すふぉるつぁんど

主に遠藤浅蜊著「魔法少女育成計画」シリーズについて書き残していくブログです。

まいにち魔法少女127日目:カナ(白)

 

 本日のまいにち魔法少女です。

 今日はカナです。次巻では登場人物紹介でも名前変わってたりするのだろうか。以下感想。

 

 

 カナ。2年F組生徒ではありますが、発売直前企画の趣旨が「カナのカウントダウンクラスメート紹介」であるがためにカナ本人の紹介はありません。自己紹介してよ!

 まあ「白」の発売前にカナのパラメータ出ちゃったら、あっこれ現身だ……! と即座に察しがついちゃいそうだし、うまい形でのネタバレ回避となっている。でもぜひとも現身のパラメータは見てみたいです!

「♡5」パラメータは上限値だけにその個人差が最も大きい印象ですが、流石にカナもまあグリムハート同様に破壊力・耐久力・敏捷性オール♡5の超弩級魔法少女ではあるのかな。

 

 そう、カナ、というかラツムカナホノメノカミは三賢人の現身が一人です。現身としての姿は小説内で描写されるより先に表紙でお披露目という新手の先行公開スタイル。

 和というか中というかな衣服はプクやグリムハートとはまた違った形で神々しい。紫×オレンジの配色、4つの聖印が神聖さを醸し出しています。手に持っていたり髪に飾られていたりする花は金木犀かなあ。同じ色味のリップがまたかわいい……。

 いよいよこれで(当時の)三賢人現身のビジュアルが全て公開となったわけですが、どれもこれも絢爛で見ていて大変素晴らしいですね。この人達が揃って合議してるのぜひ見てみたいです。マルイノ先生のイラストがちらっとTwitterことXで見られたように思いますが。

 

 

 カナがラツムカナホノメノカミだとわかってしまったからには、どうしても見逃すことができないラツムに関する言及があります。それはQUEENS電子版あとがきにおける、ラツムカナホノメノカミは「パワーゲームに勝利するためのアイテムとして生み出された前二人とは違い、「魔法の国」を救おうという目的で生み出され」*1たという遠藤先生の言葉です。

 魔法の国を救う! もう崩壊寸前みたいなこの国を!? 目的が崇高すぎるし無謀すぎるし。しかしその目的で生み出されたからにはカナの固有魔法は本来もっと壮大な持ち回しをされているのが正しい運用方法だったのかもしれません。記憶を取り戻してからは「遺跡」に反応を見せていたカナですが、カナの出自がこうであるからこそ遺物をうまく利用できたりなどするのだろうか。

 

 ラツムカナホノメノカミについては、同じQUEENSの電子版あとがきで「プクとグリムが世界最高峰に屈強な軍人だとすれば、ラツムは優れた技術を持つ職人、くらいの違いがあります」*2との言及もありました。まあそれはカナを見ている限りでもなんとなく納得感がある。フレデリカが利用してた現身素体三体も超強いというわけではなかったですし。

 とはいえ「一般の魔法少女はアリや羽虫くらい」*3としてしまう程度の圧倒的な強さはあるとのことで……。それが職人クラスって三賢人現身の強さの次元違いすぎる。現身本体の気質に弱点があるとはいえ、スノーホワイトやプフレ達はよくまあそんなの相手に出し抜いてみせたなあ……。

 

 2年F組組ではゼリー争奪椅子取りゲームに名乗りを上げかけたカナに、メピスが(人間VS魔法少女となるため)「死人出す気か」と窘めていましたが。カナにとっては「魔法少女同士」での模擬戦やレクリエーション自体、ちょっと手元を間違えてしまえば本当に死人が出かねないような力量差の下で生きていたんですね。

 

「もうちょっとまともな球投げえや!」
「しかし、だ。全力で投げつけ、それが命中すれば大きなダメージとなるだろう」
「そういうゲームなんだよ!」*4

 

そういうゲームなんだけどそういうゲームではない。「大きなダメージ」というのはまだ穏当な表現で、実際にカナが全力でボール投げてたら魔法少女そのものが消し飛びそうだしその前にボールが消し飛びそう。

 

 

 こうして考えてみると、身体能力では羽虫を超えたミジンコみたいなものであろう佐山楓子さんと普通に同棲してたカナ相当凄いですね。人間用のキッチンで野菜炒め作るなんて、人間がシルバニアのキッチンで料理するようなものなんじゃないか。

 そのへんは言語を(スラングの翻訳失敗は有りつつも)魔法で翻訳してしまえるような魔法的器用さがあるのかもしれませんが、しかし小さなものに対する尊重がないと流石にそんなことはできないと思う。

 

 グリムハートは怒り狂った。
 ハートのエースを蹴り、殴り、文机に顔面を叩きつけ、壁に向かって投げつけた。原型が留まっていたあたり、意識せず手加減したのだろう。まだ理性は残っている。
 しかしまだ理性が残っているという自己評価が怒りの火に油を注いだ。全てをぶち壊してしまいたい。*5

 

 ……そんなことはないかもしれない。グリムハートもまあ激昂しなければシャッフリンのハートエースを消し飛ばさない程度の加減はできているし。いや自制心の次元が違いすぎるんですけど。あの三賢人現身様による「全てをぶち壊してしまいたい」とかいうメチャクチャに率直で元気いっぱいに自分に正直な地の文、本当に原始的というかなんというかですごいな……。

 

 ただ、感情的になると制御が緩むというのはカナにも近しいものがありそうです。

 クライマックスにてプキン剣から開放された時のカナは、それまで自分の力を制御できていたのに反し、手すりを握り潰し壁から引っ剥がしてしまっています。カナがそれまで(殊更には描写されていないものの)かなり気を使って生活していただけに、ここの唐突な破壊行為はかなり印象的でした。

 

 

魔法少女の鋭敏な五感は、普段は魔法少女以外からの奇襲を許さない。しかし、魔法少女の集中力は五感同様に優れているため、作業への没頭没入も人間や魔法使いのそれを上回り集中している時に思わぬ奇襲を受けてしまうことがある。*6

 

 カナが現身と確定してしまえば、同じく印象的となるのはこのシーン。この人、創立祭の準備の見学に没頭してて人間が近付いてきてるのに気付いてないんですよね。ぼんやりしすぎでは!? まあ人間が近付いてきたところで存在の程度が低すぎて逆にパッと認識できないというのはあるかもしれませんが……。

 本人がもっともらしく色々理由を付けてはいますが、これは単にカナがめちゃくちゃ個性的にマイペースしてるからでは? と思わなくもありません。

 

 カナの大きな魅力といえばそこなんですよね。なんか飄々としていて捉えどころがない。「黒」の頃から素でやってるのかすっとぼけてるのかが掴みにくい。言い回しは古風なのにそこに漫画からの引用が入ってくるからいよいよわけがわからない。

「上品かつ理屈っぽく駄々をこねる」*7様子がテティにありありと想像されているあたりからも、カナの在り方が多面的であることを感じます。上品に、理屈っぽく、駄々をこねる人。変な具合にややこしい……! 「黒」では実際に似たようなことをハルナにやってたように思います。

 ハルナとカナといえば、創立祭の参加についてハルナに直談判しようとし、あの2班メンバーから一斉に止められてるくだりなんかの自由奔放さはもう相当好ましい。しかしカナのこの妙な行動力がクラス全体に波及して創立祭の参加に繋がったわけで、やっぱりカナは「ただズレている」人じゃないんですよね。謎にことを動かす力がある。

 

 

 聡明なのに天然だし、メピスから注意されてもなお好きな漫画のセリフを現実での会話に持ち込みたがるし(かわいいよくないオタク)、そんな感じでいながら同時に本人の超然とした精神性が垣間見えるような、達観した振る舞いを見せたりもする。カナはこのマーブル具合がかなり特異で好きです。

 彼女の「俺には二班の一員として班員を守る義務がある。班長の微細な変化も見逃さない。そう、つまり俺は二班にとっての親代わりといっても過言ではない」*8という言葉なども、本気で言っているものなのか、それとも漫画世界から世界観を引っ張った上での言葉なのか、それをパッと判別するのは難しいんですよね。

 でもカナがメピスに「なにか悩み事があるなら聞こう」*9と言葉をかけたのは、カナがメピスをよく観察し、その変化を見て取ったからこそのことで。本来の魔法少女的立ち位置からしても、親代わりという言葉はあながち冗談でもなんでもなかったのかもしれません。

 

 このようなカナのこの掴みどころのなさは、本人のちょっとユーモラスな性質によるものだとは思うんですが。「自分の身を低く見積もって」*10いるところがあるというラッピーの評価だったり、本人の「カナは世の中の全てを知ることができるわけではない。諦めねばならないものは少なからずある」*11という独白だったりにはその「掴みどころなさ」の出処を感じるように思います。

「黒」であわや命を落としかけたシーンでもそうでしたが、カナの在り方にはどこかペシミスティックなフレーバーがあるんですよね。そこがまた底の知れなさに繋がってきている。しかし世をひねているというわけでは全くないのが不思議で魅力的。

 これは本来のカナが「魔法の国の救世」を存在意義としつつ、しかし魔法の国自体がもう存続を危ぶまれているという現状も影響しているのかもしれませんね。

 

 カナは「もしも俺が悪であれば遠慮なく倒してほしい」という気持ちをいっぱいに込めてスノーホワイトを見詰めたが、スノーホワイトは困惑した様子で首を傾げた。*12

 スノーホワイトがこれからどうなるのか、そしてカナがどう動いていくのかが未知であるがために、ここもまた記憶に残るシーンでした。スノーホワイトとカナが同じようなバトルもの漫画を読んでいるというのも気になる描写ではありましたが……。

 

 スノーホワイトにとっての現身って、グリムハートとは正面切って敵対し、プク・プックとはもっぱら協力関係(なお)というものでした。

 どちらもスノーホワイトにとって圧倒的な上位存在であり、かつろくでもない相手だったことに違いはないとは思うのですが、ではラツムカナホノメノカミはこれからスノーホワイトとどう関係していくのだろうか。

 今となっては三賢人の現身というポジションを簒奪されかかってているようなカナだからこそ、これまでの現身には無いような形でスノーホワイトと共闘できたりしてたら……いいなあ。

 

 

 さて好きなセリフ。カナ魔法少女学級から飛び出して2年C組のモブ人間(ムラオカかコウノかクロダかサナダ)と話している時の、

「ラーメンは身体に悪いのではないかと考えている」
「そりゃあまり健康的ではないかもしれないけど……でも美味しいでしょ」
「生命を賭して美食に耽るとはあまりに退廃的ではないか」
「そんな大袈裟な話なの?」*13

 ここ好き。そんな大袈裟な話ではない。

 ちょっと触れそこねましたが、カナはこの一般クラスの人間たちとも仲良くなってしまっているんですよね。記憶を取り戻す前のカナは、刑務所から解放してくれたフレデリカの恩義を裏切る形で中学校を守ろうと決意していますが……魔法少女からしたら障害物以下みたいな存在であろう一般人を守ることはできるのだろうか。最後のシーンでは彼女らの手を振り切って飛び出していってしまったカナですけど……。

 

 好きなちょっとした描写。

 魔法少女学級の署名は無事ハルナに渡ったことだろう。二回も同じ署名を書かされたのだから署名が通る可能性も二倍、とまではいかなくても、一・七倍くらいにはなっているのではないだろうか。通る可能性が高いということは、つまり梅見崎中学創立祭に参加するということになる。*14

 このカナのガバガバ計算相当相当好きです。2倍とはいかなくても1.7倍くらい……でなんか希望的観測を若干慎んで見せてるのもかなりいい。自分もこれくらい楽観的に生きたい。

 

 以上。現身としての失われた記憶、「自分が何者だったのか、なにをしていたのか」*15の内容次第によって、「赤」でのカナの動きは全然違ってきそうですね……。全てを思い出したフルパワー・カナの魔法や身体能力がどれだけのものなのかはぜひ見てみたい。ではまた明日。

 

*1:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画QUEENS No.3670 宝島社,2019.8.23(ebook

*2:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画QUEENS No.3676 宝島社,2019.8.23(ebook

*3:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画QUEENS No.3678 宝島社,2019.8.23(ebook

*4:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.148 宝島社,2022.2.10(ebook

*5:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画JOKERS No.4222 宝島社,2019.8.23(ebook

*6:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.108 宝島社,2022.2.10(ebook

*7:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.98 宝島社,2022.2.10(ebook

*8:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.142 宝島社,2022.2.10(ebook

*9:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.142 宝島社,2022.2.10(ebook

*10:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.85 宝島社,2022.2.10(ebook

*11:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.223 宝島社,2022.2.10(ebook

*12:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.52 宝島社,2022.2.10(ebook

*13:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.225 宝島社,2022.2.10(ebook

*14:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.106 宝島社,2022.2.10(ebook

*15:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.268 宝島社,2022.2.10(ebook