すふぉるつぁんど

主に遠藤浅蜊著「魔法少女育成計画」シリーズについて書き残していくブログです。

まいにち魔法少女116日目:ミス・リール(白)

 

 本日のまいにち魔法少女です。

 今日はミス・リールです。ややおどろおどろしい見た目に反して、登場人物の中でも屈指の真っ白魔法少女です。以下感想。

 

 

 ミス・リール。人間体状態では椅子取りゲームにおけるウェイトの優位を持つ、どっしりとした安心感のある人です。

 カナの魔法少女評では、「破壊力♡2、耐久力♡5、敏捷性♡2、知性♡3、自己主張♡2、野望/欲望♡2、魔法のポテンシャル♡4」。好きなものの一つに「友達」、嫌いなものに「誰かを傷つけること」があり、もうこのあたりからも善良さがにじみ出ています。魔法少女態とのギャップがすごい。人間態名は鐘ヶ淵聡子さんです。画数多くて格好いい名前だな……。魔法少女名との関連はそんなにないかな?

 

 改めて観るにも「金属でできた身体の材質を変えられるよ」という魔法はかなり活用が色々ありそうで気になるんですが、「白」は魔法少女の戦闘シーンが少ないために、ミス・リールの新たな魔法の活かされ方もそんなになかった。

 ただプシュケ・プレインスとの連携で水銀を噴霧されて水銀形態になってたり、アーリィの鎧で防御力を高めてたりと、フレデリカ派閥の襲撃の際にはこれまでの活用方法をなぞるような形で活躍していましたね。「赤」での舞台の一つになりそうな遺跡では魔法的な金属が出てきたりしないだろうか。

 


 さて、白における彼女の印象的なシーンといえば、間違いなく物語中盤でのスノーホワイトと1対1でやり取りするところでしょう。ミス・リールが「善良」な魔法少女であるからこそ。その心の声に疚しさや後ろ暗さがなく、ただスノーホワイトを気遣っているからこそ。スノーホワイトは彼女とのやり取りに強い苦しみを覚えています。うおお……。

 彼女との会話はスノーホワイトに、姫河小雪に、強く疲労を自覚させる。相手を気遣う彼女の心の声が聞こえてくるとそれだけで頽れそうになる。だがスノーホワイトは彼女に嘘を吐き、利用しなければならない。*1 

 ミス・リールはやはり困っているようだったが、スノーホワイトは彼女が頼まれると弱い人であること、困っている誰かを放置してはいられない魔法少女であることを知っていた。善人の弱みにつけ込むような真似をしているという罪悪感に苛まれながら、小雪はいよいよ頭を低くして手を合わせた。*2 

 

  す、スノーホワイトが大変すぎる。ミス・リールが真っ白な魔法少女であるからこそ、その心の声がそんじょそこらの悪徳魔法少女よりもスノーホワイトの精神を蝕んでいる。皮肉だ……。

 ミス・リールは、かつてのスノーホワイトがそうなりたかったような、そしてそうはなれなかったような、正真正銘の「清く正しい魔法少女です。本来の学校の目的としては正しいことなんですが、なんでそんな存在が尖兵だらけの魔法少女学級に紛れ込んでしまっているのか。それは、

 

 ラギは「理念ばかりが立派なだけの事業だ」と最初から全く期待していなかったが、かといって割り当てられた推薦枠の一つをいい加減に消費してやろうとは思わなかった。[…]

 ラギはあくまでも中立な立場、目線をもって魔法少女を選定した。この魔法少女はどうでしょう、などとラギに阿る連中の声は一切無視した。

 経済的に恵まれていない、優れた知性、高い学習能力、飽くなき向上心、優しさ、円滑な人間関係を築くコミュニケーション能力、あらゆる組織と柵を持たないこと、熱意、根気、強靭さ、礼儀作法、年齢、家族、親族、賞罰、資格、様々な角度から検討し、これぞという者を一人選んだ。それがミス・リールという名の魔法少女だ。*3 

 

 ラギの推薦によるものだったからです。「黒」で察されていたことではありましたが、やはりラギが推薦した魔法少女工作員的要素を帯びているなんてわけがなかった! というわけでミス・リールは、魔法少女管理部門の主から選び抜かれた珠玉の確白魔法少女です。うおお……なんとかの鶴!いや中学生たちはなんとかというほどではないんですけど。

 

 カタログスペックだけではなく。彼女は、同じクラスメイトのテティからも「ミス・リールほど人間ができた中学生には会ったことがない」*4  と言われるような、素晴らしい人格者です。

 そういえば前巻の「黒」でも、プリンセス・ライトニングから渡された剣を模擬戦で使用することに反対するなど、誠実な性質に筋が通っているのを感じました。

 しかしこれは別の視点からの描写とは少しズレているんですよね。前日のテティ・グットニーギルの回でもう少し触れましたが、ハルナはスノーホワイトを除く魔法少女生徒すべてがゴミだと思っているような振る舞いをしています。 

 

 尖兵も、工作員も、テロリストも、魔法少女学級の生徒達は皆、自分こそが選ばれた存在だと思っているのだろう。だから全てを自分の望むように動かしたくて仕方ない。*5 

 カルコロの説明によれば、スノーホワイトは積極的に賛成することはなかったという。多少なりとも救われた気持ちにさせられた。魔法少女学級という神輿の上に座っていてもらわなければならない魔法少女が有象無象と一緒になって騒いでいるようでは困る。 

──それにしてもゴミども……。*6 

 

 うーん。ミス・リールはハルナの求める「正しいことを正しく行える本物の魔法少女にクラスで最も近い存在ではないだろうかと思うのですが。

 ハルナにとってミス・リールとはどういう存在なのか。ラギにより本気で導き出されたエリートの卵をこそがミス・リールであるということを、ハルナはきちんと認識できているのだろうか。

 

 

 この状況で思い出すのは、restartにおける2代目ラピス・ラズリーヌです。

 彼女は、オールド・ブルーがあらかじめ備えとして用意しておいたスケープゴートでした。 「クラムベリーの子供達」であることで多かれ少なかれ後ろ暗い過去を持つ魔法少女が再試にかけられる中で、その中に間違えて混ざってしまった、明るく純粋な正しい魔法少女でした(今となっては所属陣営に後ろ暗さがありますが)

 キークはそれを認識することなく 2代目ラピス・ラズリーヌを他の子供たちと同様に扱い、取り違えたことが明らかになってからも開き直って非を認めようとはせず、結果として何の落ち度もない2代目ラピス・ラズリーヌは命を落としてしまいました。

 

 もしかして、ミス・リールも今2代目ラズリーヌと同じ状況にあるのでしょうか。そうなると、改めて彼女がスノーホワイトとやり取りをしたことが気になります。

 スノーホワイトはキークに、2代目ラピス・ラズリーヌはクラムベリーの子供達ではないということを突きつけましたが、キークはそれを意に介さず彼女の死を是としてしまいました。それはスノーホワイトがアクションを起こしつつも救うことができなかったことを明確に描写された存在ということです。

 ミス・リールが真に善良な魔法少女だったとして、スノーホワイトは彼女を守ることができるのだろうか。彼女はこれ以上の犠牲を食い止めることができるのか……。

 

 

 ちょっと余談になりますが、「白」にてスノーホワイトがミス・リールを利用する形でラギと再び顔を合わせたというのは、breakdownを経てみるとまた皮肉で面白いですね。

 breakdownでのラギは、restartで自分がスノーホワイトにすぐ情報を渡そうとしなかったことをクランテイルに咎められ、孤島での出来事もあり自分のこれまでの信念が大きく揺らぐ体験をします。その経験が、「白」でのスノーホワイトにすぐ情報を渡すことに繋がっていったのかなあ。

 

 そのスノーホワイトの働きかけによってミス・リールはラギのところを再び訪問しました。それによってbreakdownでそれどころではなくなっていたラギがミス・リールの存在を思い出しました。別経路のこととして、孤島にいる7753はメイがスノーホワイトに協力していることを知っています。つまりbreakdown勢(というか孤島勢)がメイに遅れる形で中学校に関わってくる可能性も考えられます。

 孤島とは少しズレたとことにいるナヴィ家族も関わってきたらいよいよ手がつけられなさそうだけど、その辺はどうなってくるのかな。7753はいつまで樹木やってるんだろうか。そろそろ元に戻ってたりするのかな……。

 

 ともあれ、ミス・リールにとっての現状は、みんなで準備してきた学園祭その日を迎える前にフレデリカ陣営に襲われ、同時に班長のテティを始めクラスメイトの一部が自我を支配されて校長の元で殺人行為をしているという悪夢のような状況です。魔法の国の革命や、権力間の派閥争いなど知る由もなかった彼女はこれから……どうするんだろうか。どうなってしまうんだろうか。彼女は清く正しい魔法少女ではいつづけられるのか。

 まずは多分大挙して押し寄せているであろう群体ライトニングの相手をしなければならなさそうですが。問題が多すぎる。

 

 

 さて好きなセリフ。これはもちろん「押し退けあいというのはつまるところ体重の勝負ですから」*7  です。この自分の恰幅の良さを少しも卑下しないような精神性もまた素敵な人だなあと思わせます。この柔和な感じでノリがいいのかなり好き。


 好きなちょっとした描写。上にも書いたところの近辺ではありますが、スノーホワイトと一緒にラギのところを訪問してた時の「ミス・リールが無表情ながらに驚いているようだった」*8 という描写好き。そういえば変身すると表情固定な魔法少女なんだった……。よく驚いてるの伝わってたな。

 

 以上。ミス・リールにとって今の梅見崎中学校は過酷な環境すぎる。ではまた明日。 

*1:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.183 宝島社,2022.2.10(ebook

*2:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.184 宝島社,2022.2.10(ebook

*3:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.185 宝島社,2022.2.10(ebook

*4:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.200 宝島社,2022.2.10(ebook

*5:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.164 宝島社,2022.2.10(ebook

*6:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.164 宝島社,2022.2.10(ebook

*7:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.72 宝島社,2022.2.10(ebook

*8:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.187 宝島社,2022.2.10(ebook