すふぉるつぁんど

主に遠藤浅蜊著「魔法少女育成計画」シリーズについて書き残していくブログです。

テルミ・ドール編「森の音楽家クラムベリー外伝 魔法少女育成計画 unripe duet」感想(その4)

 

 今回でunripe duetの感想記事も3回目……まだ3回目!? いくらなんでも遅すぎるんですが感想はどれだけ遅れても書いたほうが良いので、最後のメインキャラクターたるテルミ・ドールの感想です。

 テルミ・ドール! 朗読劇を通して最も好きになったキャラクターかもしれない。本当にビジュアルがいい。以下感想。

 

 

 テルミ・ドール。マジカルジャーナリストを自称する魔法少女です。人間態名やその年齢は不明。

 彼女はミーヤ・オクターブの「演奏」とはまた違った形で朗読劇向きの存在だったように思います。インタビューをベースにするジャーナリストというのはとにかく口が勝負の職業ですが、その「語り」については、小説媒体ではどうしても想像で補うしかないところです。その音声で聞けば聞くほど面白い要素を、声優さんという音声におけるプロによる朗読という形で体験する。小説にはなかった新たな方面からの魔法少女の「説得力」を感じる瞬間、贅沢極まりなかったです!

 

 テルミ・ドールの演者は井上喜久子さん。井上喜久子さんは4回に渡るunripe duet公演にて、ある回は仕事ができそうな隙がない感じの、またある回はひょうきんで底が知れない感じの……といった、様々なテルミ・ドールを見せて下さって、それが本当に良かったんですよね……。

 井上喜久子さんは前夜祭にてテルミの演じ方に悩まれているというようなことを仰っていたと思うのですが、悩んで悩んだ上で、あれだけのバリエーションを示されていたのは……テルミ・ドールの人間性を様々な角度から見せてくれているようでとてもとても見応えがありました!

 ミーヤ・オクターブ演じる東山奈央さんも、戦闘シーンでの矢継ぎ早の文章を淀みなく読み上げる場面があり驚嘆しましたが、井上喜久子さんもまた緊迫した戦闘描写をつらつらと朗読されていて。その朗読で、一瞬の油断すら許さないような引き絞られた魔法少女間の戦闘」における空気に連れて行かれる感じがあり、何度聴いてもよかったです!

 

 

 話が逸れましたが、テルミ・ドールはジャーナリストを生業とするフリーランス魔法少女です。ビジュアルからはそんな職業の人だとは全然思っていなかった。中性的な顔立ちに魔法少女的には若干珍しめな推定ショートパンツ、きりっとしたコートスタイル、そしてあの可愛い狐尻尾、鞄には狐のチャーム! 良い!!

 魔法少女育成計画、尻尾付き魔法少女が本当に多い。可愛すぎる。やっぱりテルミも椅子に座る時は尻尾を邪魔にならないように背もたれの隙間に通したりするのかな。

 

 短編「インタビュー・ウィズ・スイムスイム」が代表的ですが、ジャーナリスト系魔法少女は実は既刊にチラホラ存在の影があります。広報部門もあることですし、思ってるよりも報道系魔法少女の頭数は結構多いのかもしれない。アナウンス魔法少女とかもいましたしね。いたか?

 テルミ・ドールはそういった報道を仕事とする魔法少女の一人ではありますが、なんとフリーランスで食べて行けているすごい人でもあります。上部にもコネがあり、魔王塾ともコネがあり、「あの」実験場に絡める胆力もあります。すごい。怖いものなしかな……。

 

 

 そんな彼女の固有魔法は「魔法のガラケーで誰にでもコンタクトできるよ」。これがまた……良い!!!

 魔法少女育成計画現実世界以上にスマホの普及が早かったという地味な別世界設定があり、テルミの固有魔法におけるマイナーっぷりは現実よりも一層強かったはずです。(20年前に生きていたミーヤもガラケーについてよく知っていたことを考えると、もしかしてガラケーの普及自体も現実世界より早かったりしたのかな?)

 

 このテルミの魔法の活かされ方は大いに「魔法少女育成計画」を感じさせるものでした。

 前半部分では「魔法が作用するのは電話を取ってもらうところまでで、後は自分の話術でどうにかするしかない」という若干融通の効かない魔法のようなミスリードがあったのですが。後半ではその魔法の作用が裏返り、「戦闘中でさえ電話をかければ相手は電話を取ろうとしてしまい、大きな隙を作ることができる」魔法へと展開される。魔法少女育成計画のこれが大好きすぎる!!

 

 ただ本来は勿論、テルミ・ドールの魔法は対面での戦闘に活用することなどできないだろうなとは思います。魔法の端末を取り出して番号をプッシュしてる間に、本調子のクラムベリーならばよからぬことをしている気配を察知して阻止するくらいはできるはずです。

 テルミのあるべき立ち位置は後方支援としてのイタ電による妨害活動だろうとは思いますが、テルミはあくまで自分の目で真実を確かめることを選んでいました。そしてその決意の先に、彼女はミーヤと共にクラムベリーと対峙します。

 

 

 ミーヤ・オクターブのエントリでも書きましたが、ミーヤとテルミの間の友情は読んでいて/聴いていてすごく楽しかったです。多分そこそこ年齢差はあるんじゃないかとおもうんですが、それを感じさせない気安さがある。

 

 ミーヤはテルミと共に行動して仲良くなる以前にまず宿敵たるクラムベリーの親友なんですが、「クラムベリーの非人道的な試験形態が親友の死んだ原因となった」ことがほぼ間違いなくなってからも、テルミは一瞬たりとも「クラムベリーと親友だったミーヤを殺す」という目には目をスタイルの復讐のことは考えませんでした。

 いやそりゃそうかもしれないんですが、テルミはやろうと思えばミーヤをもっと残酷に利用する形でクラムベリーに迫ることだってできたはずで、それをしなかった、それができなかった人がよりにもよってミーヤを殺してしまったというのがまたやりきれない。

 

 上にも書いたように、テルミ・ドールの行動の動機は親友たるマリア・リーストン(真理愛)の死でした。魔法少女となる前からテルミと友人関係だったということは、二人が魔法少女になったタイミングはバラバラだったんですね。(テルミ・ドールがどうにかして止めなければならなかったという描写的にテルミが先に魔法少女になったのかな?)それもまた後悔につながってそうだなあとか。

 

 真理愛と地元の海に遊びにいった思い出が蘇る。海水浴シーズンで芋を洗うように人ばかり、海の家では焼きそばもカレーもレンチンで美味くはなく、どこかの携帯電話が鳴らしていた着信音「子犬のワルツ」がやたらうるさくて、なのに楽しかった。笑って、背を叩き合い、ふざけて、砂浜に転がった。食事がショボく、砂まみれで、それでも楽しかったのだから魔法少女になる必要はなかった。なるべきではなかった。テルミ・ドールがどうにかして止めなければならなかった。

 事故死、と聞いていたが、この様子を見るに事故死とは思えない。魔法少女になろうとしなければ、森の音楽家の試験を受けなければ、彼女はまだ生きていた。

 今はもう止めることができなかった未来の先だ。けじめはつけなければならない。*1

 

 いや~~~~これは単純に自分の趣味なんですが、魔法少女になる必要性が本当になかった」描写がある魔法少女がいること、魔法少女育成計画において大好きな要素の一つなんですよね……!! ここの文章unripe duetで屈指に好きです! 遣る瀬無さと淡々とした動機開示が好きすぎる。

 魔法少女へのあこがれを持ちつつも(だからこそ)他人を蹴落とし、自分の命を賭けてまで魔法少女になりたいわけではない人が居るかと思えば、どうしても魔法少女という力を必要とする人もいて、そして本当に魔法少女になんてなる必要がなかった人たちが居ます。例えば友人たちとの幸福な日々に満足していた@娘々、魔法少女になってしまったことで滅茶苦茶難儀を背負い込んだプフレとシャドウゲール、そしてこのテルミ・ドール。彼女らの存在が「魔法少女」という存在の多様性をいや増しているように思うのです。

 だからこそ今回のテルミ・ドールの悲痛な「食事がショボく、砂まみれで、それでも楽しかったのだから魔法少女になる必要はなかった」という独白もまた非常にしびれました。好きだ……。

 魔法のトリッキーさといい、テルミ・ドールからは魔法少女育成計画のこまごました好き要素のツボをぐいぐい突いてくれるようなポイントが多くて……好きでした。

 

 

 親友の死の真相を突き止めようとしたテルミは、結局人事部門の偉い人に捨て駒にされる形で利用され、憎きクラムベリーとの共闘までして守りたかったミーヤは自分の手で致命傷を与えてしまい、更にクラムベリーには深手を負わせることもできず返り討ちに遭ってしまいます。

 結構作中でも中々の踏んだり蹴ったりな目に遭っている。自分でミーヤ殺しちゃったのがつらすぎる……。

 

 そんな悲惨な目に遭い通したテルミの最期の台詞が本来(台本でも原作小説でも)「くそったれが」*2 だったのはまあそりゃ呪詛も吐きたくなるだろうと思いつつ、それはあまりにも惨すぎるという思いが演者の井上喜久子さんにあったのでしょうか。朗読劇では「真理愛……」という、親友を想う言葉にアドリブ的に差し替わっていました。

 この台詞の変更は、勿論テルミが真理愛を大事に思っている(と読み解かれた)からこそ発生したものだったでしょうが、何よりも演者からキャラクターに添えられたささやかな哀悼の意のように感じました。

 小説媒体には発生する余地のない、沢山の人間により作られる「舞台」でしか味わえないような体験で、物語の読解というよりも他人が物語へ向ける眼差しという要素で心を揺らされたのは……本当に得難いことでした。このあたりについては未だに言語化が難しいですが。ただ台本でも本来の台詞が「くそったれが」だと知ったときの驚きはすごかった。

 

という感じでテルミの感想は以上です。ずいぶん長くかかってしまった! 次回はペチカ&チーノのペアについて書きます。また次回。

*1:*1:遠藤浅蜊. 森の音楽家クラムベリー外伝 魔法少女育成計画 unripe duet (p.143)オッドエンタテインメント

*2:*2:遠藤浅蜊. 森の音楽家クラムベリー外伝 魔法少女育成計画 unripe duet (p.148)オッドエンタテインメント