すふぉるつぁんど

主に遠藤浅蜊著「魔法少女育成計画」シリーズについて書き残していくブログです。

まいにち魔法少女133日目:サリー・レイヴン(白)

 

 本日のまいにち魔法少女です。第4回は今日が最終日。

 最後の魔法少女はサリー・レイヴンでした。サリーかあ……! 以下感想。

 

 

 サリー・レイヴン。広報部門からやってきたキューティーヒーラー候補生です。カナの魔法少女評では、「破壊力♡4、耐久力♡3、敏捷性♡4、知性♡3、自己主張♡3、野望/欲望♡4、魔法のポテンシャル♡2」。野望/欲望の高さは流石キューティーヒーラー志望生。魔法のポテンシャルの低さを見るに、彼女が作り出せるという「カラスの使い魔」にはそれほど大きな可変性はなさそうですね。

 

 前巻の「黒」時点では、自分は、サリーはただ広報部門から差し向けられた尖兵というだけでなく、何らかの特殊な裏事情があるのではないかと思っていました(参照:まいにち魔法少女108日目:サリー・レイヴン - すふぉるつぁんど。しかし、短編「夜に翔ぶ少女達」での視点を見るに……そういう後ろ暗い事情はサリーにはなさそうなんですよね。

 

 サリー・レイヴンにとって、魔法少女学級への参加はキューティーヒーラーへの近道という以上の意味を持たない。幼い頃から憧れ続けてきたキューティーヒーラーとなるために鍛錬を続け、情報収集を欠かさず、時には媚びたり諂ったりもしてきた。その一環だ。*1

 

 いやそう言いつつやることやってる可能性もあるにはあるんですが、それにしてもサリーのこの描写からはそういう気配はしません。クライマックスでの「プロ」たるフリーランス魔法少女・プシュケとの見解の相違あたりからも、バリバリにシビアな判断を下すタイプではなさそうなのを感じました。

 そもそも広報部門の闇とかそういう要素と本人のキューティーヒーラー(原作)信者具合が噛み合わない。現実のキューティーヒーラーが清廉潔白かどうかはかなりさておき、アニメでの彼女らに純粋に憧れているなら、そういったドロドロ後ろ暗要素からは遠ざかっているに越したことはありませんからね。

 上での独白でも、自分のやってきたこととして「時には媚びたり諂ったりもしてきた」との言及がある程度で。まだ可愛げのある表現からも(可愛げがない例:同じ「候補生」という身ではありつつ、殺したことも殺されかけたこともあるルールー)サリーのポジションが比較的ドロついていないことが伺えます。

 

 

 小学生の時から魔法少女となり、それから「キューティーヒーラーという全魔法少女の頂点」を目指し全身全霊で魔法少女活動に取り組んでいた……と振り返られるサリーの過去からは、それ以降の経歴におけるきな臭さをそんなに感じません。しかし全魔法少女の頂点がキューティーヒーラーって、ちょっと想像以上に信奉者を極めているなあ……。サリーは現実の彼女らに会って「解釈違い」を起こしたりしなかったんでしょうか?

 ただ、サリーがキューティーヒーラーを全力で目指しているからこそ、一つ気になる点があります。日常生活やそれに伴うイベントをそこそこにして魔法少女キャリアに全振りする魔法少女は、アニメのキューティーヒーラー向きであると本当に言えるんでしょうか? 

 

 キューティーヒーラーよりはややネームバリューが落ちるかもしれませんが、一人のれっきとしたアニメ化魔法少女たるマジカルデイジーは、彼女の友人関係や私生活(や、ヤラセ的にタレコミが入った違法薬物取引情報)をベースに、それを脚色する形でアニメを成立させていました。

 キューティーヒーラーとマジカルデイジーはアニメ化の手法が違うのかもしれませんが、魔法少女活動以外の全てを軽んじているままで、彼女が憧れるキューティーヒーラーへの道は通じているのだろうか? 

 そういう意味合いでは、サリーが創立祭への参加に意欲的であったのこそ(アニメの)「キューティーヒーラー」を思わせるような挙動……だったのかもしれません。いやキューティーヒーラー未視聴な身でこういうことを書くのはかなり烏滸がましいというか本来やるべきではないことなんですけど。

 

 

 キューティーヒーラーの話をしたのでついでにかなり余談なんですが、短編「2年F組弁当合戦」でのサリーについて。

 そこでの彼女はキューティーヒーラーのキャラ弁を作ってきています。一段目は初代キューティーヒーラーことパール&オニキス。2段目はキューティーヒーラーギャラクシーからベガ&アルタイルです。4人も造形するなんて器用だな……。

 

「ダーク……キューティー、は?」*2と問いかけたのは恐らくクミクミですが、それに対するサリーの反応は描写されていませんでした。ここでのサリーがどういう返しをしようとしていたのか……かなり気になります!

 なぜなら、このキャラ弁に描かれているうち2人の「キューティーヒーラー」の間でも、ダークキューティーの扱いは真っ二つに割れているからです。短編「聖夜の魔法少女ども」でのウッタカッタの状況説明では、

 

「キューティーヒーラーで最強は誰かという話からダークキューティーの名前をあげる子がいたんだそうでございますです。ダークキューティーはキューティーヒーラーとしてカウントしちゃ駄目だろうってキューティーパールがいったのを聞いたキューティーアルタイルがガチ切れ、喧嘩になったのを止めようとしたキューティークラウドが殴り飛ばされているというわけでございますですよ」*3

 

 こんなことになってしまってる。プシュケがサリーの地雷を踏んだ時もそうですが、政治・宗教・キューティーヒーラーという感が拭えない。

 サリーは恐らく(キャラ弁の題材にする程度には)パールもアルタイルもどちらも好きなキューティーヒーラーなのでしょう。その上で、パールはダークキューティーをキューティーヒーラーカウントはせず、アルタイルはその判定に激怒して、クラウドは殴り飛ばされています。

 キューティーヒーラー・オタクであるサリーの見解は果たしてどちら側なのか……ぜひとも教えてほしい。「赤」で現場にダークキューティー御本人が出てきてくれたら答えが読めそうなんだけどな……。

 

 

 はい。本編の話に戻ります。

 どうやら「広報部門の闇」の中に身を置いていなさげ……とはいえ、(前回のサリーの感想で書いていましたが)サリーは人造魔法少女の仕組みについて既知っぽい程度には「情報通」ではあるんですよね。クラスメイトを見るときも、(人事ほど魔境ではないでしょうが)厳しい魔法少女社会で生き抜く力となったであろう本人固有の目の良さをビシバシと感じます。

 

 金魚モチーフの魔法少女「ランユウィ」は一見明るく楽しいタイプで人懐っこい。しかし半日一緒にいただけでわかった。彼女はそういう風に演じているだけで、実際とのギャップに苦しんでさえ居る。空回りしていることは本人も知っていて、それでも演じることはやめられないでいる。*4

 

 この辺とか。半日でわかっちゃうのはサリーがすごいのかランユウィがアレなのかというのは少しありますが……。

 しかし推定一般魔法少女であるテティはランユウィの人となりに気付いていない様子ではありましたし、なによりサリーの目の良さに関する描写はそこに限ったものではありません。

 

 夜間行軍中、ミスをしたサリーに対するプシュケの「謝る必要がないのに頭を下げるっていうのが嫌味っぽい」という言葉を、一度ギョッとはしつつも「毒を吐いただけ、というのとは違う。あれは、謝る必要なんてない、と慰めてくれていた。ただ、本人が不器用というか、悪口をいうことが染みついているせいで、そういう言い方になっただけだ」*5と思い至っている。……すごい! これは本当にすごい。

 まだロクに人間性わかっていない段階でこんなこと直接言われたら動揺したり怒ったりしてもおかしくないというか、そちらの方がありそうとまで思うんですが。サリーはその時点ですでにプシュケの難解な気遣いを汲み取ってしまえている。実際そうっぽいので良いんですけど字面だけ見ると異様にポジティブシンキングな人に見えなくもない。

 

 そういう目の良さを持ちながらも、人情をしっかり持っているのはラッピーと同じ。一人のプロ魔法少女でありながら(キューティーヒーラー候補生というポジション的に給料貰ってなくてやりがい労働させられててもおかしくはないので実際は別にプロじゃないかもしれない)、サリーはフレデリカ陣営からの急襲を見てとり、外部との連絡手段を絶たれていると理解してなお、クラスメイトと共に戦おうとしていました。

 その判断の是非はともかく、それはキューティーヒーラー(アニメ)を目指す魔法少女らしい振る舞いだったように思います。コンビを組んでいたプシュケは倒れ、自分の身も危ういような状況ではありますが、まずはそういう人を助けようとする気質を持つサリーがプシュケを助けることができたらいいなあ……。

 

 

 最後でサリーが連絡を取ろうとしていたのは恐らく母体たる広報部門だろうとは思うのですが。広報部門の偉い人は、どこまで考えてサリーという魔法少女を2年F組に差し向けていたんだろうか。

 次期次期次期……の次期キューティーヒーラーという随分ぼんやりした餌でもって2年F組に潜入することとなったサリーは、広報部門から捨て駒的に扱われたりしないだろうかというのがうっすら気になっています。この報酬のフワッと感が胡散臭すぎる……。

 広報部門が何を考えてるのか未だに不透明ではあるんですが、ただハルナが言及していた「火事場泥棒か漁夫の利を狙っているかもしれない」*6魔法少女として挙げられていたのは実験場のカルクトン、プク派のティッツ、人事のジューベの3名です。

 このことからも、広報部門がこれからの展開に大きく関わってくるということはないんじゃないかなあと想像しています。だからといってサリーが広報部門から大事にされてそうというわけじゃないんですが……。

 

 

 さて好きなセリフ。好き……好きというか未だにどうしてもじわじわ来てるセリフが一つあって、いい機会なのでそれについて。

 クラスTシャツの柄を決めるにあたり、キューティーヒーラーのシルエットを提案しだいぶごねてる時のサリーのセリフなんですが、

 

版権もの禁止って話でしたよね……」
「ほら、あれだよねえ。なんだったら広報部門に許可貰ってくれば」
「校長が禁止してんだから広報部門が許可しても駄目だろ」
「じゃあサリー案はこれでボツとして」
「いやあちょっと待ってちょっと待って。もうちょっとこうシルエットでもわかんないようにするからねえ」*7

 

 これを見た時猛烈な既視感が過り、初読ではパッと思い出すことができなかったんですが、いつぞや再読した時にその源にたどり着いたんですよね。

 それはJOKERSあとがきにおける遠藤先生と担当編集S村氏との会話です。

 

「それとこの団体についてもアウトです」
「あー、これもダメですか。わからないように書いてもダメですか?」
「ちらっとでもわかってしまうとダメです」
「本当に誰が見てもなんのことか絶対わからないように書きますから」
「そこまでわからないんだったら他の事書きましょうよ」
 まったくです。*8

 

 これ! これはひょっとしてセルフオマージュなんだろうか、はたまた期せずしてS村さんとのやり取りみたいになったんだろうか。そこまでわからないんだったら他の柄にしましょうよ……とツッコミを入れてくれる魔法少女は残念ながらいませんでしたが。

 この後書きでの遠藤先生とS村氏のやりとりかなり好きだったので、自分の既視感のもとに辿り着いた時はだいぶ……スッキリしました。まさか後書きの会話だったとは。

 

 妙な好きはさておいて好きなちょっとした描写。 

 

「プシュケはまたそういうこというんだからねえ。やってみなきゃわかんないよねえ」
 話し終えてから「ああ」と思った。やはり参加する方向で考えようとしている。歴代のキューティーヒーラー達が楽しんでいた学園祭というものへの憧れがどうしても捨てきれないでいる。
「うん。確かに、やってみなきゃわからない」
 ライトニングは誰にいうでもなく呟いた。またよくないことを考えていそうだなあ、と思ったが、サリーは黙って野菜スープを啜った。*9

 

 この一シーンがすごく好きです!

 ライトニングの回の時に言及し損ねた部分ではあるんですが、キューティーヒーラーになるという夢のために自分を律していたサリーがつい、そのキューティーヒーラー達の学園祭での様子から創立祭へ憧れを持ってしまっていて。そこで零された「やってみなきゃわからない」という言葉に、複雑な出自を持ち特別な何かを求めるライトニングが呼応する。

 それぞれ違うバックボーンを持つ彼女らが、ふとした言葉で同じ方向を向いている。この描写に初読時「いいな」と思ったのをよく覚えています。今読んでもいいなあ。「うん」と恐らく自分自身に相槌を打つライトニングが珍しく少しあどけない。

 

 

 以上。今日のサリー・レイヴンをもって、第4回まいにち魔法少女は終了です。楽しかった。字数制限を気にせず書くのかなり快適だったんですが、それはそれとして大変読みにくい長さになってしまうこともあったりで難しい。「赤」を読んでコールドスリープについてなかったらまたやるんですが、その時のレイアウトは改めて考えておきます。

 というわけで明日はまいにちを終えた上での感想や「白」の振り返り、来る「赤」の話などを少し書いて企画を一旦終わりにしようと思います。ではまた明日。