すふぉるつぁんど

主に遠藤浅蜊著「魔法少女育成計画」シリーズについて書き残していくブログです。

まいにち魔法少女119日目:三代目ラピス・ラズリーヌ(白)

 

 本日のまいにち魔法少女です。

 今日は三代目ラピス・ラズリーヌです。で、でた……!

 飄々とした立ち振る舞いで、魔王塾最古参の七大悪魔とも渡り合う圧倒的強者。色々本当にすごい人です。以下感想。

 

 

 三代目ラピス・ラズリーヌ。初登場は魔法少女育成計画ACESでしたが、その時は自分の記憶を抜いてブルーベル・キャンディという別の魔法少女としてプリンセス・デリュージをフォローしていました。

「白」でのSDイラストはブルーベル・キャンディ時から変わらないものですが、こうして見ると印象もだいぶ違いますね。強者の佇まいを感じる。

 

 ACESで発生したデリュージとの縁は、QUEENSを経て「黒」、そして「白」から「赤」へとつながっています。「白」では思っていたよりもがっつり関わっててよかった。

 良好と言えるような関係ではないにせよ、まさかマジカルティータイムでお茶をするようになるとは……。個人的にデリュージとラズリーヌが仲良くしていると嬉しいので、嬉しかったです(原始的な感情)

 

 

 さて「白」初っ端の三代目ラピス・ラズリーヌは、ラズリーヌ候補生訓練施設に常設されている大浴場を清掃しています。プールサイズの大浴場ってどういう規模なんだ……。

 ラズリーヌ候補生どれだけいるんだろうとか、青い魔法少女がそれだけ詰めてたら相当壮観だろうなとか考えてしまいます。候補生には家庭環境に難がある魔法少女が多いらしいから、ほぼ住んでる状態の子とかも多いのかもしれません。

 

 無事に襲名を果たした真なるラズリーヌといえども、初代ことオールド・ブルーには何かと雑用をさせられている。そういえば二代目ラピス・ラズリーヌも同じ様子でしたね。「青い魔法少女は忙しい」では双龍パナースを連れて様々な雑用に駆け回っていました。

 その短編の最後の方でパナースと一緒に戦った相手はホムンクルスを使役していたし、元々協力していたのが離反することになったっぽい空気でしたし、研究結果を要求するようなセリフがあったりで、もしかしたらあれが実験場と決別したタイミングだったのかもしれませんね。そうだと朗らかな短編でありながらだいぶ内容シリアスだな改めて……。

 

 閑話休題。大浴場を清掃しながら、 三代目ラピス・ラズリーヌは1人物思いに耽っています。QUEENSでの出来事、そしてそこで命を落としたプフレのことを。

 ラズリーヌ派閥の元協力者、出資者であったプフレが死んでからだいぶ経ちますが、感傷を持つことを初代から嗜められていたラズリーヌがこういう形で彼女のことを考えるとは思ってもみなくて驚きました。確かにプフレの今際の際に立ち会ったのはラズリーヌですし、シャドウゲールの記憶処理を施したのもラズリーヌですし、QUEENSのエピローグの時点でもちょっと気にかけている様子ではありましたが。

 驚いたのはそこに留まらず。なんとラズリーヌが抜いたのはシャドウゲールの記憶だけではなかった。彼女はプフレから記憶を、感情を抜き取ることで、読者にすらはっきりとは読ませなかったようなプフレの行動指針や、彼女の強い感情、何もかも全てを「読み取って」いたのでした。

 

 プフレは全ての条件をクリアしている唯一無二の協力者だったが、プク・プックが起こした事件の中で生命を落とした。奇跡のような立ち回りでシャドウゲールを護った、とラズリーヌは驚いたが、師匠にいわせれば、情緒と感情を重んじたせいで志半ばで果てることになった、となるのだろう。

 だがラズリーヌは知っている。

 プフレにとっての大望とは人造魔法少女計画ではなく「魔法の国」の優位を覆すことですらなかった。彼女の最終目的はどこまでもシャドウゲールの無事であり、危険でいっぱいの「魔法の国」から彼女を切り離すことだった。人造魔法少女計画も、人事部長の地位も、全ては従者一人のために存在していた。人造魔法少女計画についてプフレが知っていること全てを確認するため、師匠の命を受けて嫌々ながらプフレから抜き取ったキャンディーを舐めたことで、ラズリーヌは彼女の真意を知った。*1 

 

 うおおおおあああああ(発作)

 な、何度読み返したか知れないような文章なのにこうして感想を書いていまだに色々な感情で泣きそうになってしまう。知ってた、知ってたことだけど、ラズリーヌの魔法という御法度的手段で、プフレの中身の一部がものすごく端的に開示されている。そんなことがあっていいんだ!?

 記憶を抜き取るって、基本的には死者が抱えて持っていくものを本人の意思に関係なく暴いて晒すような超絶プライバシー侵害行為だと思うんですが、思うんですが、それでもこれは……嬉しかった。なかなかにモラル的どうなの感はあり、そういう状況に躊躇いはありつつも、それでもやっぱり……プフレの情報なんてあればあるだけ嬉しいから……。

 

 改めてラズリーヌの魔法の恐ろしさを感じる。通常であれば絶対にできない「答え合わせ」の手段です。

 プフレは客観的に見てやはりシャドウゲールのために動いていたし(間違えようもない自明の内容では?)、人造魔法少女やlimitedのあれこれを始めとする全ての行為はやはりプフレがシャドウゲールの安全を確保せんとしたがための手段だった。

 

 壮大な計画すぎる。壮大すぎるんですが、プフレという魔法少女は成り立ちからシャドウゲールのために100人以上殺してみせた人なわけで、手段が増えるに伴い規模が大きくなっているだけで、まあそりゃあ行動原理としてはそれくらいやる(し、これまで見てきたプフレのポテンシャルからそれだけのことは本人ができると自負するだろうと思うし、でもそれは流石にあまりにも危うい壮大さだし、それも一因としてあんな局面まで至ってしまったの)だろうなという納得感がある。

 

 納得感はありますが、それはそれとしてプフレの記憶と感情は、記憶・感情のプロフェッショナルたるラズリーヌをして「非常に面倒臭く、ややこしく、鬱陶しいキャンディーだった」*2 と言わせるほどのものでした。

 やってることの規模が大きい上に本人の精神性がややこしいの改めて本当に本当にいいですね。鬱陶しい呼ばわりまでされているのはもう本当にすごいハイ・カロリーだったんだろうなと思う。プフレのシャドウゲール大好き感情全部咀嚼しなきゃいけないラズリーヌ、身から出た錆とはいえ苦労が偲ばれます。

 

 

 しかしこの飴玉、ただ大変だな〜と笑ってられるようなものではなく。プフレの記憶を摂取してから、なんとラズリーヌは初代ラピス・ラズリーヌことオールド・ブルーのことを肯定的に思えなくなってたり、ふとシャドウゲールのことを考えたりしてしまっています。怖い! 劇物だなこの飴玉!

 初読時の自分には「呪い」という言葉が咄嗟に脳裏に浮かんでました。デリュージから地獄から這い上がってきそうとか思われているだけの存在感がある。

 

 プフレが自分の記憶を検分されるところまでジャストで「読んでいた」かは定かではありませんが、あの時死の間際にわざわざ強いて微笑みを作りラズリーヌに頼んで見せたプフレからすれば、ひょっとするとラズリーヌがこういう精神状態にあるのは「上手くいけばこうなってほしい」と望んでいた状況かも……しれませんね。(その辺はQUEENSの時のプフレの回でちょっと書きました:まいにち魔法少女87日目:プフレ(QUEENS) - すふぉるつぁんど

 

 

 ラズリーヌの魔法は自在に記憶や感情を抜き出し、またある時には他人の感情を飲ませてこう誘導するなど本当にご無体な精神操作魔法の使い手ですが、彼女自身がこの飴玉に少し影響を受けているというのはとても面白い。

 ただまぁしっかり自覚しているあたり、制御できている範疇のことではあるんでしょうが。それでも間違いなくこういった感情は隙の元ですし、そして隙は魅力でもあります。やっぱり感傷は……あったほうがいいです!

 

 というわけで、つい長々書きましたが、ラズリーヌは恐らくプフレとシャドウゲール2人共の記憶を所持しているということになりそうです。それってとても重いな! 持ってるだけでストレスになりそう。やっぱり呪いかな。

 

自分は(記憶を取り戻すにせよ、しないにせよ)シャドウゲールがいつか元気に自分の人生を生きていく日が来ればいいなと強く思っているのですが。

 もしも、もしもシャドウゲールが欠落した記憶を追求するようなことがあった時に、 3代目ラピスラズリーヌが(プフレの感情の影響もあり)シャドウゲールのことを気にかけている……ということが多少いい方向につながればいいなと思います。

 

 

 さて「白」でのラズリーヌについて続き。彼女はそれから、プリンセス・デリュージに「ブルーベル・キャンディだった魔法少女*3 という名前で連絡を取っています。うわあずるい!

 どこまでデリュージに響くと思ってこんな名乗りにしたんだろうか。そうしてラズリーヌはマジカルティータイムにてデリュージと久々に接触しますが、そこでデリュージの抜けてるところにツボって爆笑したりしてるのが可愛い。思ってた以上に感情が豊かだなというのを改めて感じます。

 

 そこでデリュージに協力要請をしたラズリーヌは、フレデリカが中学校に襲撃をかけたタイミングで、ラズリーヌ候補生やプリンセスシリーズとともにフレデリカの本拠地を強襲します。同時多発的大魔法少女バトルが始まっている。

 単身でピティ・フレデリカ暗殺の任を帯び、ラズリーヌ軍におけるエースと言えるような三代目ラピス・ラズリーヌの強さは、勿論フレデリカも認識するところです。

 

 今でも克明に記憶している。きっと生涯忘れることはないだろう。プク派の占拠する遺跡の前で敵と戦う青い魔法少女。洗練された体術、極めた身体能力、触れれば終わりという魔法。現身、魔王塾、それら「強い魔法少女」とは別のアプローチによって高みへ至った到達者だ。彼女が新しいラズリーヌであったことは後から知った。納得しかなかった。*4

 戦いになる前に処理しておくというのはもったいない。彼女のような魔法少女は戦いにおいて対処することで美しさが完成するのだ。*5

 

 ものすごい高評価です。というわけでフレデリカは「典型的な魔法少女像がアニメ等によって喧伝される以前の世代」*6から魔法少女として活動し続けている超ベテラン、魔王の一番弟子こと七大悪魔が一人「大姦婦アスモナ」をラズリーヌ対策として差し向けます。

 アスモナの固有魔法は心身に影響を与えるキノコとなる胞子の放出(技名のシャウトがなかったのが気になるところですが、この魔法はシャウトしない方が強そうではある)。フィールドに影響を与える、数ページ追った限りでも手強い魔法です。

 

 そして勿論、魔王塾所属の魔法少女がカラテで劣るわけもなく。魔王のポリシーに違わず、身体的な戦闘能力も高いです。

 相手の力量を見て取ったラズリーヌ本人も「勝つか負けるかは運の勝負になる」*7と独白しています。それでも運勝ちを見れるあたり本気で強者なんだなあ。

 

 

 うおお改めて胸がワクワクするような大決戦カードだ。実際そこまでの相手を用意しなければならないほどラズリーヌは強い。

フィジカルでは初代ラピス・ラズリーヌを上回っている」「物理的な罠、魔法的な罠を全て看破する」という恐ろしいまでの戦闘の才能(本当に恐ろしい)を見せながら、彼女の魔法は肌に触れれば一発で決着しかねないような凶悪なもの、しかも直接的にも搦め手としても活用できるものです。天は二物を与えている。

 魔法少女育成計画において、魔法が便利すぎる人がフィジカル的にも強いととんでもないことになっちゃうんですよね!

 

 後れ毛が逆立つ。心身に僅かな異常を感じ、即座に自分の身体から飴玉を取り出した。ラズリーヌの魔法は、感情、記憶、それだけでなく魔法の効果も抜き取ることができる。これによって現身であるプク・プックの魔法も消してみせた。 魔法による異常を抜くだけではなく、敵に向かって飴玉を撃ち出すことで攻撃を兼ねる。*8

 

 ……いやとんでもなさすぎる!! 初読時、流石にラズリーヌ死んじゃうかなあとか思いながらかなりハラハラして読んでたのに、この描写読んで思わず笑ってしまった。魔法効果まで抜けるんだこの魔法。言われてみれば確かにこういう使い方もできるかなという気がしてくるけど……気がしてくるけど!

 改めてこれはラズリーヌの魔法の本質が第一印象としての「記憶操作」ではなく、ものすごく広義の「気分を変える」魔法であることによる多能性なのだろうなと思います。 むしろ気分を変えることの延長線に記憶の出し入れがあるという感じ。いやそれはそれで異常というかむしろそちらが異常の本体では? とは思うんですけども。

 

 彼女の魔法の性質は「気分を変える」ことこそが主体であるという逆転性に気づいた気持ち良さと、いやそれにしたって力強い活用法すぎるだろうというツッコミどころが同時に来て、ここめちゃくちゃじわじわ来てました。強すぎて笑っちゃうこと魔法少女育成計画でままある。

 

 

 しかしそれで対応したとしても倒しきれないのがアスモナの恐るべきところで。ラズリーヌの極低温アシストがなければ、この戦闘の行方はどうなっていたのか分かりません。というか決着がついてないのでこれからどうなるかもわからない。

 ただデリュージがラズリーヌの横を通過した後に、普通にリップルがフレデリカ殺しに乗り込んできてることを思うと……アスモナVSラズリーヌはデリュージ達VSフレデリカの裏側で一旦決着してる……のかな? リップルの敏捷性を考えたら同様に横通ってきたのかもしれないけど。

 

「強すぎる」魔法・フィジカルの使い手である三代目ラピス・ラズリーヌ、彼女が戦闘面でも精神面でもどう展開していくのか……ラズリーヌがプフレとシャドウゲールの記憶に関与しているだけに、なおさら気になるばかりです。

 ここまで来るともうご無体魔法でどこまでも突き進んでいってほしいという気持ちがあるのですが、それでも魔法少女育成計画のセオリー的にはワンチャンで決着するような強い魔法は言ってしまえば「攻略される」ことをこそ見せ場としていたきらいはあります(これはフレデリカが半メタ的に言及していた部分でもある。その通りだと思う。好きな描写)

 いくら最強格の1人と言えそうなラズリーヌといえど、「赤」ではいよいよ……その身が危ういこともあるかもしれませんね。感傷ゲージは溜まりつつありますし……。

 

 

 さて好きなセリフ。マジカルティータイム訪問時の、

 

「ああ、密談ってことは理解してくれてたのか。ならあまりいい心掛けじゃないね」

「……なにが?」

「仲間に見張らせておくっていうやり口がさ。一人で来いっていったよね? いざとなったら腕にものいわせてやろうって腹だったりするの? おすすめできないなあ。私は約束通り一人で来たけどさ、簡単に負けてやるつもりはないよ」*9

 

 がいい。すれ違いコントしてる。アスモナ戦でもそういう気配がありましたが。このラズリーヌは結構戦闘好きな雰囲気だったり、自分が強いことへの自負のようなものを感じます。

「簡単に負けてやるつもりはない」という言葉からは強者の風格を感じますが。ただ余裕綽々というふうではなく、普通に表情が硬い感じなのといい、その直後に大爆笑している様子といい、デリュージに対してかなり率直に感情を示している印象です。

 

 続いて好きなちょっとした描写。 

 態度も、言葉も、幼い、と本人が誰より自覚している。師匠に甘えている、と自分では思っていたが、果たしてどれほど甘えになっているのか、だんだんよくわからなくなってきた。尊敬すべき師であり、きっと甘えていいはずなのだが、よくわからない。*10

 これも好き。初登場の頃から一貫して、あれだけ強者的存在でいて割に態度が素直です。デリュージにも年齢相応かちょっと幼なげな振る舞いを見せていたような気がします。彼女に甘えているところがあるのかもしれませんね。

 

 以上。今後三代目がランユウィの訃報を聞いたらまた初代への印象が悪くなりそうで、そのあたりも気になっています。ではまた明日。

*1:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.90 宝島社,2022.2.10(ebook

*2:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.91 宝島社,2022.2.10(ebook

*3:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.124 宝島社,2022.2.10(ebook

*4:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.233 宝島社,2022.2.10(ebook

*5:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.233 宝島社,2022.2.10(ebook

*6:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.258 宝島社,2022.2.10(ebook

*7:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.260 宝島社,2022.2.10(ebook

*8:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.259 宝島社,2022.2.10(ebook

*9:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.154 宝島社,2022.2.10(ebook

*10:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.120 宝島社,2022.2.10(ebook