すふぉるつぁんど

主に遠藤浅蜊著「魔法少女育成計画」シリーズについて書き残していくブログです。

まいにち魔法少女117日目:クミクミ(白)

 

 本日のまいにち魔法少女です。 今日はクミクミです。クミクミか……。

 余談になりますが、まいにち魔法少女をやるにあたって準備をしていたとき、最初に順番を決めてからそれがごちゃごちゃにならないようにとりあえずエントリだけ全部作ってたら普通にクミクミページを誤爆で公開してしまって即削除したりするようなこともありました。もし目にした方がいたら失礼しました。以下感想。

 

 

 

 クミクミ。彼女はカスパ派の近衛隊勤務の職業魔法少女、でありつつ2班のサブリーダーです。

  同じ2班のカナの魔法少女評では、「破壊力♡3、耐久力♡3、 敏捷性♡3、知性♡2、自己主張♡2、野望/欲望♡3、魔法のポテンシャル♡4」 です。思っていたより魔法のポテンシャルが高かった。あと物体を壊すという魔法の字面の割に破壊力は低いというのがちょっと面白い。まあマイクラってそんなに破壊力感はないですよね。

  好きなものの中にものづくりがあるのは、スノーホワイトから、

 しかしクミクミのような創作系の固有魔法を持っているということは、元々その方面の素養があるという場合が殆どだ。設計図からは熱意と意地だけではなく、確かな技術を感じられた。*1 

 と評価されたところからも説得力を感じます。フレデリカを歓迎するために小物作ったりしてるし。ドラゴンの立体製作の設計図見てみたかったな。

 

 本編に入る前に、クミクミといえばの短編である「2年F組弁当合戦」について。「黒」でもちょろっと触れられてた遠足で弁当を忘れたクミクミのエピソードを掘り下げるような短編でしたが、それは夢の存在としても希薄になりつつあるねむりんが関与していたことが明らかになりました。

 時間経過により自分の名前すら思い出せないような状況になりつつあるようなねむりんを、その創造物である理想のカラミティ・メアリが補佐しているというのは、すっぱりと死ぬ人たちとは違う形でなんとも寂しいような気持ちになりました。

 まあねむりんが関与して結果として生じた出来事としては現実のクミクミに弁当を忘れさせるという夢魔めいた所業だったんですが、その結果クラスを掻き回すことを指針に動いていたはずのライトニングがクミクミを助けることになり、終わってみれば良かったのかも……しれない。クミクミ所属関連部署の貴重アイテムはねむりんの力で失われてるっぽかったんですけどまあ……。

 

 

 さて閑話休題して「白」本編でのクミクミの話。彼女は2班のサブリーダーとして、途中までは近衛隊チームのリーダーであるメピス・フェレスに代わり、上司ことピティ・フレデリカとの仲介役となっていましたが、ある時からクミクミはフレデリカの魔法の対象とならなくなってしまいます。

 不審に思ったフレデリカの捨て身の訪問により(ここ本人も言ってるけどだいぶウカツというか軽率で良い。ピティ・フレデリカの魅力の一つといえば、別に最善手ではないと本人も理解しつつ衝動的な興味関心に言動が左右されてしまう、しかしそこで本人の異様な「ライブ感」の才能によりなんかうまくやっていってしまうところだと思います。初代やプフレと比較して、大局を俯瞰し支配的に動かすというより、そういうのも多少は手がけつつそれ以上に現場的・直接的な対応での特殊なアドリブの才覚や天運に秀でているという印象。いや勿論初代もプフレも即興綱渡りが得意そうではあるんですけど……)彼女がホムンクルスとすり替えられていることがここで初めて発覚しました。

 

 クミクミがクミクミではなくなっていた。フレデリカの嗅覚が、視覚が、味覚が、触覚が、魔法少女を捉えるために研ぎ澄まされてきたあらゆる感覚が、クミクミの存在に違和感を覚え、これは元のクミクミではないと断じた。

魔法少女の匂い、雰囲気、そこになにかが混ぜられている。身近なものからそうではないものまで二日間かけて匂いと雰囲気、気配と感触を確かめ、これはホムンクルスが混ざっているのではないかという結論に至った。

 ただのホムンクルスではない。極めて高度な技術で造られたホムンクルス。クミクミの姿を模しているだけでなく、クミクミのように変身し、クミクミのように魔法を使う。*2 

 

 それまでクラシカル・リリアンの視点での不穏なパートなどはあれど、まさか自分がこれまで読んできた視点がホムンクルス魔法少女のものだったとは思わず、結構な衝撃を受けたのを覚えています。

 しかもクミクミが差し替えられたのは、カナが身を挺してクミクミを守った後のことと推測されていて。彼女が守ったはずの魔法少女が描写の外で即座にまた別種の邪悪な手に脅かされていたというのも……かなり自分にとってはショッキングでした。黒のエピローグで泣きながらカナカナに飛びついていた時点で、すでにクミクミはホムンクルスにされていたのか……。

 

 しかし改めてこのホムンクルス高性能すぎますよね。人間態にもなれて変身もできて日光にも耐性があって固有魔法も使えて自我もある。模擬戦でのテティがホムンクルスを攻撃できていたのを見るに、自分からホムンクルス存在への攻撃も可能(ホムンクルス魔法少女同士は攻撃できないとかがあるかもしれませんが)。それまで提示されていたホムンクルスという存在の基本ルールを大きく逸脱する挙動です。

 「魂」を移し替えているとかそれっぽい描写があったので自我があったりするのは当然なのかもしれませんが、人間を材料にそれだけの存在を作れてしまうことに慄く。人権のこと軽視してる魔法使いとかいたら嬉々として魔法少女ホムンクルス化に乗り出しそう。

 

 そんなホムンクルスになってしまったことをクミクミ本人は最後の最後まで知る由もなく。フレデリカの訪いをもてなすために、部屋を飾り付けたり、お茶を用意していたりする彼女の様子を見ていると心が空々しくなります。

 フレデリカがなぜ訪問をやめてしまったのかなども伝えてもらえず、お茶を濁すような理由づけさえされず、ただ放り出されたような状況に少しの寂しさを覚えていたりするのがまた虚しい。フレデリカからはフォローもないばかりか班員の数合わせとかそういう言われ方もしていて、彼女は基本的にホムンクルスになった魔法少女のことを ホムンクルス前と同一存在とは思っていない節があります。そうなのかな……。

 その辺りに読んだ時の印象が引っ張られている感はあるけど、やっぱりこう読むと人間のガワが勝手に変えられてるというよりもっと取り返しのつかないような形で人間が「道具」に加工されている感じがあまりにも強い。過去の洗脳描写の中で最も人道的ではない。本当か?

 

 いやー洗脳魔法の跋扈する魔法少女育成計画シリーズですが、最新作に来ていよいよ洗脳も切れ味を増してきている。被害者多数なのも良くない。これいい方向に解決するのかなあ!? 

「赤」の蓋を開けてみればハルナに使い潰される形でホムンクルス勢普通に全滅もありえそうなのが怖い。 JOKERSではグリムハートに4人の魔法少女が拉致されて、4人もいるから1人くらいは何か……どうにかなるのかなとかメタ読みでぼんやり期待してたら結局4人とも無慈悲に首を刎ねられるという逆に予想を超えてくるような展開もありましたし。救いはあるのかな。あるのかなぁ……。

 

 

 それはさておき、フレデリカからの訪問がなくなったクミクミは、自分の状況について改めて考えを巡らせます。クミクミはちょっとどんくさいような印象がありますが、しかし時間をかけて考えさえすればしっかりとした答えを導き出せるような魔法少女でもあります。2班の中でホムンクルス化されていない魔法少女であるアーデルハイトただ一人に襲撃の連絡が届き、2班の中で連絡に格差がついていることに気づいたクミクミは、役立たずの自分がフレデリカから切り捨てられているのではないか、というかねてからの考えをより深めます。

 実際のところは別にクミクミが役立たずだから見捨てられたというわけではないんですが、しかしクミクミがクラスメイトにひどいことをしたくない、フレデリカ陣営に属していつも躊躇いなく仕事をに取り組めるほど割り切った魔法少女ではなかったのも事実です。自分の状況を落ち着いて認識した後、しかしクミクミは「だったらと開き直り」ます。 

 

 フレデリカがなにかをやるとして、クミクミはそこに組み込まれないとして、ではどうすべきか。黙ってなされるがままというのは嫌だった。以前のクミクミならがっかりへこんで諦めていたかもしれないが、今は違う。思った通りにいかないくらいで放り投げていたら、生命を投げ打ってまでクミクミを助けようとしてくれたカナに申し訳が立たない。そこまでして助ける価値があると思ってくれたのだから、それだけの価値がある魔法少女でいなければならないのだ。*3 

 

 うおお! いい!! 自分のままならない部分を受け入れて、だったらこうしよう、こうしてやろうじゃないかと前を向く魔法少女を読むのは何度体験しても大好きです!  だいたいそういう魔法少女はすぐ死地に行ってしまうのでそのまま死んでしまうことも多いのですが、それはそれとして好きです!

 好きなんですけど……好きなんですけど! クミクミは……本当にその直後にハルナからの敵襲のアナウンスでホムンクルストして機能する道具になっちゃうんですよね。なんてことだ……。

 戦って死ぬのは本人が選んだ道の先の出来事ですが、これはそういう次元の話じゃない! もう具体的に尊厳がない!!

 本当に即座なんですよ! QUEENSであなただって魔法少女だをしたスノーホワイトその直後にプク・プックに洗脳されてたのを思い出すような、というかそれを上回るようなスピード感でそれまで積み上げた大切な成長やら変化やらが塗りつぶされていく。……最悪!

 

 攻撃と防御を繰り返す度にドラゴンのパーツが欠けていく。これだけは絶対に失ってなるものかと教室から持ち出せるようにしていたクミクミの努力の結晶が、徐々に損なわれていく。だが今はそんなことも気にならない。それより中庭にやってきた敵を叩き潰さなければならない。ただの義務ではない。それが楽しくて仕方ない。

 今までのクミクミであれば、こんなにも即断即決で動くことはできなかった。きっと他の余計なこと、クラスメイトの無事であったり、アーデルハイトとリリアンはどうしているのかであったり、自分達に連絡が来なかったのはどうしてかであったり、とにかく不要なあれこれで無駄に悩んでいたに違いない。

 無心で戦うことができる、それはとても素晴らしい。考えることが苦手なクミクミにとって、これ以上幸せなことはないだろう。*4 

 

 よ……良くないよ! こんなの!! と思わず頭を抱えてしまうようなクミクミの独白。質の高い虚脱感というか、初読からもう随分経つのにやるせなさが未だにすごい。

 中でもみんなで材料を集めて協力して作ってきたドラゴンが欠けていく描写が切実に心に来る、「時間をかけて大切に作ったものが意に沿わない形で粗雑に扱われたりボロボロにされたりする」描写、なんなら何故か人が死ぬより悲しくなるので困る。自分だけかなこういうの……。

 はぁ……。今読んでもまだ新鮮に憂鬱になります。ここからどうにかなるんですか?なるだろうか果たして……。

 

 

 はい。 好きなセリフです。セリフと言うか前後の描写含めなんですが、茶番での給食の残りのゼリー争奪戦でのクミクミが好き。

[…]今度は髪を短く切り揃えた浅黒い肌の少女、クミクミが、

「ジャンケンは……この人数では終わらない……バトルは……現状不可能……」 

と、誰もがわかっていることを重々しく口にした。*5 

  うーんいい。これは珍しく誰かの視点というわけではないので誰がこのシビアな評価を下したのかは定かではないですが、まあでもある程度のクラスメイトはみんな分かってることを言ってるなあと思っていたのだろうと思います。ランユウィは思ってなさそう。

 

  好きな ちょっとした描写。フレデリカに頭皮の匂いを嗅がれてドン引きしてるクミクミ好き。検証のためにわざわざ変身前でも頭皮を嗅がれている。怖い。そういえばフレデリカはlimitedではトットポップの頭皮の匂いも嗅いでましたね。習性なんだろうな。

 

 そんな感じで以上です。クミクミはこれから遺跡を採掘することになるのかなと思うと謎にモチーフにあってるなとは思う。また明日。

*1:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.182 宝島社,2022.2.10(ebook

*2:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.92 宝島社,2022.2.10(ebook

*3:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.251 宝島社,2022.2.10(ebook

*4:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.293 宝島社,2022.2.10(ebook

*5:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.70 宝島社,2022.2.10(ebook