すふぉるつぁんど

主に遠藤浅蜊著「魔法少女育成計画」シリーズについて書き残していくブログです。

まいにち魔法少女124日目:メピス・フェレス(白)

 

 本日のまいにち魔法少女です。

 今日はメピス・フェレスです。メピス!彼女の視点や描写にはこまごまとした好きなところが多かったです。以下感想。 

 

 

 メピス・フェレス。近衛隊勤務であり2班の班長です。カナの魔法少女評によれば「破壊力♡3、耐久力♡3、敏捷性♡4、知性♡2、自己主張♡4、野望/欲望♡3、魔法のポテンシャル♡2」。本人は堂々たるバトル好きですが、戦闘能力自体はやっぱりそれほど高くはないです。「甘い言葉で堕落させる」固有の魔法で相手の集中を削ぎ落としつつ戦うという感じが基本スタイル。

カナからは「粗暴で粗野で粗雑で粗放な面もあるが根は優しい」との一言が向けられています。だいぶ粗い。でも実際根は優しいし面倒見もいい。メピスは現身と妙に縁があり、短編「2年F組弁当合戦」では現身候補の素体だったフランキスカフランチェスカに魂が乗り移ってしまったパステルメリーと知り合っています。あの後漫画やサブカルトークで盛り上がったとのことなのですごい。

 

 

 メピスの根の優しさというか懐の広さが伺える遠藤浅蜊先生のpost。似たような神聖存在モチーフのリリアンに引かれてるのじわじわ来る。そういえばここでもbreakdown勢と梅見崎中学校との縁がありますね。「赤」でメリー参戦も可能性としてなくはないのかもしれない。短編知らなかったらあまりにも唐突すぎるし無いかな……。

 

 

 「白」でのメピスの魅力的な描写といえば、まずはやはり「黒」から続くカナとの付き合いがあるでしょう。

 漫画にドハマりしたカナからもっと読みたいと要求されたり、質問攻めにあったり(質問攻めされてるということはここでも地味にカナの魔法発動してるんだろうか)することで2班メンバーでの朝の会合を欠席することもあったり、カナより遅れて帰宅した時にはごく自然に「ただいま」「おかえり」を言い合う仲になっていたり、いつの間にかカナが晩御飯を作れるようになっていたり、それが特別言及されるでもないメピスの中の日常になっていたりなど、読んでいるだけで楽しくなったり悲しくなったりするようなささやかな日常の描写がすごくいい。魔法少女の生活感描写がそもそも好き。

 

 漫画に夢中なカナの様子を見て、「自分が好きなものにはまる人を見るのはいつだって楽しいものだ」*1 と独白するメピスは、オタクからしたら非常に共感できるものです。「黒」の頃から魔法少女育成計画が好きな人間に刺さる描写が多い。

 漫画から引用してきたセリフを連発するカナに対して「お前さ、誰もが知ってるって前提で漫画の台詞混ぜんのやめろよ」*2 と注意するあたりとか、良きオタクとしての振る舞い方を教育している風があります。やっぱり面倒見が良い。自戒的にはなりますが知らないミーム連発されたら本当に会話にならないからな……。

 一緒に暮らしている距離感で自分の好きなものにどっぷり使っている様子を見ていたら、そりゃあカナに対する面倒見も良くなっていくというものです。「黒」の頭の方ではかなり浮世離れしていて、不気味な印象すらあったカナですが、今のメピスは、

 

 悪いやつではない、むしろ可愛げはあるが、突飛な行動のせいで目を離していられない同居人、というのが今のメピスにとってのカナ評だ。最も相応しい言葉を選ぶとすれば「妹分」というところだろうか。とにかく世話がかかるのがそれっぽい。しかしこんなことを口に出せば調子に乗りそうなので心の中に留めている。*3 

 

 という印象を抱いているようです。うおお……。なんて可愛い内心なんだ。根は優しいというカナの評価も改めて非常に頷ける。

 本人は知る由もないとはいえ、 紛うことなき三賢人の現身「妹分」と思っていたことを知ったらメピスはどういう反応をするんだろうか。しかも自派閥のトップの三賢人だったという。メピス好みのバトル漫画的展開ではないかもしれないな……。

 

 

 ただ、かつてメピスが妹分のように感じていたのはカナだけではなく。彼女はテティ・グットニーギルに対しても姉貴分のような心持ちでいました。このテティとメピスの関係も「白」の大きな見所の一つではあるんですが。 この2人について考えていると気が重くなってくるんですよね……。

 

 テティのことは、後から考えれば考えるほど「しくじった」と思った。カナと暮らすことでその思いはどんどん大きくなった。自分が妹分だと思っていたからといって、だからなんだというのだろう。テティにはテティの人生があるし、たとえ妹分だったとしても姉貴を越えてはいけないということにはならない。それは越えられる姉貴の方がだらしないだけだ。テティは少々無神経なところもあるが、総じてメピスの方が悪い。それをわかっていて仲直りすることができないのが最も悪い。*4 

 

 しかし改めて読んでも、ここは気が重くなっているどころではない、驚くべきメピスの思慮深さを感じます。

 感情的と言われるメピス(実際感情的ではある)がこれだけしっかり事実を捉え、反省しているということに驚く……のもあるんですが。中学2年生であるメピス、こと佐山楓子さんが「テティにはテティの人生がある」という、人間関係を構成する上でこの上なく当然でいてこの上なく大事なことをさらりと言語化できていることになにより驚きました。

 いや世間一般の中学生ってもうそんな感じなのかな。自分がそれくらいの年齢の頃はもっと何も考えてなかったような気がするんですけど、まあ自分自身が特別何も考えていなかったという可能性は十分ある。ただその直後に2班班長としてのメンツを考えて、冷製な内心と面目への意地で板挟みになっている感じは年相応だなという感じですが……。

 

 

 それだけ繊細に物事を見ているメピスは、だからこそ彼女の上司であるピティ・フレデリカからの指令に思い悩みます。そりゃそうですよね。平穏な日常をぶち壊すような行為に加担しろと言うか、主体的にそれを起こすように言われているわけですから。

 ここでのメピスは「これはもうダイレクトにテロリストだ」*5 と独白し葛藤しています。それを知ってか知らずか校長のハルナも中学生の中に「テロリスト」がいると表現していましたが、それは別にこれまでバリバリに国家転覆企てていた人がいる……というわけではなく、フレデリカ陣営である近衛隊たちのことを指していたのだろうか。クミクミをホムンクルス化したあたりでその時点での内情はハルナに筒抜けてるだろうしなあ。

 

 そう……メピス、クミクミ、リリアンは、近衛隊という1チームでありつつ全員がホムンクルスにされているというえげつない集団でもあります。ハルナのホムンクルス化に明確な採用基準はなく、都合が良かった者から処置をしていったという風なことを言っていましたが、しかしメピスは佐藤さんを信用しているテティを介して「黒」の時点から結構積極的に中庭に誘われていたような気がします。

 この理由はちょっとわからなくて未だに怖いんですけど、まあそれは最初期からの手駒であるテティ伝いにメピスが一番誘いやすかった……ということなのかな。でもそれならテティの所属していて普段付き合いの多い1班周りの人も狙った方がいいような気がするんですけどそういう気配はなかったんですよね。うーんこの辺りは謎。

 

 

 というわけでメピスは「白」の途中でホムンクルスになります。裏を返せばそれまではホムンクルス化することによる精神への干渉が入ってくるようなこともなく、正真正銘等身大の中学ニ年生として思い悩みながら生きていたということです。

 悩みながらも、そしてその悩みをよく周りを観察しているカナに見抜かれながらも、それでもいつも通りのクラスメイトの一員としての生活を続けていたメピス。カナの発案をきっかけに創立祭の準備が始まり、その中でふとしたはずみでテティと仲直りすることができたのは、それまでのメピスが等身大にあれこれ煩悶している様子を見ていたからこそとても嬉しかった……んですけど……。

 

 その時点で「中庭」に関連する不穏な描写は多発しており、クミクミ周辺で勝手に魔法少女ホムンクルスにされていることが明らかになっていて、つまり中庭を通学路とするテティは既に「何かされている」のではないかという疑惑と不安感も最高潮に達し、その彼女は「仲直り」をきっかけに騒動の焦点たる中庭にメピスを誘おうとしており、それには嫌な予感しかなく、そして……。

 

 面倒なことになった。先客だ。テティが手を振っている。話に聞く用務員だろうか。中庭の茂みの向こうにしゃがんでいた何者かが立ち上がった。作業着、首からタオル、という典型的なスタイルだ。髪をひっつめにして纏め、長い耳の先が尖っている。メピスは顔を顰めた。校長か、と思ったが、よくよく見れば顔立ちが違う。なぜ校長と見間違えたかといえば、耳の先が尖っている以外にも、全体的に線が細く顔かたちが整っているという物語に登場するエルフそのものの女性だったからだ。
──いや、でも……。 
 どこかで見たことがある顔だ。どこで見たのか。女性は左手をこちらに伸ばした。気が遠くなる。立っていられない。これは── *6

 

 ここ切実に具合が悪かった。「佐藤さん」という少しコミカルな印象だった(けど物凄く薄気味悪かった存在がそれどころでなく異様な存在だった……ということを知るのはもう少し後のハルナ視点なんですが。しかしテティが「優しいお爺さん」*7ある佐藤さんをイメージとして重ね合わせていたという恐ろしいミスリードのせいでここの衝撃は尚の事すごかった。女性エルフじゃん! ……ホムンクルスクラムベリーじゃん!!!

 テティがそんなことすら正しく認識できていなかったという事実は、メピスがこれからなるホムンクルスおぞましい存在であるということを言外の説得力でもって裏打ちしていて。でもその直前にテティとメピスは仲直りしていて。その結果がこの中庭で……。ううう関係性が修復された瞬間に人間性がぐちゃぐちゃになる。

 

 ハルナの校内放送で中庭に集められた後、メピスは一瞬クラスメイトのことを気にしたり自分自身の思考を「こうしていれば良かったんじゃないか」と振り返るのですが。

 単独行動しているカナの無事を心配していたり、除け者にされた疎外感を感じていたのではないかと自分を分析していたり、そういったこれまで魅力的に感じていたメピスの繊細な感性の全ては、校長の「油断はするな。まだ来る」*8 という言葉に塗り潰されていきます。書いてて思い出したけどこの自己を分析する感じかなりレイン・ポゥ視点だなこれ……。

 あああ……。もうとんでもない読後感でした。ホムンクルスとしてハルナに使役されている時にはテティとメピスが仲良く連携できているというのがまた苦しすぎる。こんな、こんなの良くないよと呻くことしかできない。

 

 

 こうして振り返ることで改めて強く思いますが、魔法少女育成計画における「死」とは自分にとって時に避けがたい悲しい出来事であると同時に、否定しようもないほど大きな見所でもありました。

 死の間際に魅力を爆発させる魔法少女は数多くいます。嫌な言い方をしてしまえば、自分は魔法少女育成計画を読む中で苦しみながらも死を楽しんでいたのだなということを、この「白」を読んでいてしみじみと再度自覚しました。

 

「白」では、中学生魔法少女はランユウィを除き(明確には)死んでいません。死にはしていない。ただ大人の手によって知らず知らずの間に人間性を損なっている。

 本来持っていた肉体がホムンクルスのものと代替され、魅力的な人格が他人の好きに制御されている、しかもそれがメピス一人に与えられた不幸ではなく、「多数ホムンクルス処理されているクラスメイトのうちの一人でしかない」と感じるような展開は楽しいというより虚しさが強く、一周してその呆然とするような衝撃が面白いという新次元の読後感に慄きました。うお~~苦しかった……。

 

 

 はい……。好きなセリフ。2年F組ゼリー争奪戦の時の、無法極まりないプリンセス・ライトニングに対する「ルールが決まってなくても人としてのルールは守れや!」*9 が好きすぎる。その通りでしかない。

 その後椅子取りゲームで立ち上がろうとしたカナを制する「お前じゃねえ。死人出す気か」*10 もかなり好き。メピスはやはり感性が豊かなのが由来してるのか、それとも言葉を操る魔法少女だからか、好きなセリフが多いなと思います。

 

  好きなちょっとした描写。

 なにかに仕えて給料を貰うというのはこういうことだ。責任を負わされて常に不自由を強いられる。自由に学級と本校を行き来して情報を仕入れてくるカナを見ると羨ましくなるが、カナがメピスになることはできないように、メピスはカナになることができない。*11

 ここ好き。サラリー魔法少女としての悲哀を中学2年生にしてすでに抱いている……。

 しかしカナに羨ましさを抱きつつも、「自分がカナにはなれないように、カナも自分にはなれない」と割り切っているのはやはり年相以上の精神の発達を感じます。偉いなメピス……。

 彼女が「妹分」だと思っていたカナは、メピスの預かり知らぬところで失われていた自分の記憶を取り戻し、一人動き出しています。この2人が今後どういう風に接触するのか、はたまたしないのかも気になります。

 

 以上。ホムンクルス魔法少女の感想を書く時気が重いとばかり書いているような気がする。また明日。 

 

*1:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.139 宝島社,2022.2.10(ebook

*2:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.180 宝島社,2022.2.10(ebook

*3:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.137 宝島社,2022.2.10(ebook

*4:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.140 宝島社,2022.2.10(ebook

*5:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.141 宝島社,2022.2.10(ebook

*6:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.221 宝島社,2022.2.10(ebook

*7:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「黒」P.29 宝島社,2019.10.10(ebook

*8:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.297 宝島社,2022.2.10(ebook

*9:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.69 宝島社,2022.2.10(ebook

*10:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.71 宝島社,2022.2.10(ebook

*11:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.215 宝島社,2022.2.10(ebook