すふぉるつぁんど

主に遠藤浅蜊著「魔法少女育成計画」シリーズについて書き残していくブログです。

まいにち魔法少女91日目:グラシアーネ(QUEENS)

 

 本日のまいにち魔法少女です。ナンバーは11、グラシアーネでした。

 ああ……アーネ。アーネはとてもかわいい魔法少女だった。自分は悪いことをする魔法少女にとりわけ弱い傾向があり、当然ながら人事の三人組も好きでした。短編が読みたいです。がんばります。

 

 

 グラシアーネ。言わずと知れた裏人事所属魔法少女。魔法の眼鏡で遠見の能力を持っており、色々便利です。雑な説明だな……。プフレに言わせれば「グラシアーネの魔法は個人の強さという戦術的なものを超え、戦略級の働きを見せる」とのこと。結構重要人物ですね。

 

 彼女は序盤ほとんど全く登場しません。それはアーネが非戦闘員だからという理由も大きいでしょう。ダークキューティーとデリュージが駆り出されたマナ救出作戦の際もグラシアーネ本人は登場しませんでしたが、プフレの目となって裏で色々支えてたんじゃないかなと思います。ACESでW市内をなんやかんや歩き回っている分、プク邸にアーネの目は飛ばしやすいですしね。

 

 アーネががんばるのは遺跡のある空間に入ってからのことです。大軍を指揮する大規模戦闘が展開される遺跡戦序盤において、敵の伏兵を感知したり俯瞰的に魔法少女の動きを見取ることができるアーネの魔法は本当に重宝します。替えが効かない大変便利な魔法。

 彼女が居たからこそできた作戦もあったでしょうし、アーネの死後、彼女が居れば多少優位に進められたのではないかという展開も……あったかな? プク様見ちゃうとダメなあたりを考えると中盤以降のアーネは仮に生存しててもちょっと大変そうですが。

 

 

 色々頑張っているグラシアーネです。疲れ知らずの魔法少女とはいえ、さすがに疲労が溜まってくる。みっちゃんの不在がなんやかんやで影響を及ぼしているのではというのはプフレの推測ですが実際そうだと思います。

 ここでうるるに対してオスク派の監視が付いていることをプフレに伝えるグラシアーネ。アーネはプフレが智略を巡らす足場とする情報の入手手段でもあります。こうしてプフレが何を根拠に動いているのか(ここではハムエルにコンタクトを取るにあたっての足掛かりになっている)が示されているのはありがたいですね。

 

 そんな彼女ですが、便利だからこそという感じでの脱落です。プク様にもアーネを嫌だなあと思うだけの知性があるというのがプク様の凶悪性を高めています。これ滅茶苦茶不敬ですね。グリムハートと比較した上での発言です。

 

 シャッフリンⅡ(クローバーの5.6.9.K)四人対グラシアーネ一人という絶望的な対面でしたが、ここでグラシアーネの戦闘が見られたのはとても楽しかった。単純な腕力や戦闘力というところ以上に固有の魔法を活かした上での戦闘というのはやはり見応えがあります。まさか土下座状態で昆虫めいて這いまわって魔法少女の脛骨を捩じり折る魔法少女が見られるとは思いませんでした。

 しかし爆発するんですけど。うう……。ここの描写も見事だったなぁ……。「既に遅かった」という簡素極まりない描写で読者にあああ、と思わせるこの。決定的な瞬間が描写されずともああだめだこれ、とはっきり感じさせてくる、戦闘描写を積んで積んで温度を高めたところで一気に冷却する、そんな見事と言うほかにない遠藤先生の戦闘描写です。アーネの戦闘描写大好きな人みたいな文章ですが違いなく大好きです。

 

 

 アーネの死は……うーん、思ったよりずっとキツかった。どうしてだろう。やっぱりACESからQUEENSまで一年三ヶ月という時間があったのが大きいかなあ。

 多分JOKERSACESQUEENSの三部作は三部作で1シリーズなので、グラシアーネやハムエルは厳密には「生き残り」の魔法少女ではなかった、んだとは思いますが。それでもQUEENSを待つうちに、ACESの段階で生存した魔法少女に対してはやはり愛着が生まれやすかったかなあと思います。というか短編もありましたしね。

 シリーズの途中でハムエルが自演コメントを投稿したり(「シャッフリンがおどってみた」)、グラシアーネがラーメンを食べたがったり(「ラーメン双龍伝」)、そういう過去の日常を短編で挟まれたうえでその後死んでしまうっていうのは、なかなか魔法少女育成計画シリーズ的にも新しかったんじゃないかなあと思います。

 

 魔法少女育成計画QUEENS、プフレがプフレであることを除いても、実際今までになく人の死に動揺した作品だったような……いやどうかな。QUEENSでの衝撃が今一番新鮮なのでそう感じているだけのような気がします。

 一番新しく死んだ魔法少女の死に一番ぐったりしてしまうのは魔法少女育成計画シリーズを追っていて常のことですからね。こういうのが積み重なって新刊の告知が来ると何故か嬉しいのに怖いという精神状態が形成されます。

 

 

 しかしながら見事だった……。ここのアーネの戦闘は、やっぱりものすごく好きです。魔法少女育成計画シリーズの戦闘描写は毎度見事で読み返す度に楽しくなってしまう。QUEENSの大規模ではない戦闘で一番最初に行われるのがこのシャッフリンVSグラシアーネ戦というのもあり、何となく印象深いです。

 レーテVSプクという異次元規模大決戦は大決戦で楽しく、シャッフリンVSグラシアーネ戦は小規模に細やかに見応えがある。両方のスケールの戦闘を楽しむことができるのは実質limited以来かなぁと思います。

 息もつかせないような戦闘描写、細かく刻まれる文章、きっと決着してしまうがために「ページを捲りたくない」と強く思わせる(けどあまりに続きが気になって捲ってしまう)死の気配などなど、魔法少女育成計画を好きになった最初の要素を色々と感じさせてくれる一戦でした。

 

 

 グラシアーネ好きです。新鮮な心を擦切らせてしまったようなベテラン魔法少女でありながら、読んでいる内次第にじわじわと滲んでくる人間味が魅力的でした。彼女の魅力を深めたのはやはり死ぬ直前に交わされたダークキューティーとの会話、そしてそれをするに至ったみっちゃんとの会話の回想ではないでしょうか。

 

 過去のみっちゃんとアーネ。二人は「違う」存在であることがみっちゃんの浮かべた苦い表情に示されています。彼女はアーネが思うよりも戦うことが好きで、多分その辺りの感情がリップルに殺された時の、殺されることそのものとは少しずれた場所への「悔しい」の出所なんじゃないかなあ。

 みっちゃんのあり方をアーネが理解することは最期までありませんでしたし、アーネが理解していないものの答えをアーネの視点から見つけることは難しいのですが、それでもわかるのはアーネとみっちゃんは違っていたということです。

 もしかしたら、自分の在りたい姿でいるために努力を惜しまないところはアーネとみっちゃんではなく、ダークキューティーとみっちゃんの共通項だったのかもしれません。理解不能存在ことダークキューティーに、(その悪役でありたいという理念自体は理解不能だったにせよ)何かしらのシンパシーをみっちゃんが感じていたからこそ、あのちぐはぐ人事三人組は長いことやっていけていたんじゃないかなあとか。

 

 アーネとみっちゃんの行動原理にこそ共感はありませんでしたが、それでもなんだかんだだらだら仲良くやってたんじゃないかな、と考えてちょっと笑顔になれるのがビジネスライクな三人組のいいところです。

 しかしアーネとみっちゃんのふたりぐみについて考える時、この差異は結構個性的であり魅力的だから大事に見て行きたいなあ。楽しい。二人とも死んでるけど……

 

 

 はい好きなイラスト。まあ唯一の挿絵なんですが、テントの周りにシャッフリンが集まっていることに気付いたアーネの挿絵。好きです。ここの表情ものすごく良かった……。ページを送って、やっぱり活字を読む前に挿絵があったらそちらを見てしまうので、まずアーネの緊張した表情を見て、ああヤバい、とはっきり思ったのをよくおぼえています。悲しい……。それはそれとしてアーネはバニラエッセンスとかの匂いしそう。

 

 

 続いて好きなセリフ。んーーセリフ。セリフかぁ……。上で紹介したダークキューティーとの会話も楽しいんですけど、その前。遺跡入り直前、ダークキューティーの「五分、休憩」に対する「ああー、やっと休めんのね」が好きです。セリフが好きというよりその周辺のアーネの言動が好き、という話になってくるのですが。

 休むと言いつつ周囲への警戒は怠らないところにベテラン気質を感じ、5分きっかりで休憩を切り上げるダークキューティーにブーイングを示す様には今までもこうやってぐだぐだしつつプロとしてやってきたんだろうなあという過去を感じさせます。恐らくはそんなアーネを宥める係であっただろうみっちゃんがもういないというのが切ない。

 

 以上。アーネの死をきっかけに、QUEENSの物語はより一層引き締まったような気がします。明日もがんばります。