すふぉるつぁんど

主に遠藤浅蜊著「魔法少女育成計画」シリーズについて書き残していくブログです。

まいにち魔法少女75日目:のっこちゃん

 

 本日のまいにち魔法少女です。ナンバーは30。のっこちゃんでした。

 のっこちゃん……。はい。がんばります。

 

 

 のっこちゃん。登場話は「魔法少女育成計画restart」。

 わりあいオーソドックスでクラシカルなメイドスタイルの魔法少女です。魔法少女の中では結構彩度がぐっと抑えられたビジュアルですね。髪色といい服といい、大人しい雰囲気です。紹介ページの立ち絵で既に困り顔で涙目という、行先不安な登場です。

 猫耳ヘッドキャップがとても可愛らしいです。爪の色は髪色と同じか、それより少し濃い感じでしょうか。同じ小学生魔法少女のスイムスイムがサイケ&サイケでバリバリ電波に攻めてきたのに対して、のっこちゃんは大人しさ、気立てのよさ、守ってあげたさ、そんな感じでごりごりと可愛らしさを積み上げてきます。どちらも素晴らしい。小学生魔法少女のデザインは毎度洗練されている気がします。

 

 彼女の魔法は「まわりの人の気分を変えられるよ」。言うに及ばず洗脳魔法です。いや厳密にいえば洗脳魔法ではないのですが、使い手たるのっこちゃんが異様なまでにこの「自分の感情を周囲の生きものに伝播させる」魔法を使いこなしているせいでもはや洗脳魔法の域に到達しています。

 

 

 というわけで(?)のっこちゃんは魔王です。武器はモップと自己暗示。周りの魔法少女はみんな殺すべき敵。ゲームから解放されれば父親に捨てられた母子二人での生活が待ち受け、そしてのっこちゃんにはお金がなく、お母さんは病気で入院中です。

 ひっどい。

 いや……これは本当に酷い。キークちゃんは小学生にこの役目与えて笑顔でいるの本当にすごいなと思う程度にのっこちゃんは苦労人です。苦労人だから、という理由で、彼女が魔王前・魔王後にやってきたことが一口に「仕方のないことだった」となるわけではないんですが……それにしても大変な境遇です。

 

 

 のっこちゃんが何故魔王をやらされているかといえば、それはクラムベリーの協力者だったからでした。いやクラムベリーの協力者ならメルヴィルだってそうだろう、と、それはそうなのですが、メルヴィルとのっこちゃんの間には大きな隔たりがあります。

 

 それは「クラムベリーの子供達」であるかどうかということ。のっこちゃんが純粋にクラムベリーの協力者であったことに対して、メルヴィルは一応、クラムベリーの子供達なんですよね。

 クラムベリーによって間違えて選定されてしまったのかもしれないけれど、もしかしたらその中にはまだ「正しい」存在が居るかもしれない、それがキークにとっての「クラムベリーの子供達」です。

 メルヴィルをその枠内に放り込んだということは、彼女にもまだ一応ギリギリかろうじて「正しく」あろうとさせるチャンスを投げてやったということです。いやクソゲーにしたかっただけかもしれない……。

 

 そんなメルヴィルに対して魔王サイドののっこちゃん。彼女に与えられた「最後のチャンス」はチャンスというにはあまりにもか細いものです。ほぼほぼ無理ゲーです。キークが存在を許すのは、

優しく、人の痛みがわかり、他人の気持ちになって考えることができる。勇敢で、でも殺し合いなんて絶対に嫌で、努力家で、知性も身体能力も優れ、正義感に満ち、愛らしい魔法少女。そんな正しい魔法少女なら、その賢明さで魔王を探し出し、打ち倒すこともできるだろう。

 そんな魔法少女です。

 もしも魔王が一人、他の魔法少女を全滅させて生き残ったとして、キークがそんな魔法少女の存在を許して野に解き放つかといえば解き放たないでしょう。明らかにそれは「正しい魔法少女」ではないのですから。

 

 詰んでる……。

 いやもしかしたら詰んでなかったのかもしれない。FANBOOKの短編「魔法少女育成計画ができるまで」の描写だったり、キークちゃんが「魔王を殺す」という表現をどうにも避けていたり、その辺りの要素から考えて、キークちゃんの「殺し合いを避ける魔法少女こそが真に正しい魔法少女だ」という理念に沿ったゴールとして、restartにおける平和的解決ルートはどこかに存在していた……のかもしれません。

 しかしのっこちゃんは、自分が犠牲になった未来、一人残される母親のことを想い。そんな平和的な(そして自殺的な)解決方法を探る道を自ら捨て、全員を殺してでも絶対に生き延びる、そちらの方向に舵を切ったので、平和的解決ルートの有無は謎のままです。いやどう考えてもそれ以外の選択肢を選びようがないだろう……。

 

 

 うーんキークはのっこちゃんに対してあまりにも冷たいんですよね。冷たい。

 こんな絶望的状況で、のっこちゃんはしかしかなりうまく立ち回っていました。のっこちゃんのやっていたことを全て並べていくと文字数が吹っ飛ぶので割愛しますが、彼女は本当に、綿密に、こつこつと、自分の足場を固めて、何が何でも生き抜くという覚悟を貫いています。

 

 のっこちゃんがここで誰にどう働きかけているのだろうか、と考えながら再読するrestartはこの上なく面白いものです。そして働き過ぎだろうという気持ちになります。作中の不自然なネガティブフィーリングはのっこちゃんが植え付けたものが多数だろうと思うので恐ろしいことです。

 時々その魔法の効果を脱したのであろう魔法少女達がふと見せる、恐らくは「何もなければ常にこうであったはずの」和やかな描写は、余りにも重たく胸に来ます。

 

 

 さてそんな自己暗示の達人たるのっこちゃん。彼女は視点持ちが多いですが、その地の文描写は簡素なものが多いです。なので少し感情移入しづらいところがあるかもしれない。

 しかしその、普段は「感情を伏せている」という性質こそが、時折のっこちゃんが漏らす感情の一端をより一層苦しく、つらく装飾しているわけで、何が言いたいかといえば心が重くなります。

 

 @娘々、ジェノサイ子、2人の墓を作ることに関して「やりたいんです」と珍しく強く言い切るのっこちゃん。

 母親に「何か心配事があったら教えてね」と言われ、林檎の皮をむく手を止めてしまうのっこちゃん。

 「もしのっこちゃんが強大な力を持つ魔法少女だったら、もうゲームは終わっていただろうか」と、ふとそんな夢を見るのっこちゃん。

 唐突に「魔王がプレイヤーの中に居る」という壮大なネタばらしをされて、動悸と息切れを抑えることが出来ないのっこちゃん。

 噴水の底を暴かれ、最早勝ちの目が一切残されていないと知り、それでも「チャンスは残っている」と、身体の震えをどうしても止められないまま、それでもなんとか不敵な笑みを作ろうとしたのっこちゃん。全ての描写が重い……。

 

 

 何をどうしても結局のところ彼女は詰んでいたような気がします。しかしのっこちゃんが身の丈以上の奮闘をしたことは確かです。

 魔王として全員を殺すことを決めた瞬間から、のっこちゃんの前には暗い道しか残されていませんでしたが、その道で彼女は最後のチャンスをもぎ取ろうと本当に頑張ったのでした。苛烈な戦いぶりだった。restartが素晴らしい作品である理由の一つとして、「魔王の強さ」は間違いなく由来しているでしょう。素晴らしい戦いぶりでした。

 

 

 はい好きなイラスト。episodes特典カードのスイムスイム&のっこちゃんイラストののっこちゃんがとても好きです。彼女の眼はすごく良い塩梅に赤色をしてると思います。小学生トリオも見たいものです。

 

 好きなセリフ。セリフ……。「ええっと……その……あのう……いくらかは手向けにしようってことになって……あのう……あとは……みんなで……その、相談して……分けました……」という非常にいいにくそうなセリフが印象的です。こんな言いにくいことをわざわざ言わせる魔法少女はきっと冷血です。

 

 以上。いい目をもった魔法少女が好きなので、好きですのっこちゃん。明日もがんばります。