すふぉるつぁんど

主に遠藤浅蜊著「魔法少女育成計画」シリーズについて書き残していくブログです。

まいにち魔法少女115日目:テティ・グットニーギル(白)

 

 魔法少女育成計画「赤」の発売日が11月27日に決定!!!

 

 

 

 

  うおおおお!!!!!!ここ最近ビッグな話題が多く喜びにつきませんが、やっぱり一番嬉しいのは最新刊が発売されることです!

  本当に11月に出そう!嬉しい!スノーホワイトの物語の完結、リバーシブル表紙もあいまって怖いですが、やっぱりすごく楽しみです。すぐ出るはずだった赤を随分待ったなあ……。

 

 

 

   さて本日のまいにち魔法少女です。

 今日はテティ・グットニーギルです。テティ……。やっていきます。以下感想。

 

 

 テティ・グットニーギル。2年F組の級長であり、1班の班長でもあります。カナの魔法少女評価でも圧倒的な破壊力を認められています。

 パラメータは「破壊力♡5、耐久力♡2、敏捷性♡3、知性♡3、自己主張♡2、野望/欲望♡3、魔法のポテンシャル♡3」と、突出した破壊力の数値が目を引きます。思ったより耐久力が高くはないのは、ミトン周り以外の部分は一般的ということなのかな。好きなものに立身出世が挙げられている割に野望はそんな高くはないのも印象的。(追記:素で入力しそびれてましたが短編「新人魔法地獄巡り」では強い出世欲の果てにもな子の錫杖を握り止めるという末恐ろしい所業を見せています。この頃は普通の魔法少女だった……と思いたい。もな子の言うとおりエイミーなら2体で両手を封じて後はどうとでもなりそうな感じでしたが(この頃はまだ気質上魔法少女ちぎったり殴ったりできないだろうし)、にしても本人の立ち振る舞いに反して本当に才能がバトル漫画寄りすぎる)

 

 テティの破壊力は「黒」の時点で折り紙つきではありましたが。ハルナの下で侵入者たる魔法少女たちをボコボコにしている時の描写としても、

 

 まずは右拳を握る。テティのミトンは掴むことに関して圧倒的な握力を誇る。その握力を用いて固く固く拳を握る。そのまま潰れてしまうくらいにとんでもない力が込められても、今度は圧倒的な防御力によってミトンが右手を護ってくれる。*1 

 襲い掛かってくる魔法少女めがけて、握り固めた硬い硬い硬い硬い拳を振るう。掴みかかるよりも素早く敵を打つ。*2 

 

 というような感じで、グットニーギルの名に恥じぬ拳を振る舞っています。ミトンの防御力でいくらでも固く握り込めるという展開は魔法の通りの良さとして気持ちよくて好き。

 級長という立場には思い入れと誇らしさを持っており、スノーホワイトがクラスメイトになった時は 級長の像が危ぶまれると懸念していたようでしたが、スノーホワイトにリーダーの差を乗っ取られるとかそういうことはありませんでした。よかった。案外負けず嫌いで見くびられたくないという気持ちの強いテティです。

 

 スノーホワイトもとい姫河小雪さんに対し、「ちょっといい子すぎやしないか」と疑問を抱いているのは正しいと言えば正しい。ちょっと前のスノーホワイトは監査での仕事でもマナさんに対してめちゃくちゃ無愛想だったらしいので……。

 でも元々の姫河さんはめちゃくちゃいい子なので、むしろどちらかというとこっち側が素……だったんですよね。姫河さんがスノーホワイトになった、そして不可逆的に大きく変化した中学ニ年生をもう一度「演る」といういびつな環境で、「いい子」の姫河さんが見られるというのは……本人も言っていたがやや苦しいシチュエーションではある。

 

 

 そういう感じでテティは周囲やクラスメイトに気を配りつつ、級長として、2年F組の一員として、学園祭の準備を進めます。

 毎日の登下校では ありとあらゆる魔法少女の関心の中心である中庭を通り、スノーホワイトの事前調査では捕捉されていない用務員「佐藤さん」に挨拶し、メピスと仲直りしたくて彼女を中庭に連れて行きたいという計画を胸に秘めています。

 

 中庭にあるとされている遺跡はかつてプク・プックへ提出された報告書にも「危険性が高い」と表現され、校長であるハルナからも「入ったものの体構成を変質させてしまうため長期間の滞在を許さない」と判断している、とんでもない危険物です。

 そんなものの側を、「黒」の頃から毎日違和感なく通って通学していたテティ。その情報が周囲から開示されるにつれて、テキストを読む不安感がどんどん増していったように思います。

 


そして、そして……。「白」では、テティはなんと黒での初登場時点からその肉体をホムンクルスに差し替えられ、記憶や自我、魂を勝手に人工物に移し替えられ、ハルナに使役される生き物になっていたというおぞましい事実が発覚します。その目的は地下遺跡での探索を可能とするため。

 ハルナの命令には一切逆らわず、本人の通常の精神性であれば絶対にやらないような殺害行為も淡々と行い、森の音楽家クラムベリーを模したホムンクルスが用務員として自分に話しかけているという異常極まりない状況も決して異常と認識することができない。

 おぞましいとしか言いようのないような異常だらけの世界で、テティは毎日通学し、まるで普通の中学生のようなちょっとした悩み事を抱いたり、他人に気を使ったり、等身大の日々を送っていたのでした。


 ぐうう……。このホムンクルス化した魔法少女たちへの感情の落としどころは実のところまだついていません。

 元々の肉体を剥奪されて別のパッケージに封入される魔法少女はテティ以前にもいたし、以後にもいました。breakdownでの 7753、パステルメリーは フランキスカフランチェスカと共に力場に身を投じたことで、7753は灰色の実の木に、パステルメリーはフランチェスカの肉体に魂が乗り変わってしまいました。

 そして「白」のエピローグでは、ピティ・フレデリカは自分の肉体を自ら捨て、不滅である三賢人に成り行わらんとしてその現身に魂を移しました。

 

 しかし、その2つのケースでは魔法少女の魂、自我と言えるようなものが「損なわれた」という印象はそれほどありません(己の意志に反して斧の所在を問いかけてしまうパステルメリーはちょっと怪しいところがありますけど……)

 ですが、2年 F 組のホムンクルスに体を移し替えられた魔法少女たちは、素直にそう思うことができなかった。むしろ、本当の彼女ら自身は既に死んでしまっていて、彼女らを「模した」高性能なホムンクルスが、自分が偽物であることにすら気付かず生前の彼女らを引き継いで活動している。初読時の自分は、そんな……そんな忌まわしい印象を抱いてしまいました。

 


 2つのケースと中学生ホムンクルス達の間には何の違いがあるのか。まず疑問を持たず殺戮行為をしているというショッキングな視点描写があります。

それまでの彼女らとの連続性に欠けるような言動は新次元の洗脳描写でありつつ、これが一般的な洗脳魔法のように可逆的なものなのかというところに疑問があります。

 

 また、ホムンクルス化した魔法少女ピティ・フレデリカの魔法の対象とならないというのも(ミスリードの可能性はありますが)気になる描写です。フレデリカの魔法は「変身前と変身後」程度の誤差ならどちらかの髪の毛で対応できてしまうというファジーなものです。

 これは魔法が髪の毛そのものではなく髪の持ち主の魂をターゲットに発動しているのではないかと推測するのですが、その場合フレデリカの魔法の対象とならない中学生魔法少女たちの魂は少なくとも「それまでとは異なる」状態になっているのではないかと考えられます。この辺りは全部妄想でしかないんですけどね。

 

 そのあたりと、丁寧にも授業の形で振り返られたホムンクルスの特性、ホムンクルス魔法少女逆に相性が良すぎて混ざり合ってしまうという情報(この辺りはドリィの日に書きます)、ハルナがこの行為を少なくとも魔法使いにはさせられない冒涜行為だと考えていること、様々な描写が、「これってちゃんと元に戻れるんだろうか」「今読んでいるこの視点をテティのものだとして良いんだろうか」という不安を招きます。この辺今考えてもどうしようもないことではあるんだけど……。

 

 

  魔法少女のエリートを養育するための学級で、なぜそんなことになってしまったのか。それはクラムベリーの事件に大きな衝撃を受けたハルナ・ミディ・メレンが、ある程度の犠牲を生み出したとしても、正しい魔法少女を養成すると決断したからです。より権力があるキークちゃんかな?

 遺跡に眠る遺物をホムンクルスと化した中学生に持ち帰らせることで、その遺物を魔法少女学級の礎とする。ハルナはそれを目的としています。

 

 ハルナは自分のやろうとしていることが間違っていないのだと再確認した。彼女達のような終わっている魔法少女達が我が物顔でのさばっているからこそ、魔法少女学級は必要なのだ。弱い者いじめが大好きなサディストの無法者ではない、己の成り上がりしか目に入らない派閥の尖兵でもない、正しいことを正しく行える本物の魔法少女を養成する。森の音楽家が起こした悲劇は二度と起こさせない。エピゴーネンは残さず駆逐する。

 そのためならなんでもする。犠牲が出ても構わない。ここで百人が死んだとしても将来百万人が救われることになれば、無駄ではない。犠牲者にとっても幸いだろう。*3 

 

 遺跡の遺物を持ち帰らんとするとして、ハルナはなぜエリートの卵であるはずの中学生をその道具としてしまったのか。

 それは、魔法少女学級に入ってきた魔法少女たちはほとんどが正しいエリートなどではなく、派閥の検疫拡張のために送り込まれた魔法少女たちだったり同じく遺跡の遺物を狙わんとする工作員などだったりしたからです。

 

 派閥の権益拡張を目論んで送り込まれた尖兵的存在ならまだマシな方で、潜入工作員だったり現役のテロリストだったりという不埒者たちが正しい資質を持つ魔法少女のような顔をして学級に通っている。

 尖兵も、工作員も、テロリストも、魔法少女学級の生徒達は皆、自分こそが選ばれた存在だと思っているのだろう。*4 

 まずはテティから始まり、実験場の影響を排するために起こしたホムンクルス暴走事件の中でクミクミを確保し、それ以降機会があれば捕えていった。中庭にいる限り絶対的な力を持つハルナであれば容易いことだ。

 この人選に理由はない。一人で中庭に近づいた者、隙を見せた者から順に処置を施していった。[…] *5 


 ハルナにとっては2年 F 組の生徒は、学ぶ気のない、いるべきではない者たちの集まりで、だからこそ躊躇いなくホムンクルスと融合させることができたということなんですね。

  そんな生徒たちの中でも、一番最初のターゲットとなったのがこのテティ・グットニーギルでした。そもそもテティはハルナの所属している、魔法少女学級のケツモチであるところの「情報局」から推薦されたということになっており、 今改めて思うことにはそのこと自体がものすごく胡散臭いですよね。

 なぜ自分の陣営で推薦した魔法少女ホムンクルスにしてしまっているのか。テティの中学校生活はどちらかというとミス・リールに近い「白」側の魔法少女であるような気がすることも相まって非常にちぐはぐの印象です。

 なぜ、どうして、テティが最初のターゲットとなってしまったのか? なぜテティは通学路に中庭を通るような異常な待遇を受けているのか?

 

  これには2通りの理由が考えられるかと思います。

 1つにはテティが入学早々不運にも中庭に近づいてしまい、 情報部門から推薦となっているテティすら何らかの後ろ暗い事情を持っていると誤認した(もしくは、テティ自身も今は認識できていないだけで、本当に尖兵・工作員・テロリストに分類される魔法少女だった)ため、ハルナが即座にテティをホムンクルスとした可能性。

 もう1つは、テティは情報部門の推薦で入学した時点で、というか入学する前の時点からすでにホムンクルスだった可能性です。実験場から聞き出したホムンクルス魔法少女を融合させる最新の術式の成功例を、そもそもスタート時点でつまずいていたのが判明していた魔法少女学級に投入したという可能性です。入学生が碌でもないのをわかっていたら、わざわざ自派閥から本物のエリート候補生を送る必要もないだろうという理屈。

 

 テティの視点はもう全てが信用の置けない状況になっているので、彼女のあり方からどちらがどうということを推測することはできません。中学校以前のテティが実際のところどういう生活を送っていたのか、なぜ情報局から推薦されたのかという経緯は未だ謎のままです。

 情報局から推薦されているという点において、テティの明かされていない事情はまだあると感じます。そのあたりが開示されるのかというのと、ホムンクルス魔法少女たちは一体これからどうなってしまうんだろうというのが……気になるばかりです。このまま遺跡行ったら体構成も人間性もグチャグチャになっちゃいそうなんですけど……。

 

 

 テティは色々もうとんでもないんですが、そこは「赤」を待つとして「白」での好きなセリフ。うっかりサトゥルヌスさんもとい佐藤さんを、心の中だけでなく実際に「佐藤さん」と呼びかけたときの「ああいえなんでもないんです。ええと……里が知れるのは私のほうです、と」*6 の誤魔化しが好き。無理がある。

 

 好きなちょっとした描写。メピスに普通に話しかけられて嬉しそうにふにゃふにゃしちゃう遠山さん好き。

 その後のハルナに招集をかけられて「テティはメピスのように笑いながら敵を殴った。初めからこうしていればよかった。さっさと仲直りし、皆と協力してクラスを盛り立てる。それこそが学級委員長のあるべき姿だ」*7 と考えているのは脳がグラグラする感じで好き。もう滅茶苦茶だよ!

 

 はい。テティのことを考えると気が滅入ります。また明日。

*1:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.292 宝島社,2022.2.10(ebook

*2:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.292 宝島社,2022.2.10(ebook

*3:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.247 宝島社,2022.2.10(ebook

*4:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.164 宝島社,2022.2.10(ebook

*5:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.290 宝島社,2022.2.10(ebook

*6:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.38 宝島社,2022.2.10(ebook

*7:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.293 宝島社,2022.2.10(ebook