

 unripe duetでの「話したいことはたくさんあった。そう思ったが、話せることなどなにもなかったのだと思い出した」*3 という一節自分はこの独白が朗読劇版unripe duetの中で一番好きです!)にはクラムベリーのやってきたことの虚しさが詰まっていますが、だからといって本当にただ「虚しい」一色だけではなかっただろう、と自分は思います。

 だってウィンタープリズンと殴り合ってる時のクラムベリーが楽しそうすぎる……!

 

ヴェス・ウィンタープリズンはかつてない強敵だった。シスターナナの魔法で援護を受けているとはいえ、格闘戦でクラムベリーと渡り合った。自分の全力を使って戦える相手を前に、喜びが湧き起こり、脳の奥のあたりが光り輝いたような気がした。それは恋する乙女の感情に似ていた。恋する乙女そのものかもしれない。 *4

 

 いや……ミーヤとの壮絶な死別(二度目)を経た半年後にこんなまっすぐ楽しそうなのが本当にすごい。というかunripe duetから半年で無印を開催するの、流石に殺し合いのモチベが高すぎる! なんでそうデスゲームに前向きなんだ。生涯挑戦者だな……本当にすごい……。

 いや改めてすごいな。unripe duetって自分だったら軽く1年位は寝込みそうな精神的負担大のイベントだったと思いますが、クラムベリーは全然元気に暴れていた。そして死んでしまった。ああ~~……。

 

 

 うーんunripe duetを経て森の音楽家クラムベリーのことがまた好きになってしまった。そりゃピティ・フレデリカも執着するよなというか。

 魔王パムの言葉を借りるなら、クラムベリーは間違いなく「真剣」で、真剣に魔法少女試験を繰り返していて、そしてどういう内容だろうが真剣なものには価値が宿ると今の自分は思っています。だからこそクラムベリーに惹かれてしまうのかなあとか。いや単にちょっと頓痴気に片足突っ込んだ塩梅が楽しすぎるというのもある。

 

 フレデリカはクラムベリーとミーヤの関係を知ってた上で気に入ってたのかな。もしかしたらミーヤ&テルミ・ドール&クラムベリーの壮絶な一戦も後方水晶越しに視聴してたのかもしれません。してたらちょっとズルだな……。

 

 そんな感じで、ちょっと話が逸脱しすぎてあんまり締まりませんが森の音楽家クラムベリーについてはこのくらいで。

 ダラダラ書いてしまって想定より長いエントリになってしまった……。いやあ楽しい朗読劇だったと改めてしみじみ思いました。ではまた次回。

 

*1:遠藤浅蜊.魔法少女育成計画【電子版あとがき付】(このライトノベルがすごい!文庫)(p.234).宝島社.Kindle版.

*2:遠藤浅蜊. 魔法少女育成計画【電子版あとがき付】 (このライトノベルがすごい!文庫) (p.117). 宝島社. Kindle 版.

*3:原作遠藤浅蜊.脚本吉岡たかを. 森の音楽家クラムベリー外伝 魔法少女育成計画 unripe duet台本 (p.131-132)オッドエンタテインメント

*4:遠藤浅蜊. 魔法少女育成計画【電子版あとがき付】 (このライトノベルがすごい!文庫) (p.116). 宝島社. Kindle 版.