すふぉるつぁんど

主に遠藤浅蜊著「魔法少女育成計画」シリーズについて書き残していくブログです。

まいにち魔法少女123日目:プリンセス・ライトニング(白)

 

 本日のまいにち魔法少女です。

 今日はプリンセス・ライトニングです。来た……!「白」に置けるだいぶド派手な重要人物です。以下感想。

 

 

 プリンセス・ライトニング。クラスメイトには明かされてはいませんでしたがラズリーヌ陣営の3班所属魔法少女です。

 もう初っ端からクリティカルな話をしてしまうんですが、プリンセス・ライトニングとは(当初は)研究部門と実験場で共同開発されていたプリンセスシリーズの最先端に位置する群体的人造魔法少女です。 その製作レシピは複雑怪奇と想像されますが、

 

 ラズリーヌ一派はその少し前、三賢人の現身であるグリムハートによる施設襲撃時にオスク派の人造魔法少女を鹵獲していた。その人造魔法少女から得られた技術と、プフレの記憶が合わさり、プリンセスシリーズの決定版たるプリンセス・ライトニングが完成した。*1

 

 という描写とまあ具体的な結果物から、進化を続けてきたプリンセスシリーズとシャッフリンの融合体なのであろうと考えられます。 

 我々にとって一番身近なプリンセス・ライトニング個体が♡9であるという描写から、少なくとも1単位として52人(鹵獲したシャッフリンが初期タイプであったことから考えるとジョーカーを含めて53人かもしれません)、そして「この学校を埋め尽くすだけの人数を用意してある」*2というオールド・ブルーの口ぶりから、恐らくはそれが複数単位存在するのではないかと考えられます。悪夢かな?余談ですがライトニングが古いタイプのシャッフリンを引いてる子だとジョーカーライトニングがクビヲハネたら即座に全員復活する可能性もあるわけで、それはもう尋常じゃない無限戦力になってしまいそう。

 

 ドリィの視点曰くシャッフリンはどちらかというとホムンクルスに近い側の人造魔法少女っぽいようですが、ということはライトニングもデリュージとかそのあたりよりはホムンクルス性を帯びてたりするんだろうか。まああんなにすごいことなってるとそれでも全然驚かないな……。

 人造魔法少女育成計画を推し進めてきたオールド・ブルーに言わせれば、

 

「プリンセス計画はライトニング、そして他所から頂戴した人造魔法少女の骨子を合わせて結実しました。今までの人造魔法少女とは……いえ、私を含めたあらゆる魔法少女とはものから違う。彼女達が学校を担当するのであれば心配は無用です」*3

 

 とのこと。この人の発言常に本気で言ってるのか判断が付きかねるところがあるんですが「あらゆる魔法少女とはものが違う」とはかなり大きく出てますね。

 魔法の国を潰すという壮大な野望を抱いているオールド・ブルーがそう言うからには、恐らくは魔法の国と本気で渡り合うに足るような戦力こそがプリンセス・ライトニングなのでしょう。すごいな。まあシャッフリンの人数規模でアルティメットエクスプローションを起こしたら地球がやばそうな感じはします。

 

 フルメンバーで起こしたアルティメットプリンセスエクスプロージョンの破壊規模について思いを巡らすのはそこそこにして。カナの魔法少女評では、あの♡9ライトニングですら「破壊力♡4、 耐久力♡2、敏捷性♡4、知性♡2、自己主張♡5、野望/欲望♡4、魔法のポテンシャル♡4」と高スペック。

 いやひょっとするとこれは「プリンセス・ライトニング」における平均的な数値なのかもしれないですけど。♡9で耐久力が2というのはちょっとこれまでのシャッフリンのイメージとは違いますよね。それかこれまでの常識とはまた違う強さの区分がされているか。

ライトニングの「私より強いのが来るかも」*4という素晴らしいセリフから考えるに、スート制度自体は引き継がれてそうではある。♡ライトニングは相対的に愛嬌が強めだったりするんだろうか。プリンセス・ライトニングにおけるスペードのエース的存在は果たしてどんな強さを持っているものなのか、ちょっと想像するにもワクワクします。

 

 

 こうしてさらっとライトニングの核心部分に触れてはみましたが、もちろん初読時はとんでもない衝撃でした。まずプリンセスシリーズとシャッフリンシリーズの系譜が1つの人造魔法少女として合流することに驚いたし(その技術自体には)興奮した。

 ただしかし……自我がある存在を52×n複製して武力とするのはあまりにも人倫に反した手段すぎはしないか? というのはもちろんあり……。

 2年F組にいるライトニングの人間態名は「田中愛染」。そのままあいぜんと読めば煩悩や愛欲への執着を示すという仏教用語ですが読み方はあい。そして下の名前からは彼女が「ハート(愛)の9」であることが漢字に忍ぶ形で示されています。

 これオールド・ブルーが命名したのかなあ。彼女の通名である「田中」を名字としているけれど家族感は……全然ない。実験体ナンバーが可愛く修飾されたような、可愛さと無機質さの混ざりあった名前だなあと思うのと同時に、「あの」ライトニングに愛染という語を授けたことにもまたイヤだなあ……という思いもちょっとある。何もかも本質を見抜く目がよくない。

 

 魔法少女としての存在形態自体がちょっと人として禁忌的な雰囲気を感じるライトニングですが。彼女の人倫外れっぷりはその程度で収まることはなく。ライトニング(と名前がつく前の存在)は生まれ落ちたその時から非倫理的でした。

 

 その中でもプリンセス・ライトニングは飛び抜けて悲惨な身の上だ。彼女は文字通りの商品だった。倫理観を狂わせた魔法使いが生み出したデザイナーチルドレン──ただただ美しくあればいいという目的で開発された愛玩用の人間だ。商品としてさえ不適格だったため流れ流れて師匠の下へやってきた。*5

 

 あ……愛玩用の人間。もうとことんよくよくひどすぎるを極めている。制作者に対して「倫理観を狂わせた」ときちんと言及されていることに安堵すらする。

 これまで何度も異様と描写されてきた彼女の美しさは、実際のところかくあれかしとしてデザインされたものでした。「ただただ美しくあればいい」という制作コンセプトには、ライトニングの内面や情緒などは何一つ期待していないような残酷さがあります。

 その上で「商品としてさえ不適格」ということでラズリーヌのところにやってくるの最悪の上乗せすぎる。失敗作だったんだ……。

 

 これまで幾度となく奇矯な振る舞いを見せては来ましたが、そういう生い立ちにしてはむしろ田中愛染さんは常識的な人間だったと言っていいように思います。

 中学校の生徒として違和感がない程度に立ち振る舞い、皆で給食を食べ、時にはルール無視のデザート早食いなどをしつつも、概ね社会生活の一部としてはみ出さない程度に生きていました。凄すぎるな。その辺りはさすがにただ美しくあればいいにしても最低限必要とされるであろう社会性として初期搭載されてたのかもしれませんが。

 

 

 社会性を維持していることに限らず、ライトニングは信じられないほどすごい人です。3代目ラズリーヌをして悲惨と言わせる身の上でありながら、ライトニングは自分の境遇によってひねくれたり、それを気に病んだり、萎縮したりするような様子を一切見せません。眩しい……。

 今のライトニングはどこまでも堂々と、彼女のやりたいように、興味の赴くものにひたむきに、生きています。しかしそれは彼女が生まれてからずっとそうだったというわけではなく。中学校生活を経て、ライトニングは「そうなった」のでした。

 

 創立祭の準備中、カルコロに手伝われながらエアコンを運んでいる時、カルコロは以前のライトニングについて「学級活動には大した興味もなく、達観しているというか浮世離れしているというか、とにかく冷めている生徒」*6だったと言及しています。

 その印象はここに至るまでで大きく変わっていた。ライトニングは他者から見てもまっすぐに、学生生活の全てに興味を持ち、楽しんでいた。

 

「あなたも変わりましたねえ」
 口にした直後、躓きかけた。見れば、ライトニングが足を止めている。
「変わった? 私が?」
 カルコロを食い入るように見詰め、その双眸は窓から差し込む日差しを受けてきらきらと光り輝くようだった。
「変わったってどんな風に? いつ頃から変わったように思ったの? いい意味での話よね? 悪い感じではなかったし。どんな理由で変わったと思ったの?」
 矢継ぎ早に質問を繰り出してくる。感情を表に出すことが滅多にない彼女にしては珍しく、とにかく嬉しそうだ。*7

 

 ここ……ここ!!! 白でのどんでん返し要素であるライトニングの「作り」の部分から先に触れたのは、それを前提としつつも、そちらよりこのシーンの話をしたかったからです!

 いやあ……良かった!! 誰もが好きだろうとは思いますが、言うまでもなくここ大好きです!

 

 ライトニングは中学校生活を経て変わっていた。そしてそれを他人から言及されて喜んでいた。キラキラと光り輝く瞳のことを想像して胸が高鳴ります。 

 彼女がたくさんのライトニングの中の1人であること。親の元で愛されて生まれてきたような存在ではないこと。 それらのバックボーンが彼女の「変わる」こと、「特別ななにかになる」ことへの喜びに関係しているのかもしれない……とは思いますが、なんだかそういうことがどうでもよくなってしまうくらい、このシーンのライトニングの喜ぶ様子が好きだった。

 

 ホムンクルスになって違和感を持たず使役されている魔法少女たちが数多くいる世界でこう書くのはちょっと収まりが悪いですが、この瞬間のライトニングはすごく「生きている」感じがしたんですよね。それが輝く彼女の瞳や、 普段にないほど勢い込むセリフではじけるような説得力を持って心にスッと入ってくる。

 物語を読む時系列で言えば、本来はこの後彼女がシャッフリン性を帯びた「たくさんの中の1人」である、非常に特殊な魔法少女であることを知るのですが、それが「かわいそう」ではなくて、逆にだからこそこの瞬間の、いまを生きているライトニングの魅力がいや増すような納得の仕方をしたのが自分はとても印象的で、そしてすごく大好きでした。いやー今読んでも好きな描写すぎてなんとなく嬉しくなるな……。

 

 

 はい。あのシーンについての話は満足したのでライトニングの愉快な個性の話です。

「あなたも変わりましたね」と言ったカルコロではないけれど、ライトニングはオクターブ的に本人のおもしろ具合が増していってて、黒でのミステリアスでちょっと傲慢そうな感じからどんどん変な人感が増して行ってたのも良かった。でもお見舞いのプリン全部食べるのは良くないよ!! お見舞いのプリン普通全部食べるか!? 食べるんだよなライトニングなので……。

 

 短編の時点で夢の世界で豪華絢爛弁当を食らいつくさんとしてたり、好きなものが「朝食、昼食、おやつ、夕食、夜食」だったり、冷凍みかんを貪り食ってたり、プリンを瞬間的に爆食いしてたり、コッペパンを飲んでたり、学園祭で飲食物を扱うべからずとのお達しを聞いて台パンしたり、クラス T シャツにラーメンの匂いをつけようとしたり、それがダメならバニラアイスの匂いをつけようとしたり、彼女の食に対する欲求はとどまるところを知りません。というかむしろ強くなっている感じがする。

 この辺りは漫画にぞっこんなカナと通じるところがあるように思います。生命世界にある魅力的な刺激に夢中になっている感じ。「白」での展開は全部それはそれとしてライトニングには是非アーデルハイトとパナースのラーメン食べに行って欲しい。

 

 

 食い意地以外の彼女の愉快な個性もう一つ、それはなんだかんだで魔王塾イズムを引き継いでいることです。 
「風雷棲魔暴流<プラズマボール>」*8「燦騨無礼紅<サンダーブレイク>」*9と来て「羅倶珠有耗度・爆棲吐<ラグジュアリーモード・バースト>」*10には思わず声を上げて笑ってしまった。初代もびっくりの魔改造っぷり。おそらく魔王塾に感染してるライトニングはこの♡9さんただ1人だと思います。これもまたかけがえのない個性だと思う。

 その技名をお披露目してみせた最終戦では、ライトニングは敵対陣営に属する雷将アーデルハイトにリベンジを挑み、そして……戦闘経験で何歩か上回っていたと言えるであろう彼女に返り討ちにうのですが。

 

「特別な……なにかには……なれなかった」 
「そうそうなれるもん違うわ」
 「なりたかった……悔しい……けど、わりと、清々してる……かもしれない」 
 咳を挟み、口に溜まった血液を吐き捨て、ライトニングは続けた。 
「なぜ特別な……なにかに……なりたかったか……よく覚えていないけど……きっとこれは……記憶が……」 
[…]
「でも、やっぱり……なにを忘れたのかもわからないまま、死にたくはないの」*11

 

  ここ……ここも好きなんだよなあ。「何を忘れたのかもわからないまま死にたくはない」というセリフにそうだねと思いつつ(三代目の記憶操作に対する複雑な感情)「特別な何かになりたかった」というライトニングの行動指針が開示され、正当な順番としてはここで「変わる」ことに嬉しそうだったライトニングへの納得が訪れることになります。

 ライバルとの一騎打ちというドラマチックな展開でこういった内心をこぼすライトニングは……十分すぎるくらい特別に魅力的ですが、それでは満足できないくらい彼女はもっともっと自分の思うままに生きて、いろんなものを我が手にしていきたかったのでしょうね。

 現状はだいぶどう転ぶかわからないような状況ではありますが、アーデルハイトに逃げることを薦めたライトニングは少なくとも彼女に生き延びてほしいと思っているわけで。 その願いがどうか叶ってほしいと思うばかりです。

 

 

 さて好きなセリフ。好きなセリフ多すぎる。饒舌な魔法少女はセリフを眺めるのもひとしおに楽しいですね。

 これまでもたくさん好きなセリフを引用してきたんですが、1つ追加であげるなら「学園祭といったら模擬店でしょう。それ以外ある? 私はないと思う。これはもう絶対よね。譲るつもりは一切ないから」*12大好きです。ニコニコしてしまうようなライトニング・ムーブ。力強い言葉です。それ以外あると聞いていながら全然他の意見を求めて来ない感じ超いい。

 

  好きなちょっとした描写。好きなちょっとした描写多すぎる。本校側での話し合いに赴こうとした時の、3本の班員から『「あれをするな」「これをするな」「可能な限り黙っていろ」といったことをライトニングに命令、というかお願い』*13されてるとこ好き。可能な限り黙っていろってお願いしてたのは一体誰だったんだろう。サリーかな……。

 

 以上。クライマックスのどんでん返し種明かしを担っていただけあり、ライトニング書きたいこと多すぎる。ではまた明日。

 

*1:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.91 宝島社,2022.2.10(ebook

*2:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.311 宝島社,2022.2.10(ebook

*3:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.229 宝島社,2022.2.10(ebook

*4:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.312 宝島社,2022.2.10(ebook

*5:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.228 宝島社,2022.2.10(ebook

*6:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.212 宝島社,2022.2.10(ebook

*7:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.212 宝島社,2022.2.10(ebook

*8:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.245 宝島社,2022.2.10(ebook

*9:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.276 宝島社,2022.2.10(ebook

*10:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.276 宝島社,2022.2.10(ebook

*11:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.283 宝島社,2022.2.10(ebook

*12:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.167 宝島社,2022.2.10(ebook

*13:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.216 宝島社,2022.2.10(ebook