すふぉるつぁんど

主に遠藤浅蜊著「魔法少女育成計画」シリーズについて書き残していくブログです。

breakdown12話感想

 

 ハッピーエイプリルフール!の記事を完全に書きそびれたので後で別枠で書きます。はーー最高のエイプリルフールでしたね!

 全員生存が平然と嘘ネタ行きになるのもびっくりだけど、たった7ページの短編であそこまで楽しいと怖いが両立するのなんなんだろう!? いやほんと楽しくて面白くて恐ろしかった……。恐しかし何より遠藤先生の文章が読めたことが幸福でした。breakdownをノリノリで書いてらっしゃるらしいの素晴らしいな。

 
 さて12話感想です。

 11話でのらぶみー恋々の引き、これからヤバいことになりますよという予告のごとき幕引きに戦々恐々としながら待ち遠しく1ヶ月を過ごしてたらなんと12話に恋々が登場しないという……こう……アア!? みたいな……ご無体な!? みたいな……。


 読了後にはそんな月刊連載ならではの気持ちで呻き転がってたんですけどそれも含めて面白かったです12話。うう今月末も待ち遠しい……。以下個々感想。

 

 

ドリーミィ☆チェルシー


「世界が変わった」という導入からグッと引きつけてくるチェルシーパート。ここ一帯を読むことで恋々の洗脳は記憶を引き継いだまま恋心から解放されるということがわかりました。それじゃあ恋々は一体どうやって「不倫によって崩壊しかかっていた家族を再生させる、遺産相続が縺れたせいでいがみ合うようになった兄弟を元通りの仲にする」(breakdown1話より)あたりの仕事をこなしてたんだろうか?チェルシーが恋心から解放後も駄目になりそうになったりしてたあたりを見るに、険悪だった関係が弓矢によって好転することは……もしかするとありそう……ですが、いやその感情は家族間のものとして相応しいのか……!?家族の絆に一家言ある恋々が良しとするならいいのかな。恋々の家族観明らかに歪んでますけど……。ネフィと同様魔法に頼らない仕事をしてたのかもしれない。多分。

 
 というわけで自分の想いに戸惑い、混乱するチェルシー。しかしメリーとのラブコメドタバタ空気はシェパーズパイくんの死から目を背けたいがための感情の動きでもあって……。そして更にそこにチェルシーにとっての「魔法少女」観が乗っかってくるのでもう大変です。


「可愛らしいドリーミィ☆チェルシーと、シェパーズパイのことを考えているドリーミィ☆チェルシーが別人のように立っている」が描写として滅茶苦茶好きです。いつものことながらこういう自我がバラけた様子に弱い。

 ここの対立は信念と情動の対立で。洗脳されてなお、自分の望む魔法少女であろうとし続けたチェルシーを一話前に読んでいるがために、この分裂はいよいよとんでもないものだとわかります。シェパーズパイのことを考えているチェルシーは激情で顔が歪んでいるんだろうか。

 


 パステルメリーの後押しもあり、「女神は強かった。チェルシーより強かった」ことをはっきりと自覚していながらもドリーミィ☆チェルシーは仇討ちへ舵を切りました。

 縁のある存在を殺され、激情に駆られて勝ちの目の薄い(と自覚している)戦いに突き進もうとした魔法少女には色々前例があります。かのピティ・フレデリカさえもそれでレイン・ポゥに殺されかけたのだから感情というものは凄い。

 

 魔法使いで言えば、breakdownの登場人物であるマナさんも感情で無謀な仇討ちをしようとした一人でした。マナに対しては7753と、その裏で台本を書いてたプフレ教えられてもいない情報でどうにか彼女を宥めたわけですが、今回チェルシーを引き留めたのはなんと……なんと魔法少女嫌い魔法使い筆頭ことラギ・ヅェ・ネントでした。

 

「ふざけるな!」

「ふざけてなんかいない!」

「どうしてそう戦いたがる! 魔法少女とは戦うために生み出されたのではない!」

 チェルシーの目が大きく見開かれ、顔全体が赤くなり、歪み、歯を剥き出しにした。顔を天に向け、耳を塞ぎたくなる大きな声で叫び、右足をあげ、一拍置いて地面に叩きつけた。周囲の羊、パステルメリー、ラギ、小石、岩までが「どん」と宙に浮き、着地した。

 

 魔法少女とは戦うために生み出されたのではない。それは「魔法少女」のチェルシーを抑え込んだチェルシーにとって一番言われたくない言葉で、しかしそのチェルシーにストップをかけるのにはこれ以上適した言葉なんて無いようにさえ思える! ここ……絶妙に鮮やかで、12話はここと家族の二ヶ所がとにかく良かった!

 偶然同じ島にいる全く別の考え方の人達が、ふとした瞬間に同じワードに合流するの、すごく気持ちいいんだなって思いました。こういう気持ちよさが魔法少女達の「魔法少女」観の違いの面白さにも繋がってるのかもしれないなー。いやー通りがいい。


 というわけで、どうにかこうにかラギの言葉で踏みとどまったチェルシー。物凄いタイミングで物凄いところを指摘され、激情の矛先を地面にしか向けなかったのとてもとても偉い。いや本当に偉い。全然関係ないですけど「亡くなっててもおかしくなかったもんねえ」が好き。

 

パステルメリー


 チェルシーと同様にメリーもメロメロ魔法解除です。それどころじゃないのに素でチェルシーを煽っちゃうメリーはなんというか色々いい性格だ……。


 メリーの「シェパーズパイさん」の呟きによってぐらぐらしてるチェルシーが仇討ちを決めてたり、恐らくはチェルシーの強大さに後押しされてメリーも自分の武器であるパステルを握りしめてたり……チェルメリは細かく相互作用してるように思います。あとメリーが動くと羊の描写がいっぱい読めるのでかわいくて良い。

 

ネフィーリア


 あーー生きてた! 初手で心折れてたのがしょうがないくらいに女神と戦力差があるネフィーリア、マンツーマンで追われたらさすがに死しかないのでは……と思ってたらどうにかこうにか生き延びてました。それはよかった……んだけどネフィのこれからはやっぱり色々怖い。


 ネフィパート、「うちのクズども」、「気付いてはいけないことに気付いてしまった気がする」、「どうしようもない連中」「自分もまたよくよくのものだ」がもう読んでて(それどころじゃなくても)にやついてしまう。

 ネフィは本当にずぶずぶ生存嗅覚的には良くない(と自覚している)方向に進んじゃってる感があってすごい。しかも「うちのクズども」の片方は推定初撃で下半身が吹き飛んでしまっている。本当に良くない!

 


 彼女の気絶時間はどのくらいだったんでしょう。ここネフィーリアが気絶しても変身が解けていないのちょっと不思議ですね。いやネフィが羽菜さん同様に気絶耐性つけてたと考えれば特に何も無いんですけど、でもネフィは完全に非戦闘的魔法少女なので……。マーガリートさんとあわせて、12話の変身解除周りは微妙にひっかかりがありました。気絶と言ってもごく軽いものだったのか……もしれない。深刻に骨折れてるけど。

 そういえば色々ヤバい魔法少女が数多く登場する魔法少女育成計画ですがサイコパスという単語が出たのは今回のネフィ視点が初めてではないでしょうか? どうかな? サイコパス情報お待ちしています。

 

ミス・マーガリート


 うわー生きてた!? 人間状態で頭まで泥に沈んでってもう完全に……と思ってたごめんなさい生きてた! よかった! クランテイルすごい……。


「子供達」としてのクランテイルとマーガリート、接点なるほど〜〜という感じです。子供達内ではクランテイルは善性で安全な方だと思うんですけど(追試同期の危険性が高すぎる)、それでもやはり殺し合いで魔法少女になった存在には違いなく……弟子を殺されたマーガリートが疑念の目を向けてしまうのも仕方ないのかもしれない。

 自分の命を救った魔法少女を素直に信じ込まず、「助かるかもわからない半死人を相手に大事な灰色の実を濫用し、使い切ってしまったというのは愚かというべきなのだろうか。それとも一人の生命を救うためにとった後先考えない行為を感謝すべきなのだろうか」とか考えてから義務感で礼を言うマーガリートさんは(子供達バイアスの下の思考とはいえ)ああ一筋縄ではいかないなあという感じがして好き。

 


 さて女子高生の三千万円によって命を救われたマーガリートさんですが(アグリ亡き今この支払いはどこにいくんだろうか?)、救命方法の絵面自体は結構エグそうで笑った。いやどうにかして絵で見たいけども……。彼女の生存は対フランチェスカにおいてかなりの利となるのではないでしょうか?

 一時は応募魔法少女の陣営分けが恋々ネフィチェルシーメリー/マーガリートとなっていた頃からはかなり状況が良くなったような、でも色々思惑が動いてて状況としてはまだ混沌としてるような。

 

 今回見られた体内魔力を高めることによっての治癒効果……は平素でも期待されるものなんでしょうか。プキン将軍は食事によって魔力を回復して怪我を治してましたが、摂取物次第では現代魔法少女も似たようなことができるのかな。他人に魔力を与えて治癒を促進するヒーラーみたいな魔法少女もいるのかもしれませんね。袋井魔梨華。はい。

 

しかし瀕死で意識を失っていても実を与えると自動で変身できる? という現象はちょっと……謎。魔力を奪われて変身解けた後の七谷さんがマナさんに注射してもらった時は自動じゃなくて自分の意思で変身してたので……こういう微妙なところ命が絡んでるだけに微妙にもやもやする!

 灰色の実の大量供給だとなんかこういい感じだったりするんでしょうか!? いい感じだったりするんだと思います。仕組みも特殊だし……。

 

再登場魔法少女+α

 

フランキスカフランチェスカ

 まずはついに正体が明らかになったフランチェスカについて。

 正しい魔法少女名はフランキスカフランチェスカということで、ABCシリーズのFバージョンだったことがほぼ確定しましたね! 武器名感でそれっぽさはありましたが、しかしABCちゃん達よりは圧倒的に製作コストかかってそうですフランチェスカ。フレイム・フレイミィが人造魔法少女系列と微妙に語感が似てるの風評被害っぽい。


 それはともかくフランチェスカはやっぱりホムンクルス素体だったのかな。魔法少女の才能を持つホムンクルス、すごい単語だ。そして事実として現身候補だった! まあここまで規格外に強いとそうだろうな〜〜という感じです。というかそうじゃなかったら怖すぎる。エルジーナはこういう魔法少女を作るための犠牲になったんだろうなあ……。

 クラリッサの言うフランチェスカの特性」は制御する方法だったりするんでしょうかね。襲われないための正しい答えがあるのかもしれない。

 

 

ラギ・ヅェ・ネント

 クランテイルのことを「心労の元」としているのすごい素直じゃない良い。

「杖は見つからない」の執拗な反復に応じ、ラギの暗い推測が次第に形になっていくところ楽しく読みました。信奉するオスク師を中心に集まりつつも、その実自分の信念に相容れないやり方で蠢くオスク派の魔法使い達。魔法少女と比較して魔法使いは(自分の中で)軽んじられがちでしたがなんとなくbreakdownを経て印象が上昇した気がする。上昇したのか? 


 ともかくラギさんが明かす研究者視点の「魔法少女」事情はかなり面白かったです。 このあたりのラギさんの「研究者」としての説得力がまたチェルシーとの遣り取りに魅力を生み出していたように思います。いやーいいシーンだった。

「相手の意思や権利を無視し面白半分に新技術を投入する狂った倫理観の持ち主が定期的に現れるため、第一世代や第二世代といった区分さえナンセンスといわれる」という魔法少女研究裏話、勢いよく滅茶苦茶ですごい。

 プキンソニアは旧型、投薬無しで変身できる大勢は現代型、投薬変身勢は人造というざっくり区分認識で居ましたがそこも実態としては色々技術綯い交ぜになってるんだろうなあ。

 

 灰色の実の種明かしについてはそっか〜〜という感じ。果実に魔力が全部還元されてるようで実際は一部がどこか別に送られてたら厳しい〜と思ってたけど単純に使うそばからどんどん吸われてるようですね。魔力吸収のトリガーが実の採取なんだったら今もうだいぶ手遅れな気がする。

 

 

テプセケメイ

 次はメイについて。芥川好きの亀とにかくセリフがかわいい……かわいいんですが12話メイはそれどころではなく。

 

「群れの分が要る。メイとウェディンとファニートリックが一つずつ欲しい」

「群れってのはお仲間のことかね」

「家族」

「家族か……ならしゃあねえな」

「しゃあねえ」

 

「よう、家族っていうのは連れのお二人かい?」

「7753はウェディンでマナはファニートリック」

 

 これ……これ!! limitedからbreakdownに至るまで変わらずひとの名前を覚える気がないのだと考えられがちだったメイが、実は名前を認識した上で家族の呼び名として「ウェディン」「ファニートリック」を用いていたことが明らかになったわけで!

 

 メイにとっての家族の形がlimitedの魔法少女たちによって象られていたこと、7753やマナを個々に認識した上で、メイの「家族」という枠組みに取り入れていたこと(もしかするとウェディンやグレース、ファニートリックといった魔法少女達もまた、生き残ったメイが世界を理解するに応じて遡及する形で家族という概念として認識されていったのかもしれない)、そんな重要な事実がメイの呼び方を当然「そういうものだ」として対応しない初対面の他者・ナヴィとの会話によって判明したこと。全部すごい! 最後のはかなり勝手な感動!

 

 そんなメイにとっての「家族」の形を読者が知りつつ滑らかにナヴィの「家族」に話が繋がり、恐らくは唯一の家族である妹、の娘であるクラリッサとの血縁が明かされる。「あたし達は家族だよ。皆で幸せになろう」が最悪のぐちゃぐちゃになった11話の次でこんな話!!!

 ちょっとここ読んでる時テンション上がりすぎて大変でした。今でも大変です。は〜〜メイにとってのウェディンはウェディンのウェディンなんだろうな。あと姪とメイでよくわかんなくなるメイ猛烈かわいい……。

 

 ナヴィ・ル&クラリッサ・トゥースエッジ

 ナヴィとクラリッサが叔父と姪だったという衝撃の事実。魔法使いの血縁であるらしいですが、魔力喪失しても元気そうだったあたり、魔法使いとしての才能はないのかなクラリッサ。

 ナヴィ視点内もラギさん同様色々興味深い記述が多かったんですが、動物魔法少女「本能に根差しているからか強力な魔法を持っていることが多いとされている」についてああやっぱりそういうことありうるんだな〜という感じでした。この辺りについてはまたちょっとどこか別の枠で書けたらいいな……。そういうのが下書きに累積している……。


 そんなこんなでナヴィさんはもう真っ黒ですが、「イオールに恩を売ることはできてるはずだしマイヤはもういねえ。それにこっちの仕事は終えた」と言ってるあたりナヴィ陣営の最大の目的はマイヤさんじゃなかったっぽいですね。なんなんだ。フランチェスカに対する意識は完全に使い捨てっぽい。

 そしてここに来て孤立してる統太くんにナヴィさんの意識が向くのすごい絶妙にぞっとして良い。良いか? られ子はどうするんだろうこれ……どうもこうも無さそう……。

 

 

 クランテイル

 最後はクランテイル。水(?)中に沈んだ魔法少女を救命するクランテイルというのはこうペチカがチラついてウーとなる。今回は回復アイテムを受け付けてくれてよかったですね。

 水管を使って泥を吸い出し灰色の実を直接胃にブチ込むという手段を見ているとクランテイルにしかマーガリートさんを救出することはできなかったんじゃないか!? という気さえします。

 

 クランテイル/尾野さんが見せるラギに対しての複雑なあれこれは、ストレートな猜疑心というよりはもっと色々クランテイルの中で割り切れていない感情が発露してのものなんじゃないかなーという印象です。話し合ってほしい。

 クランテイルがこれからマーガリートと一緒にラギチームと合流できたら、素直に目的を一緒にできそうな魔法少女が大体一つところに纏まりそうですが。どうなるかなー13話!

 

というわけで12話感想終わり。13話が……とても……楽しみです。