すふぉるつぁんど

主に遠藤浅蜊著「魔法少女育成計画」シリーズについて書き残していくブログです。

まいにち魔法少女126日目:ランユウィ(白)

 本日のまいにち魔法少女です。

 今日はランユウィです。うおお……。初代ラピス・ラズリーヌことオールド・ブルーを信頼し、敬愛していた魔法少女です。以下感想。

 

 

 ランユウィ。3班所属で出ィ子と同じラズリーヌ候補生です。

 カナの魔法少女評では「破壊力♡3、耐久力♡3、敏捷性♡4、知性♡2、自己主張♡2、野望/欲望♡4、魔法のポテンシャル♡3」です。人間態名は鈴井沙穂さん。

 2年F組は結構敏捷性高めな人が多いですが、例に漏れずランユウィも敏捷性が高い。そういえば「黒」でのパトロールの時も、長距離走に限っていえば、並走している出ィ子よりも僅かに速度で上回っている」*1 とのことで、ランユウィは出ィ子を上回る速度を出せるという言及がありました(スプリントでは出ィ子の方が早いっぽいですが)。

 ホムンクルスクラムベリー戦では「金魚の生命力をナメるなよ」*2 と独白していましたが、耐久性はそれほど高いわけではなく、むしろ実際の本領はスピードタイプ。あの極限状態での生命力は、彼女本来のタフネスというより精神力の載せる技だったのかもしれませんね。

 

 知性が低くて野望/欲望が高い魔法少女は、ちょっと自分の身の丈に合わないような夢を抱いてしまっていたり、そしてそれを自覚していたりすることがあってしばしば生きづらそうさを感じる。

「選ばれること、認められること」が好きで「置いていかれること、恥をかくこと」が嫌いという好きなもの・嫌いなもの欄もこう……余すことなく苦しさがあります。ランユウィが自分で自分を認めてやることはなかなか難しい境遇だったように思うし……。 

 


 さて「白」冒頭でのランユウィは、「黒」でのホムンクルスクラムベリー戦で負った重傷のため、研究部門お抱えの病院に入院していました。

 そこで出ィ子とライトニングの2人にお見舞いに来られた彼女は、ライトニングがラズリーヌ派閥だと知らなかったため当然驚きます。そりゃそう。ライトニング、青い魔法少女ですらないし……。

 驚いている間に、お見舞いのプリンは見舞われている本人に届くことなく見舞い側の手によって完食され(??????)、その言語道断行為にすら文句を言えないまま、ランユウィはライトニングの謎のカリスマとでもいうような押し出しの強さに圧倒されています。

 

 見た目に騙される者もいる。ランユウィがそうだ。彼女は、容姿の美しさであったり、自信ありげな振る舞いであったりにころりと騙される。かといって「騙されている」と指摘するのも障りがあった。ランユウィは精神的に強いとはいえず、始終悩んでいる。間違っている点を素直に「間違っているから直しなさい」といえば、それを気に病み、期待された仕事を果たせなくなってしまうかもしれなかった。
  ランユウィは便利至極な固有魔法を持ち、戦闘もこなせる有能な魔法少女だ。しかし当人は、適性があるとは思えない「ラズリーヌ」という現場リーダーに憧れている。言葉遣いまで真似てラズリーヌになろうとしている様は、滑稽を通り越し、悲哀が見えた。*3


 タッグを組んでいるからこそというべきか、出ィ子はランユウィの人となりをすごくよく把握しています。頭のCPUに負荷をかけられると、処理能力が落ちてより一層相手の自信ありげな振る舞いに流されやすくなる……という描写は生々しく物悲しい。利用されやすさを感じてしまう。押し売りとか胡散臭い情報商材とか期間限定アイテムとかタイムセールとかに切実に弱そうで不安になる。

 

 

 無事に退院した後は他のクラスメイトと一緒に学園祭の準備をしたり、ドッジボールをしたり、トロールの最中に出ィ子をホムンクルスにされたりしていたランユウィでしたが。そののどかな日々(……)も一転、最終盤では、中学校はオールド・ブルーの宿敵たるピティ・フレデリカ派閥の魔法少女に襲撃されます。

 その「襲撃」が始まる直前。ランユウィの印象的だったシーンといえばここです。フレデリカ陣営に属する2班と、ラズリーヌ陣営である(一部)3班の衝突が勃発しかけた……その時。

 

「ちょっと待つっす」
 皆がランユウィの方に意識を向けた。ランユウィはそのことに満足を覚えつつ、アーデルハイトとリリアンの方に掌を向けた。
「なんにしろまずは事情を聴くべきっす。さっきから皆が割り込むせいでアーデルハイトが話せなくなってるじゃないっすか」
「事情もなにもある? 賊と繋がってるって時点でアウトでしょう? メピスやクミクミに話が通っていないというのは別に私が知ったことじゃないし」
「いや、それは、まあ、でも、聞いてみないとわからないことだって……たぶんあるっす」*4

 

 ここ! ランユウィは自発的に意見し、ライトニングとアーデルハイトの衝突を止めようとします。珍しくまごまごしているアーデルハイトを見て自分を思い出したという何とも言えない理由が混ざってはいますが、それでも少し前ではあれだけ圧倒されて頷くばかりしかできなかったライトニング相手に、ランユウィが意見したし、更に粘ってみせたというのはかなり記憶に残りました。 

 ただまあその直後にアーデルハイトは襲撃の連絡が来ていることを認めるし、実際襲撃は始まるし、なので結局ライトニングは戦ってしまうんですけど……。それでも、ただ誰かにいいようにされているばかりではない、ランユウィ本人の主張のようなものをここで見られて良かったなあ。なぜならこの後でこの上なくいいようにされるので……。

 

 

 その先で、ランユイは、彼女の知らぬところでホムンクルス化していた出ィ子と道を違えることになります。出ィ子は校長ハルナからの校内放送を聞いたことで中庭に走って行ってしまいますが、その行動原理はランユウィには把握できるはずもない。

 かなり動揺してもおかしくないような状況下で、出ィ子がおそらく精神系の魔法の影響下にあり、それが校長の校内放送と関連しているかもしれないと即座に推測できているのはさすがラズリーヌ候補生と言うべきでしょうか。

 しかしその混乱も覚めぬ合間にランユウィは敵の魔法少女に見つかり、足をボウガンで貫かれたことで走って逃げることも封じられ……彼女は死に物狂いで魔法を発動させます。

 

 このシーンのランユウィ、クラムベリー戦で極度に集中していた時の彼女と比較するとどうにもモタモタしているというか、ラズリーヌといえば、というような勘所の良さみたいなものは全然感じられないんですよね。

 なんでこんなにランユウィがアッサリ不覚を取ったのかといえば、それは出ィ子が言及していた「精神的に強いとは言えない」「まくしたてられるとランユウィの脳は動きが鈍くなる」というあたりが関連しているのではないかなあと思います。

 学園祭を前倒してフレデリカ陣営が中学校を急襲し、アーデルハイトとライトニングが戦い始め、そして最も重要なこととして、彼女が信頼してきたであろう相棒の出ィ子がその直前で「自分を無視して」走り去ってしまった。そのことに彼女が動揺して、最良のパフォーマンスを出せなかったとしても不思議ではありません。

 

 ただ、そうしてもたらされた孤独、不安、命の危機のもとで彼女の魔法は大きく成長します。致命傷を負ったランユウィは、必死で魔法を発動し、自分の信頼する魔法少女である初代ラピス・ラズリーヌことオールド・ブルーのところまで「扉と扉をつなげ」てみせました。これは覚醒にあたるんだろうか?

 ただそれでも致命傷からは逃れられず。魔法は超距離を繋ぐことには成功しましたが、ランユウィはもう死にゆくばかりです。ただ彼女は、そうして魔法を発動したことで、オールド・ブルーから「最高の仕事をしてくれましたね……あなたを弟子にして本当によかった」*5という餞の言葉を向けられます。

 自分の能力の足りなさを誰よりも自覚しており、ラズリーヌになることはできないと薄々分かっていて、しかしそれに気づかないふりをしてきたランユウィです。オールド・ブルーが手向けたそれはこの上なく嬉しい言葉だったでしょう。何よりも欲しかった相手から承認の言葉が与えられたわけですから。1粒の涙を流し、笑顔を浮かべて息絶えた様子は、……満足して息を引き取ったと言えるのではないでしょうか。

 

 しかし……その時オールド・ブルーが何を考えて行動していたかといえば、

 

 彼女が大きな成長を果たすタイミングがあるとすれば、それは感情の動きが引き金になる。ラズリーヌはランユウィの才能に沿って彼女を育て、ここぞという状況で魔法が成長するよう指導した。本当にどうしようもない生命の危機に陥れば、彼女は生来の臆病さゆえに爆発し、本来の性能を遥かに超えた魔法を使用する。普段はごく短距離にしか届かない魔法が、追い詰められたことで限界を突破し、遠く離れた「最も近くにいて欲しい人」との間に道を繋ぐ。オールド・ブルー達はそれを通ってここまで来た。*6


 こんな感じだったんですが……。あああ! 恐ろしすぎるよもう! 直前にあったホムンクルス中学生魔法少女視点の連続あたりでおぞましいメーターは振り切れてるんですよ!! 

 クライマックスにかけてハルナが壮大に魔法的に倫理に反しているかと思えば、そのすぐ後ではオールド・ブルーがソフトに年若い魔法少女生命を手段として消費しているし、さらにその後ではピティ・フレデリカがさらっと無実の現身候補の魂を洗脳し、デコイとしてリップル復讐相手にあてがうとかいう、様々な形・方法・シチュエーションでの人の命を何だと思ってるんだみたいな展開が繰り広げられすぎていて、この辺もう……一周回って笑えてきてしまっていた。恐ろしい。

 非人道的行為って多種多様なんだなあという学びがある。ランユウィは本人の気質すらオールド・ブルーに利用されていて、そしてその展望通りに命を落としてしまった。本人が満足そうに逝っているのがまた本当にやるせない。ランユウィの最期を知ったらさすがに出ィ子も 3代目ラピス・ラズリーヌも好意的な反応をしなさそうですが、しかし出ィ子は今あんな感じだしなあ……。

 

 

 さて好きなセリフ。入院中に出ィ子とプリンセス・ライトニングにお見舞いに来られた際の、ライトニングの 自由奔放極まりない話題運びについていけずこぼした「ああ、そっすか。え? それが今なんの」*7が好き。めちゃくちゃ振り回されている。

 口調は 2代目ラピス・ラズリーヌのコピーなのに、このひたすら翻弄されてる感は全然2代目ラピス・ラズリーヌじゃないのがちょっとじわじわくる。むこうむしろ振り回す側だし……。

 

 好きなちょっとした描写。同じくお見舞いにて、プリンセス・ライトニングが三代目ラピス・ラズリーヌに記憶を抜かれているという話をさらっとされた時の

 それにしても、たとえ一時的、一部分であっても記憶を奪われて平然としている胆力は相当なものだ。戦略的に味方の記憶を抜くというやり口を聞かされ少々引いているランユウィは己を恥じた。覚悟が足りていない。*8

 ここ好き。悲しくなるほど常識的。いやその感覚が正しいと思います。

 

 ちょっとここの描写からは外れる余談なんですけど、このお見舞いのところの3人の挿絵かなり好き。 下側にいる2人が結構な結構な美形(出ィ子こと後藤瞳さんもモヒカンに目が行きがちだけどかなり整った容貌をしているように思います)なんですが、ランユウィこと鈴井さんもまた素朴で可愛らしい顔つきをしている。

 しかしやっぱりライトニングこと田中愛染さんにまず目がいってしまうのは……もうしょうがないと思う。本当に魔法少女と言われても納得するような圧倒的な顔立ちをしている……。


 はい。ランユウィは客観的に見れば死を見越されていながらもそれを利用され使い潰された魔法少女ということにはなりますが、せめて彼女視点での最期は、敬愛する師匠から認められたという認識のもとでの安らかなものでありますようにと改めて思いました。ではまた明日。

*1:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「黒」P.181 宝島社,2019.10.10(ebook

*2:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「黒」P.274 宝島社,2019.10.10(ebook

*3:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.173 宝島社,2022.2.10(ebook

*4:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.224 宝島社,2022.2.10(ebook

*5:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.309 宝島社,2022.2.10(ebook

*6:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.309 宝島社,2022.2.10(ebook

*7:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.60 宝島社,2022.2.10(ebook

*8:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.62 宝島社,2022.2.10(ebook