すふぉるつぁんど

主に遠藤浅蜊著「魔法少女育成計画」シリーズについて書き残していくブログです。

ミーヤ・オクターブ編 「森の音楽家クラムベリー外伝 魔法少女育成計画 unripe duet」感想(その3)

 

 朗読劇のアーカイブ公開は終わりましたが感想は続きます! このペースだとここからまだ余裕で1ヶ月以上は朗読劇反芻してるだろうなと思う。でかい牛かな?

 今回はunripe duet初登場魔法少女の一人たるミーヤ・オクターブについて。メインキャラクターの一人ですね。以下感想。

 

 

 ミーヤ・オクターブ。人間態名は其宮桃。衝撃の、本当に衝撃の、本当に本当に衝撃の「一度死んで、蘇った」魔法少女です。死んで蘇ったといえばドリーミィ☆チェルシーもそうと言えますがあれは死にたてホヤホヤだったのでギリ誤差としても、ミーヤは死んでから20年経ってから蘇生されています。言い逃れようなく蘇っています。これはとんでもないことです! そのあたりについてはミーヤそのものの話とはずれてしまうので後に書くとして。

 

 ミーヤはunripe duetまでほぼ存在の影も見せなかった(クラムベリーの試験にクラスメイトが参加していたという無印でのモブと同等の表現のみ)魔法少女でしたが、非常に……魅力的な魔法少女でした!!

 まずビジュアルが良い。先んじて「音楽家」と呼ばれていた森の音楽家クラムベリーは、別にビジュアルで実際そんな音楽家してはない薔薇まみれハイレグ金髪エルフなんですが、それに対してミーヤは紫色ベースの夢の中からやってきたような淡い配色で、なおかつ相対的に音楽家っぽいビジュアルをしています。額にはヘ音記号のマークが付いてますし音楽家です。それくらいか……? SDイラストの右手には殴打武器ハンドベルを持ってるし。そういえば演者の東山奈央さんも首元にト音記号のアクセサリーを付けていたと思います。(余談:東山奈央さんの朗読としての声の演技のみならず表情や目線、首を振ったり足を揺らして地団駄を踏んだりといった細かい挙動、そしてなおかつ一時も弛まず、公演の回を追うごとに研ぎ澄まされていくような恐ろしいまでの強度ががミーヤのかわいらしく強いイメージを補強していたように思います。いいもの見たな~)

 

 

 そんなビジュアルが華やかなミーヤの内面は、生前9歳という年齢なだけあって明るくて快活で単純……なところもある……のですが、同時に結構スれてて世渡り上手な子でもあります。

 そもそも自己評価も優秀だし魔法少女試験でも推定トップの好成績、その上に腕っぷしも強いし楽器も習っていて色々ハイスペックなので、9歳にあるまじき賢しさを見せたりもする。すごい。ミーヤがアニメ化魔法少女であるところのマジカルデイジーと引き合わされ、あんまり興味のない彼女のサインで嬉しそうに振る舞って見せるあたりは、子供の処世術をひしひしと感じさせられる。

 そういえば姫河小雪さんも愛するところのひよこちゃんがなんと無印から20年前に既にあったアニメなことにビビりましたが、20年前のアニメなんて現実世界で言う明日のナージャとかプリンセスチュチュとかですからね(怖すぎる情報)。そう考えると姫河さんとか小山内馨さんがひよこちゃん推しててもそんなに驚かない。

 

 彼女の子どもらしい屈託のなさと子供らしからぬ聡さ両方が楽しめるのが、もうひとりの新規メインキャラクターたるテルミ・ドールとの掛け合いです。二人のやり取りは朗読劇の時点で(音声としての魅力も大いにあり)よっぽど楽しいのですが、原作小説版だとより一層仲良さげな感があり尚更苦しい良い。

 ミーヤがテルミを指して「はあ……心配しなくていいです。その人はいつも大丈夫じゃないんで」*1 とか辛辣なこと言ってたりする。肘でどついたりする。駄菓子を一緒に食べてたりもする。うお~~仲が良い……。

 一週間弱という短い期間ながら、夜も朝も行動を共にしたふたりの絆を確かに感じます。子犬のワルツでぼんやりしちゃったテルミのことを蒟蒻のようだと例えるミーヤ好き。尻尾で感情の機微を察知してそうな感じ好き。

 

 

 さて、そんなミーヤ・オクターブの魅力を更に大きく底上げする要素、それは「いろんな楽器で心を震わす音色を奏でるよ」という魔法でしょう!

 この魔法……面白い!クランテイルの動物、袋井魔梨華の植物に通じる、一ジャンルでの多様性に溢れまくった魔法の使い手です。まあその上記二人と比べると「楽器」というジャンルは文字通り桁違いに幅は少ないんですが、その代わりに「心を震わす」という楽器だからこそと言える特殊効果を有しており、それによって精神作用による搦手的な活用+楽器の形状や質量による物理的な力押しができるかなり柔軟な魔法となっています。

 

 ミーヤは楽器を物理的に利用することについて「あくまでも応用」とは言っていますが、それでも原作小説ではVS袋井魔梨華戦にてパイプオルガンを利用して朗読劇ver以上の善戦を見せており、弱冠9歳で魔法少女歴も数日程度にしてここまで魔法を展開してみせた才能には驚くばかりです。

 実験場で蘇生された時点である程度魔法や腕力には強化改造が入っていると考えるべきですが、この発想力・応用力自体は本人由来のものなんでしょうか。だとしたら末恐ろしいなあ。テルミ・ドールからは戦闘経験の乏しさを欠点として指摘されていましたが、逆を言えば戦闘経験を積めば更に伸びただろうということです。怖い……!

 

 ミーヤが演奏する楽器は単に音を叩きつけるだけではない。命を縣けた本気の本気で太陽の歌を演奏すれば、あるはずのない太陽をそこに感じてしまう。夏真っ盛り、一番暑い季節の太陽。燦々と照り輝いている。普段なら汗だくで「嫌だ」「暑いの嫌い」と愚痴をいうけれど、今は違う。

[……]

 ミーヤはキーボードに指を走らせ、胸の中の空気を全部吐き出し、全力で吹き鳴らした。クラムベリーがその音を更に大きくしてくれる。二人のデュエットだ。*2

 

 ここ本当に好き。ミーヤの魔法、曲により発生したイメージをそれを共有していない他人にすら伝播させる力があるの地味に恐ろしい。結構なポテンシャルの高さがある魔法だろうなと容易に想像がつきます。

 同じ楽器系魔法の使い手であるトットポップが「実体のある音符を作り出す」という界隈屈指のポテンシャルの低さであるだけに差が凄まじい。ただトットは固有魔法じゃない部分が魔法の本体みたいなところあるからな……。

 

 

 ここまでで結構ミーヤの魅力について書いてきましたが、ところでミーヤ・オクターブのメインテーマといえば言うまでもなく森の音楽家クラムベリーとの関係です。

 お互い家庭環境にだいぶ難があった結果、其宮桃と蔵野苺という二人は天実園で巡りあい、友だちになりました。その理由は、かつての桃が「勝つことができていないのに、なにくそと踏ん張っている *3 」、魔法少女的、主人公的資質を持っていることを理由に苺に対して敬意を持って尊重する姿勢を見せたからこそです。

 その敬意は蔵野苺に伝わり、彼女は悔しさ以外の感情を桃に持つようになりました。しかしながらそれは20年前の話。「大丈夫、なにがあっても私が苺ちゃんを守ってあげるから *4 」という言葉を後に残したまま、苺は命を落としてしまい、二人は死に別れてしまった。

 それから20年後の森の音楽家クラムベリーは試験官として優秀さを発揮しているらしく、周囲からの評価も高いようだが、それでも不穏な影はつきまとう……。そんな中で、テルミ・ドールとミーヤ・オクターブの二人は、ペチカとカプ・チーノたちの参加する試験に「突撃取材」しに行きます。

 

 その少し前のパートにて。実はそもそも魔法の国が出資している施設だったことが原作小説で発覚して引いた天実園の裏庭に植えられていた花を通じて、ミーヤはクラムベリー自身すら気付いていなかった「苺ちゃん」の存在をクラムベリーの中に見出しました。

 だからこそ、クラムベリーの試験によるダース単位の被害者たちを目にして青ざめ、苦しんでもなお、ミーヤ最後まで「森の音楽家クラムベリー」の行為を非難せず、断罪しようとはしませんでした。テルミの持っていた光る剣に貫かれ致命傷を負ったミーヤは、ただクラムベリーの中にいる苺ちゃんに対して、ペチカを守ってあげるように言い残し、止めてあげられなかったこと、一人にさせてしまったことを謝罪して息を引き取ります。

 

 いや……すごい! 最期に気にするのが見知らぬ魔法少女の安否なんだ……。かえすがえすもミーヤ・オクターブはとにかく、自分の身を顧みずに他人を救おうとする魔法少女でした。

 20年前にクラムベリーを悪魔の拳から庇い命を落とした時のように、彼女は悪魔に襲われようとしていたペチカの命を咄嗟に救いました。そしてもう一度、テルミ・ドールに殺されようとしていたクラムベリーを守ろうと躊躇なく身を投げ出しました。

 死という絶対的な不可逆体験(可逆したが)を経てなお、こうして自分の身を顧みず咄嗟に行動できるというのは……ちょっと計り知れない凄みがありました。それは彼女の、魔梨華相手にすら戦いを避けようとし、アニメ化魔法少女に憧れるような魔法少女」への信念が成したものだったのでしょうかね。

 

 

 ともあれ、ミーヤ・オクターブの活動期間は蘇生後を含めても約1週間という非常に短い(そう考えるとlimitedの人たち魔法少女として短命すぎる)ものでしたが、それでも鮮烈な輝きを残した魔法少女でした。ミーヤ居なかったらペチカあのまま死んでそうでしたし、もしかしたらunripe duetがなければクラムベリーはスイムスイムとたまも殺害し、彼女の試験官生活は無印以降も続いていたかもしれない。それ以降の物語に大いに影響している存在です。

 しかし、そんな彼女の登場における経緯には……改めて、本当に驚かされました! unripe duetでクラムベリーの過去が語られそうだなとわかった時には、てっきり過去の回想として犠牲者たるクラスメイトが登場するものだと思っていた。

 それが、無印開幕直前、あのペチカの試験に関わる形で、20年前に死んだはずの魔法少女が蘇ってやってくるとは。誰も……誰も予想できなかった展開だったのではないでしょうか?

 

 冒頭にちょっと触れましたが、ミーヤは死んで蘇った魔法少女です。そして魔法少女育成計画魔法少女が山ほど死ぬ物語で、彼女たちはあくまで蘇らないものとして命を賭して戦い、勝利し、あるいは敗北し、生き残った者は死んだ者の思いを背負い、あるいは囚われ、作品の中で思いは巡っていきます。

 それは、常に死者は蘇らないという前提があった上での話です。

 

 事故死、と聞いていたが、この様子を見るに事故死とは思えない。魔法少女になろうとしなければ、森の音楽家の試験を受けなければ、彼女はまだ生きていた。

 今はもう止めることができなかった未来の先だ。けじめはつけなければならない。 *5

 

 もしも、もしもミーヤ・オクターブの蘇生が本当に死の克服を意味していたなら。この「今」ですら、分かち難い断絶の先にある未来ではなかった。その可能性たるミーヤがテルミの目の前にいるのは、とんでもない皮肉となってしまう。

 それだけではありません。もしも完璧な死からの蘇生が技術として実現していたのなら、ドリーミィ☆チェルシーの再起はあんなにドラマチックではなかったし、死という終わりを拒否するために三賢人の現身にまで上り詰めたピティ・フレデリカはどれだけオーバースペックを求めたんだよということになってしまいます。あれだけ死を惜しまれた魔王パムも同じように蘇生機械の中に突っ込んでおけばいいよねと思います。

 

 いや当然のこととしてそうはならないためにこの技術には何らかの制約があったり、ミーヤの成功例が本来は絶対に絶対にありえないようなものだったり、もしかしたらミーヤ自身本当に蘇生されたのではなくキークが過去に作った複製品のようなものに過ぎなかったり、蘇生した風でいて実は稼働しているのはミーヤの死体を触媒にして走らせた高性能スワンプマンことホムンクルスだったりするのかもしれないな~と思うのですが、全ては想像の中でしかありません。

 そういう「この蘇生は真っ当なものではない/蘇生に再現性はない」ことを匂わせる描写は……作中には見つけられませんでした。

 

 しかしまあ一応、実験場の人は死んでいたと言っていますが、ミーヤが本当に完璧不可逆絶命していたかどうかもハッキリしてませんしね……。テルミの把握していたミーヤに関する情報は「長い間意識不明だった魔法少女が目を醒ました *6 」というものですし、ミーヤも自分が悪魔の攻撃で死亡したという明確な自覚はそれほどない(それはそうでは?)ですし。いや朗読劇パンフレットでのunripe duetあらすじには思いっ……きり「事故の犠牲者の遺体ーー残骸」とかぼかしようもなくスッパリ書いてあるのでその線は苦しいと言わざるを得ないんですが……まあ朗読劇のあらすじだし……いや……うん……。

 

 死者はけして真っ当な形では蘇りはしないというのが、魔法少女育成計画という死にまくり物語でのお約束だと自分は思っていた。……が、白までのメインストーリーの流れを汲んで、そしてunripe duetを経てみると、そうではなかったのかもしれません……し、そうではなかったわけではないのかもしれません。

 ただ、20年くらい蘇生装置で残骸を寝かせたらスノーホワイトラ・ピュセルが「本当に」再会してたり、魔王が復活してたり、デリュージがまたみんなとピュアエレメンツしてたり、シャドウゲールとプフレが一緒に笑ってるような世界が来ることを想像するのは、嬉しい、嬉しいからこそ、底が抜けるほど虚しく、恐ろしいことでした。

 今のところはミーヤ・オクターブというほんの1滴の恐ろしい可能性を薄目で見つつ、「赤」での中学生魔法少女たちがどうなるかに思いを馳せていようかなあ。どちらにせよとんでもなく気が重いな!ではまた次回。

 

*1:遠藤浅蜊. 森の音楽家クラムベリー外伝 魔法少女育成計画 unripe duet (p.86)オッドエンタテインメント

*2:遠藤浅蜊. 森の音楽家クラムベリー外伝 魔法少女育成計画 unripe duet (p.140) オッドエンタテインメント

*3:遠藤浅蜊. 森の音楽家クラムベリー外伝 魔法少女育成計画 unripe duet (p.4) オッドエンタテインメント

*4:遠藤浅蜊. 森の音楽家クラムベリー外伝 魔法少女育成計画 unripe duet (p.8) オッドエンタテインメント

*5:遠藤浅蜊. 森の音楽家クラムベリー外伝 魔法少女育成計画 unripe duet (p.143) オッドエンタテインメント

*6:遠藤浅蜊. 森の音楽家クラムベリー外伝 魔法少女育成計画 unripe duet (p.21-22) オッドエンタテインメント