すふぉるつぁんど

主に遠藤浅蜊著「魔法少女育成計画」シリーズについて書き残していくブログです。

まいにち魔法少女132日目:クラシカル・リリアン(白)

 

 本日のまいにち魔法少女です。

 今日はクラシカル・リリアンです。うお~2班所属の魔法少女では最後の1人だ。以下感想。

 

 

 クラシカル・リリアン。近衛隊勤務、アルカイックスマイルの宗教的魔法少女です。

 カナの魔法少女評では「破壊力♡2、耐久力♡2、敏捷性♡4、知性♡3、自己主張♡1、野望/欲望♡1、魔法のポテンシャル♡3」。結構他のパラが厳しいタイプのスピード型だ。そういえばホムンクルス相手でも決定力に欠けててホムンクルスに数手を要したりしてましたね。

 人間態名は三木千景さん。編み機の三木かな? 嫌いなものが「変身前の自分」とのことで、やっぱり……やっぱり嫌いなもの自分系魔法少女ファニートリック「弱い自分」、プリズムチェリー「臆病な自分」、プレミアム幸子「自分の魔法」 錚々たる面子)だった! 逆を言えば変身後の自分には割と満足しているのかな。その辺りは主人公と絡めて言及が有りましたがそちらについては後述。

 

 本編に入る前に「2年F組弁当合戦」でのクラシカル・リリアンについて。最高の弁当を持ってくるようにメピスから号令を下されたリリアンは、お弁当のレシピを求めてマジカルネットサーフィンに繰り出します。そこで胡乱なガバガバパスワードを入力することでなんと……リリアンはペチカの物語に辿り着いちゃうんですよね。び、びっくりしたこれ! 他人が鑑賞できてしまう形で故人の個人的な(……)生き様が残ってることあるんだ!?

 キークちゃん、スノーホワイトのお力で精神崩壊したのにこんなものをちゃんとネットに保存してて……偉いのか偉くないのかという感じだ。プフレ周辺とラズリーヌ周辺のデータは何故か消滅の憂き目にあってそうだなというのはともかくとして、リリアンはこの動画視聴を経て、なんなら「白」本編以上に心を揺り動かされています。

 

 頬が濡れていた。知らず知らずのうちに涙が流れ落ちていた。
 怒られることばかりを気にしている自分の小ささに奥歯を噛み締めた。そうではないだろう、と自分を叱りつけ、リリアンは立ち上がった。まだ間に合う。弁当を作るだけの時間はある。少女の半分、三分の一でもいい、食べる相手への愛情を込めることができれば、きっと素敵な弁当になるはずだ。*1 

 

 経路は置いておくとしても、ペチカの生きた姿を見てここまで影響を受けるとは。やっぱりペチカの物語エネルギーってすごい……そしてリリアンの物語に対する感受性もすごい。リリアンを見ていて常々思うことですが魔法少女育成計画を読んでみてほしい。

 

「嫌だ。このお弁当は誰の物でもない。私の物だ。私が食べなきゃいけないんだ。あの子のために、あの子の思いのために、誰にも盗られたらいけない、いけないんだ!」*2 

 

 ……いや影響を受けすぎではないだろうか? ペチカのより多くを読んでいる魔法少女育成計画の読者でもここまでにはならないと思う。いやなるかもしれないな……。

 リリアンの変身前の普段の振る舞いを見ていると、一層ここまで長台詞を一息に言い切ったことに驚きます。結果弁当を独り占めしているというのは若干挙動がバグっているような気がしなくもないですが。

 

 

 弁当合戦での彼女はさておき、本編「白」でのリリアンについて。冒頭での彼女は2班の早朝会合のために糸を張り巡らせて警戒態勢を築いています。普通に遅刻欠勤者も出るような早朝の集まりに無遅刻無欠席って相当……相当すごいなと思う。

 そのバイタリティの源は、彼女の「自分は脇役である」という自負でした。自分は主人公ではない、だからこそ「最適と思われるやり方で前向きに」*3 割り切り、主人公たちを補佐し、場を整えることに専心する。たまに向けられる承認の言葉だけでリリアンはひたむきに頑張れてしまう。

 

リリアンは自分が誰かの一番になれるとは思っていない。人間の時は論外として、魔法少女に変身しても難しい。自分自身の一番になることさえできていない。主人公にはなれない魔法少女なのだと考えている。*4 

 

 「自分自身の一番になることさえできていない」という言及はしみじみと苦いものですが、しかしリリアンはそんな風で居ながら、全然ネガティブ感を滲ませたりはしないんですよね。そこは変身することによる精神の強化が影響しているのかもしれません。

 リリアンリリアンという手段を手に入れたことで、人間としての三木千景さんは置いていかれ、かなり手入れが行き届かない感じになっています。その結果があのビジュアル、あの人となりなのだと思うと若干悪循環に陥っていないだろうかと思わなくもない。

 そういったちょっと難儀な要素はあれど、第一印象の神様的宗教的な佇まいに反して変身後も割と冷静に世界を見つめていたのが、リリアン視点は特に意外でありかつ魅力的……だったんですけど……。

 

更に二度鼻を鳴らした。匂いが強さを増している。周囲を窺うがそれらしき物はない。リリアンは一歩一歩慎重に進んだ。匂い立つ。香りで溺れてしまいそうだ。そこから三歩、四歩と進み、五歩、六歩目で足を止めた。

 いつの間にか色がついている。薄桃色に染まった空気の流れが渦巻いていた。濃霧に等しい。一歩先も見通すことができない。*5 

 

……怖い! 「白」で一番最初にこの時点ではまだ「何が起きているのか」がわかっておらず、ただ何かとんでもないことが起きた筈なのに何も起きていないという恐怖演出だけを見ることになります。不安なのにリリアンはその後ピンピンしている。意味がわからない。

 そしてフレデリカ視点で明かされる、クミクミが既にホムンクルスにされていたという事実でもって、時をそれぞれ遡る形で「クミクミもこのような恐ろしい体験をしたのであろう」こと、そしてリリアンホムンクルスになっているであろう」ことを理解させられる。気分が悪い……。

 

 というわけで開幕数十ページにしてリリアンホムンクルスになり、それはそれとしてリリアン(のような存在)の学生生活は続きます。

 フレデリカと接触したことでホムンクルスと知られ、その時点で情報網からは外されてしまい。その中でも彼女は全く落ち込むようなこともなく、自分のできることに取り組もうとします。

 

 創立祭の準備の途中でフレデリカからの連絡を受けて抜け出したアーデルハイトにいち早く気付いたのはリリアンです。物陰で変身したアーデルハイトを見て取ってか、直ぐ様変身を選び、自分が排斥されていることに気付いても大きな動揺を見せない振る舞いはかなりプロ魔法少女的。

リリアンの方はちゃんとできんのか」と問いかけたアーデルハイトに「やります」*6 と言ってみせたのは偽りではないのだろうと思う。それはリリアンがこれまでの人生経験から「割り切る」ことに長けていたからこそのスマートさだったのではないでしょうか。アーデルハイトを一瞬気圧させるほどの力が、その時のリリアンにはありました。

 ここの比較的ドライめな(そうか?)魔法少女のやり取り好き。割といいコンビだったのではないだろうか。

 

 その後もリリアンとアーデルハイトはリリアンの目が聡かったばかりに)コンビ的に動き、プリンセス・ライトニング相手に共闘しようとするのですが。

 リリアンホムンクルス化していて、アーデルハイトはしていない……という不幸な行き違いにより、リリアンは共闘を即座にやめて校内放送に従って中庭に走って言ってしまいます。「意味がわからない」というアーデルハイトの感想はそれはそう。

 思わぬ形で1対1を強いられることとなったアーデルハイトがプリンセス・ライトニングとやりあっている一方で、リリアンといえば中庭でメピス・フェレス、クミクミ、奈落野院出ィ子、テティ・グットニーギルと共にハルナの手駒として大活躍していました。

 そこで、その洗脳下の視点として。クラシカル・リリアンの心象は吐露されます。

 

 自分はきっと主人公になることはないだろう、と悟ったのは何歳だったかも覚えていない、物心つくかつかないかの時にはもう諦めていた。

 人生に諦めていたというわけではない。主人公は常に重い責任を背負うことになる。リリアンの性格ではきっと責任に潰されてしまうことになるだろう。それならば主人公ではなく脇役の方がいい。直接点を取ることができずとも、好アシストで得点に繋ぐことができたならば、それはもう主人公の一部といっても過言ではない。*7 

 

 過言では? というのはさておき、主人公よりも、重い責任からは逃れつつ、側で主人公を支えることができる脇役に憧れる……というのは、物語(とそれに伴う恋愛事情)に多く親しんできたリリアンのバックボーン的に納得しやすい在り方の落とし所だったように思います。

 なにせ脇役は時として主役を食ってしまうポテンシャルがあります。主人公より人気が出てしまう脇役というのも世の中にはままいることですし、そういう背景もあって、リリアンは自分自身を脇役として早々に定義することができたのかもしれません。そこで人間としての自分に見切りをつけるのは早々すぎると思わなくもないですが……。

 

 

 さて好きなセリフ。

「刑務所で記憶をいじられていると聞きましたが。実際、現在のカナさんは多少ズレているところがあるものの善良な魔法少女に見えますし。過去にヤバかったことがあったとしても当時の記憶を失い人格が変わってしまったのだとすれば、要するにそれは別人ということではないでしょうか」*8 

 ここ好き。ただ「記憶を失って人格が変わったとすれば、それは別人ということではないか」という推測は刺さる魔法少女がちょこちょこ居るんですよね……。

 この同一人物の連続性をどこまで追うかとか、どれだけ手が入ったら「別人」ということになるのかとか、「白」はその辺りに考え込む要素が本当に多くて疲弊したような記憶があります。スワンプマンについて改めて真剣に考える日が来るとは思わなかった。

 

 好きなちょっとした描写。ゼリー争奪戦においてどうやって勝者を決めるかを話し合っていた時の、

 手入れの足りていない長い黒髪に白い肌の少女、クラシカル・リリアンが何事かをいいかけ、皆が自分を見ていることに気付くと曖昧な笑みを浮かべながら身を引いた。*9 

 ここ。うーん気が弱いというかなんというか……。

 こんなに自分の意見を言うことに極度に苦手意識があるのに、創立祭の出し物案では恐らく「可愛いリリアン編み講座」*10 を推していると思われる。頑張って提案したんだろうな……。好きなものの中には入ってませんでしたが、編み物も変身前の時点で割と好きなのかもしれない。

 

 以上。近衛隊の人達は総じて……書いていて気が重かった。明日で今回のまいにち魔法少女は最終日になります。ではまた明日。

*1:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画episodesΣ P.323 宝島社,2022.4.8(ebook

*2:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画episodesΣ P.327 宝島社,2022.4.8(ebook

*3:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「黒」P.40 宝島社,2019.10.10(ebook

*4:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.40 宝島社,2022.2.10(ebook

*5:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.42 宝島社,2022.2.10(ebook

*6:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.237 宝島社,2022.2.10(ebook

*7:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.294 宝島社,2022.2.10(ebook

*8:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.45 宝島社,2022.2.10(ebook

*9:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.70 宝島社,2022.2.10(ebook

*10:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.168 宝島社,2022.2.10(ebook