すふぉるつぁんど

主に遠藤浅蜊著「魔法少女育成計画」シリーズについて書き残していくブログです。

まいにち魔法少女130日目:奈落野院出ィ子(白)

 

 本日のまいにち魔法少女です。 

 今日は奈落野院出ィ子です。何度見てもすごい名前だな。字面ではパッと分かりませんが、ラズリーヌ候補生の一人です。以下感想。

 

 

 奈落野院出ィ子。名前も人間態も変身後もなかなかにパンチのある人です。カナの魔法少女評では「破壊力♡4、耐久力♡3、敏捷性♡4、知性♡3、自己主張♡2、野望/欲望♡2、魔法のポテンシャル♡2」です。一瞬だけどこにもいなくなる、という謎めいた魔法紹介に反して魔法のポテンシャルは低い。もな子みたいに異界そのものを作り出すみたいな魔法ではない感じなのかな。

 一瞬という条件は魔法の活用が難しそうだなと感じますが、魔法少女戦における「一瞬」はだいぶアドバンテージに繋がるのかもしれない。実際それでドッジボールでの被弾を回避したりランユウィの静止を振り切ったりしてましたしね。

 

 好きなものに読書と筋トレというなかなか相反しそうなものが並んでるのはちょっと面白い。人間態名は後藤瞳さんといいます。変身前の状態ですでに体格が良くて運動神経にも秀でているらしいですが、恵まれた体躯を筋トレでさらに伸ばしている様子。

 変身さえすれば圧倒的な筋力を手にしてしまえる魔法少女でありながら、趣味的に筋トレ好きってちょっとすごいな。嫌いなものは騒々しい場所、我儘な人間と、ライトニングと馬が合わなそうな感じをビシバシと感じます。よくやって行ってるな。

 

 

 さて「白」での出ィ子はモヒカンヘアに気合が入っていることをカナに見抜かれて嬉しそうだと気づかれるとか、ランユウィの退院が決まったことをクラスにばらしちゃって気まずそうな様子してたりとか、ちょっとあのいろいろ肝が据わってそうな見た目とのギャップを感じてしまうような人間味を見られて良かったです。

 このラズリーヌ候補生間での信頼関係というのが具体的に描写されることはそう高頻度にはありませんでしたが、「黒」での息のあった連携だったり、ここでのランユウィの退院に心から喜んでいそうな出ィ子だったりで、なんだかんだいい関係だったんじゃないかなという雰囲気が伺えますね。

 仕事として必要なことと言えるかもしれませんが、出ィ子が入院中のランユウィのところに毎日1人でお見舞いに行ってその日あったことを報告していたことがさらっと触れられてたりもしてました。毎日はすごいな。 

 

 ランユウィの退院周りで嬉しい気持ちが抑えられていない様子はありましたが、しかし出ィ子は基本的には落ち着いている方の魔法少女です。創立祭で浮き立つクラスメイトたちを見ながらも、任務のことを考えて心を抑えている出ィ子は、クラスメイトの中でも特に職業魔法少女的な振る舞いをしていたように感じます。

 この創立祭まわりでもライトニングとの馬のあわなさを感じるんですけど、任務第一の出ィ子と自分の思うままにやりたいことをやりたいライトニングとの方針は全然合いません。「こいつにだけはリーダーをやらせてはならない」*1という感覚は間違ってはないと思う。

 

 ライトニングと相対した時、だいたいの人間はカリスマ的空気に飲まれています。「 黒」の時に書いた(読者としての)自分の感想としても、ライトニングは色々思惑を巡らせているただものではない存在のような印象……を抱いていましたでした。それはライトニングがあまりにも美しく、そして自信満々であるがためです。ただ美しく微笑んでいるだけでなんらかの思惑を勝手に感じ取ってしまう。

 そんなライトニングに対し、出ィ子は一人ライトニングの本質のような部分を見抜き、「彼女にはリーダー適性もなければ潜入工作員適性もない」*2と言い切っています。相手の持つ空気に流されたりしない、すごくいい目と確かな自分の意志を持っているように思います。

 彼女の心の声を聞いたスノーホワイト曰く、「なにより任務を優先している」*3とのことで、仕事だからこそ苦手なタイプ相手ともしっかり堪えて付き合っていってるのかなあ。すごい。

 

 

 ライトニングに対しても的確な判断を下していた彼女が、ランユウィについてよく知っているのは言うまでもなく。出ィ子はランユウィの人となりを場合によっては本人以上によく理解していたと思います。プリンセス・ライトニングの美貌や自信ありげな振る舞いに気圧されて、思考能力が低下している様子まで即座に見てとっている。奔放なライトニングと、ぼんやりしたランユウィの間で挟まれている出ィ子は改めてだいぶ苦労人ポジだ。

 なかなかに不器用な彼女の気質を正確に見抜いた上で、『間違っている点を素直に「間違っているから直しなさい」といえば、それを気に病み、期待された仕事を果たせなくなってしまうかもしれなかった』*4というところまで思い至っています。実際ランユウィは、周囲の景色すら青色一色に塗りつぶすくらいのシングルタスクに持ち込んだほうがポテンシャルを発揮できそうでしたしね……。結果としてランユウィは期待された仕事自体は見事に果たしたんですが、まあそれはさておきます。

 そこまで優れた観察眼を持ちながら、「人間関係の調整役は任されたところで手に余る」*5と自称する出ィ子は、確かにオールド・ブルーの言う通り「自己評価が低い」のかもしれません。しかし彼女の視点を読んでいると、 戦うこと以外は得意ではないという風にはあまり見えなかったんですけども。

 

 

 そして話は少し進んで。アーデルハイトと勝手に通じ、襲撃を遅らせるよう頼んできたなどとんでもないことをやっている唯我独尊ライトニングに完全に圧倒されているランユウィを見た出ィ子は、彼女を任務に連れて行くことで頭の巡りを取り戻させようとします。

 この辺りのバランサー具合もやっぱり戦闘以外でも色々才能があるように思うんですが、それはそれとして……そこで出ィ子は不運にも「中庭」に捉えられます。

 

 出ィ子は息を止めたまま、足音を殺し、一歩ずつ穴に近付いた。そして穴の手前、手を伸ばせば届く距離で止まった。身体はまだ前に出ようとしていたが、強い意志の力をもって足を止めた。
 全てが異常だ。ここに穴があることもおかしいし、日没後に中庭にだけ日が差しているのもおかしいし、まるで誘蛾灯に寄っていく昆虫のような自身の動きも理に適っていない。なんらかの罠である可能性が高い。それもただの罠ではない、強力な魔法の罠だ。*6

 

  いやーホラーだ……。自分の状況に気づいて離れようとしても、近づく形で魔法を発動してしまうというのがガー不っぽくて怖い。

 わかっていながらに離れることはできないし、むしろ近づいてしまうし、危険を知っていながらも魔法を使うことはできない。そして……抵抗できずホムンクルスにされる。その後何事もなかったようにランユウィと合流する。全部怖い!

 

 ホムンクルス化に関しては詳細が不明ですが、彼女らの「魂」がどういう状況にあるかでおぞましさの深度もさらに変わってくるように思います。これがまだ後戻り可能というか、魂が無事だったらどうにかしようもあると思うんですが、その過程で別物に変性しちゃってたり、ただの素材として使用されて、魂そのものとしては壊れてしまってたりしていたら……本当にどうしようもない。

 そのことについて考える時に、出ィ子をホムンクルス化する時に推定ハルナが言った「お前のように学ぶ気のないものは」「いるべきではない」*7という恐ろしいセリフについてどうしても考えしまう。その言葉は出ィ子のような工作員魔法少女「いる」こと自体を全否定しています。そんな人が魂の状態を気にかけてくれるとはとても思えない……。 

 

 

 このホムンクルス化した出ィ子まわりのところで、一つかなり気になっていること。それは、彼女に対するオールド・ブルーの動向です。

 別陣営の話として、クミクミがホムンクルスであることを察知したフレデリカは、彼女への情報提供を遮断し、ホムンクルス伝いにどこかに情報が抜けるのを避けるよう立ち回っていました。

 しかし出ィ子はホムンクルス化していながらも、そういった情報遮断を受けているような様子はなかったように思います。ランユウィを看取って中学校に降り立った時のオールド・ブルーの視点でも、彼女はそもそも出ィ子の生死も分かっていないし無事を祈っているような状況です。

 

 そもそもにしてランユウィ&出ィ子の現場班がろくな情報を握らされていないというのは……その状況の理由の一つなのでしょうが(つまり多少筒抜けようがそもそもどうでもいい情報しかもらえていない。どうでもいい情報じゃないことを知っていたライトニングは急遽三代目に記憶処理を施されており、ラン出ィはそれすら必要としていないくらい何も知らない……)、しかしランユウィのそれと比較して、オールド・ブルーの出ィ子の状況への理解がかなり曖昧なことには違いないんですよね。これが気になる。

 ランユウィの「死相」を見抜いていたオールド・ブルーは、しかしフレデリカが本能的に感づいたような、出ィ子のホムンクルス化には気付かなかったのでしょうか?(それとも、気付いている上でそれほど重要ごとではないとして言外に処理しているのでしょうか?)

 

 もしもオールド・ブルーが出ィ子のホムンクルス化を認知していなかった場合。(これは特に描写を元にしていない自分の想像でしか無いのですが)オールド・ブルーがランユウィの魔法を成長させ、自分の元へと魔法を繋がせるために、できるだけ接触ややり取りを絞っていたというのがその原因となるかもしれません。

 オールド・ブルーの魔法の詳細が分かっていないままの話にはなりますが、「本質を見抜く」魔法を持っていて、かつ勘の鋭い初代ラピスラズリーヌなら、対面して話さえすれば出ィ子がホムンクルスであるということに気づかないなんてことはないんじゃないだろうか。

 もし実際に会って話していたり、そうでなくとももう少し密なコミュニケーションをとっていたら、(前述の仮定のもとでの)オールド・ブルーの出ィ子に対する描写はもっと違っていたものになったんじゃないだろうか……と自分は思っています。あくまで想像に過ぎないものですが。

 その場合だと、ランユウィの命を手段とするためのオールド・ブルーの戦略が出ィ子の現状に気づくことの遅れに繋がったというちょっと皮肉な構造となるんですよね。だからどうなるというようなこともなくランユウィは死んでいるんですけど……。

 

 

 はい。それはそれとして好きなセリフです。出ィ子は、寡黙に分類されるであろう魔法少女の中でも本気で喋らない方の魔法少女です。この辺もライトニングと対照的。その中で印象的だったセリフと言えばやはり、

「二人で行きたい」
 出ィ子が言葉を口にすることは滅多にない。それを知っている者であれば、出ィ子がいうことをある程度重んじてくれる。ランユウィはどうしてそんなといったことをぶつぶついいながらも出ィ子の誘いに応じ、二人の魔法少女は夜の学校へと走った。*8

 ここですよね……! 作中でも重みのある言葉として扱われている、というか出ィ子に関しては発した言葉が少なすぎて自動的に言葉自体に重みがある。ここでもさらりとランユウィと出ィ子が通じ合っている描写があり少し切ない。

 

  好きなちょっとした描写。

 ライトニングは「二重スパイなのか?」と疑われるようなことを堂々と話した。出ィ子は内心困惑しながらも最後まで聞いた。ランユウィは見るからに動揺しながらも最終的には「なるほどそういうのもアリっすね」と頷いていた。
 アリなわけがなかった。*9

  ここ大好きです。本当にアリなわけがない。そこで声に出して突っ込まないのが出ィ子だなあとも思います。あの場面で「なんでやねん」できるアーデルハイトは……アーデルハイトだなあと思う。

 

 以上。ホムンクルスになった出ィ子が楽しそうに1班や2班のメンバーと連携したり握手したりしてる様子への感情は省きました。また明日。

*1:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.172 宝島社,2022.2.10(ebook

*2:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.172 宝島社,2022.2.10(ebook

*3:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.73 宝島社,2022.2.10(ebook

*4:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.173 宝島社,2022.2.10(ebook

*5:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.173 宝島社,2022.2.10(ebook

*6:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.176 宝島社,2022.2.10(ebook

*7:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.177 宝島社,2022.2.10(ebook

*8:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.174 宝島社,2022.2.10(ebook

*9:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.171 宝島社,2022.2.10(ebook