すふぉるつぁんど

主に遠藤浅蜊著「魔法少女育成計画」シリーズについて書き残していくブログです。

朗読劇「魔法少女育成計画」第2弾 スノーホワイト育成計画 感想①

 

 朗読劇「魔法少女育成計画」第2弾配信期間延長中!(なお本日まで)

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 わーい! というわけでだいぶだいぶだいぶ遅まきにはなりますが、朗読劇第二弾に対する自分の感想を書いて残しておこうと思います。

 ありがたくも今回も現地全通できたので、初日・二日目の色々など振り返りつつ。今回は感想①ということで、前半部分こと「青い魔法少女の自己主張」について。さっくり書くつもりだったのに書き終わってみるとだいぶ長くなってしまった……。以下感想。

 

 

「青い魔法少女の自己主張」が朗読劇「スノーホワイト育成計画」の2本立て短編として書き下ろされると知った時は、かなりビックリしたのを覚えています。unripe duetが本編1本で朗読劇をやっていたので(前夜祭での短編はありましたが)、特に疑問も持たずスノ育もそういう感じだと思ってました。

 そして登場人物が二代目ラピス・ラズリーヌ、7753、トットポップという3名なことにも驚きました。予想もつかない取り合わせだった。トットポップは音楽家なので朗読劇というスタイルにも合うのと、登場人物としてスッと差し込まれててもなんとなく納得してしまう理屈を超えた説得力が本人にあるので、まあそういうこともあるだろうなと思ったんですが。そこに7753が入ってくると急に何だ何だ!?という感じになってくる。limited以前の7753が出てくるのレアすぎるので……。

 ただまあ「監査部門の妖精」の前例もありますし、まあトットキークみたいな感じで出自を誤魔化しつつ人事してる7753のところに関わっていくのかな……監査部門の妖精は人事部門の妖精でもあったのかな……とかぼんやり考えていました。全然出自を誤魔化したりしてはなかったんですけど……。

 

 というわけで、この「青い魔法少女の自己主張」は、ラピス・ラズリーヌ(ブルーコメット)、トットポップ、そして7753をメインキャラクターとする話です。意外な新情報がボロボロ出てくるすごい短編でした。

 感想はメインの登場人物3人ごとに区分けして書いていこうかなと思うので、まずはラピス・ラズリーヌから。

 

ラピス・ラズリーヌ

 

 舞台が開幕と共に暗転し、演者様方が椅子に座り、そしてラズリーヌこと加藤英美里さん/日高里菜さんが朗読劇版オリジナルの「どこへ流れ落ちたとしても。それがたとえ、海の底、光の届かない絶望の底だったとしても……」*1 という冒頭の口上を言った時からもうワクワクがすごかった……!

 unripe duetの時のペチカの「風のようにビルの上を駆け……」の口上もそうなんですけど(改めてこのモノローグ好きすぎる)魔法少女ってその気になればいくらでもドラマチックが似合ってしまうというか、非現実的な魅力を我が物にできてしまう存在で、そこがやっぱり好きだな~というのを改めて感じました。restart魔法少女は特にそこの浪漫を強く感じる瞬間がちょこちょこあり好き。

 

 さてそんな「魔法少女育成計画restart」からやってきたラピス・ラズリーヌですが、短編の時系列としては彼女は本来ブルーコメットと呼ばれるべき存在ですね。

 ただその名前も既存の魔法少女と被ってしまっていて、人事部門でサラリー魔法少女してる7753から改名を迫られている……という舞台設定で、そうなるとブルーコメットと呼称するのも若干躊躇われる。まあ一旦承認されているからにはブルーコメットと呼んで問題はないのかな。(そういえばブルーコメットが名前を変える理由となった、先に存在した方のブルーコメットさんは今後登場したりするんだろうか。広報部門の新人教育を担当してそうということはサリーに縁があったりしないかな?)

 restart時点のラピス・ラズリーヌはその名の通り青い宝石を触媒に魔法を使用していましたが、地味な予想通りブルーコメット時代には宝石の色を青に縛ってはおらず、色とりどりの宝石とともにテレポートで中空を駆け巡っていました。口上も「戦場に舞う青い煌めき」ではなく「夜空を駆ける流れ星」と、ラズリーヌ時代とはまた違ったもので。この辺り改名にあたって色々違うバージョンにしたんだろうなと思うとラズリーヌの芸細具合を感じる。

 

 この短編でのラズリーヌは、もっぱらお役所仕事をしている7753を相手にゴネにゴネてゴネまくっていました。その様子がまた……かわいい! ラズリーヌは兎にも角にもかわいいんですよね。舞台の上で見る彼女もまたすごくかわいいものだった。

 演者様方が表情豊かに演じられていたのもすごく良かったし、スポットライトによりキラキラ光る胸の宝石は物理的な眩しさでラズリーヌが「存在している」ことを強く感じさせてくれました。それを見ながら、ラズリーヌが基本的な活動拠点にしてた繁華街の下であの宝石はどれだけ綺麗に輝いてたんだろうなとかそういうことをぼんやり考えていた。アンサンブルの皆様方の手で表現されているゆらゆら尻尾も良かったです。三次元的に展開されるラズリーヌのかわいさを堪能しました。

 

 

 しかし、そんなかわいさにメロメロにされつつも……原作を読んできた読者の大勢が、この短編で明かされた一つの事実には驚いたのではないでしょうか。それは中編「魔王塾主催地獄サバイバル」にて名前だけ登場した「ブルーコメット」は、まだ初代ラピス・ラズリーヌに会っていない、ラズリーヌとしての修行を開始していない純正ブルーコメットだったということです。まだ修行してなかったんだ!? してなくてベスト8入ってたんだ……強すぎでは!?

 

 ということから時系列を整理すると、「魔王塾主催地獄サバイバル」(余談:サバイバル演習DVD限定BOX50枚組喉から手が出るほど欲しい 美々の戦闘シーン余すことなく眺めたい レビュー評価が星3だったのじわじわ来る)から「青い魔法少女は忙しい」までの期間に「青い魔法少女の自己主張」(ラズリーヌ弟子入り編)と「青い魔法少女の記憶」(で描写された過去過去回想:ラズリーヌ襲名編)がギュギュッと挟まっているということです。思ってたよりも修行期間が短い……!

 つまり蒼龍パナースが地獄サバイバルでラズリーヌに負けて修行して双龍パナースになるまでの間に、ラズリーヌはなんと弟子入りから襲名までを果たしていたということになります。なんてスピード感なんだ。

 しかし地獄サバイバルで自力でベスト8を取れたり、人事部門にやってきたテロリスト(7753のゴーグルで強さはお墨付き)を軽くのしてしまえるくらいの実力が弟子入り以前から元々備わっていたのなら、そりゃあ修行期間が爆速なのも頷ける。なんだかマッチポンプめいた不思議な説得のされ方をしている。

 

 

 ブルーコメットが魔法少女として素で強者だったのは、彼女の人間態たる米田瑠璃(よねだ・るり)さんがそれだけ「ブルーコメット」という概念に憧れ、目指し、ひたむきに努力していたからだと思います。

 このあたりの彼女の過去が語られたのは初めてのことでした。この短編に至るまでラズリーヌはなんやかんや割と謎多き魔法少女だったんですよね。プロフィールとして開示されていた好きなもの(楽しいこと・嬉しいこと・カッコいいこと)嫌いなもの(悲しいこと・辛いこと・カッコ悪いこと)欄も言ってしまえば人間味を感じるには漠然としすぎている。

 これまでの自分にとってのラピス・ラズリーヌとは、心を至極当然のように鷲掴みにしてくる猛烈なかわいさとかっこよさと魅力に溢れていながら、同時に不思議な掴みどころのなさも感じるような、そんな存在でした。

 

 語られることは可能性が収束することです。快活な中にミステリアスさのあった二代目ラピス・ラズリーヌが、本当に確かに大切にしていたのであろう(だからこそここまで語られることはなかったのであろう)過去はついに明かされ、彼女の魔法少女としての成り立ちや、人間としての名前、母親との関係が明示されました。

 これはラズリーヌの初登場から10年を超えて果たされたかなりかなり大きな情報開示だったとは思うんですが、不思議と知っていたことかのようにスッと受け入れられてしまった……のが自分でも意外でした。ラズリーヌのこれまで見せてきた人間性と全然齟齬がなかったのが大きかったのかな。

 原作小説を呼んでみると、朗読劇Verよりもウェット性が少ないというか、母親とのやり取りも(二人共)どこかカラッとしていて、そのあたりも含めて一層「ああ、ラズリーヌだなあ」と感じたのが大きかったのかもしれない。

 

しかしブルーコメットは並の魔法少女ではなかった。変人に見出されるべくして見出された魔法少女だった。楽しいものが大好き、愉快なものが大好き、そんな気配を感じたら自分の名前を捨てて他人の名前を受け継ぐくらいのことは平気でやってみせる。*2

 

 きっと性格だ。良くも悪くも拘りがなく、相手の悪意に対して驚くほど無頓着でいい加減、事が起こるまで全く気づかず、ひょっとすると事が起こっても気づかずにいるかもしれない。こいつは違う。こいつは疑っても仕様がない。意味がない。疑うだけもったいない。*3

 

 しかし……ディティック・ベルからはこんな風に表現され、他人に自分を曝け出すことを何も躊躇しないような印象だったあのラズリーヌにも、「自分だけのものにしていたい宝物」があったんですね。なんだかんだでこの「青い魔法少女の自己主張」を観た時、その思いが一番大きいものでした。

 世界全てに扉を開けているような快活な女の子が、胸の中に大事にしまっている大切な思い出があったんだ。ラズリーヌの魔法少女としての成り立ちはそこで、restartで軽く語られていた「改名」というイベントは、そんな思いの元に起きていたことだったんですね。こうして見返してもしんみりしてしまう。

 

 

 というセンチメンタルはさておき、この短編からラピス・ラズリーヌを知った人がrestart読んだらこの短編の読後感全然違ったものにならないだろうか……? なんだかいい話といい観劇体験で感覚が紛れてはいるが、冷静に考えると朗読劇ってまあrestart読まずに観劇しにきた人も居るはずで、その上でそう遠くないうちにrestartのアニメが始まるわけで……これはしれっとrestartの前に「アカネと愉快な魔法少女家族」を読ませるような行為を朗読劇の規模でやってないだろうか!?

 まるでいい話で締まってるのに実態はスケープゴートなんですよね!? よく考えたらこの後……じゃったんだよね……のやつじゃんこれ……! というほろ苦さ(を後から知覚する行為)もまた……魔法少女育成計画の短編の味わいかもしれませんね。そういう意味でも「青い魔法少女の自己主張」はかなり好きな短編です。restartの記憶消して自己主張から先に読みたい。

 

 そういうのはともかくとしても、この短編を踏んでからrestart読むと「あたしのお城へようこそ」の言葉とか氷岡忍さん(泥酔)の探偵への熱い想いを聴いて感動するラズリーヌとかがまた味わい違ってて良いものでした。ラズリーヌ……。

 

トットポップ

 

 さてトットポップです。トットポップは、なんというか舞台映えする魔法少女だなあというのがまず第一の感想でした。いやどこでも映えそうではある。

 まず会議室に入場してくるところから可愛いですよね。プロジェクションマッピングと現実の舞台が融合しつつ、あのなんとも言えない「間」が展開される。演者の相羽あいなさん/伊藤彩沙さんのニコニコ~としたやや気まずげな愛想笑いにつられてこちらも笑顔になってしまう。これはもう舞台だからこその楽しさだったと思います。

 ちゃんとした登場シーンでのギターBGMも良かったなあ。劇伴も聴いていて楽しくなったりワクワクしたりするようなものが多くて、改めて劇の贅沢さを感じました。

 

 7753がナレーションでトットポップの容姿を描写してる時に、そのモノローグに並行してトットが客席に服を見せびらかしたり決めポーズ取ってたりしたんですが、それが平然と次元の壁を貫通しててかなり良かった。トットポップならそれくらいやってもおかしくないだろうと思ってしまう。7753があんまり異常に気づいてなさそうなのも良い。

ラズリーヌでもちょっと触れましたがトットもまた衣装がすごくよかった。骨格ストッキングとボーダーのトップス、トゲトゲ小物に皮手袋、全部かわいい! トップスの布地と革の質感が違うのをスポットライトの光の反射で楽しめるの、本当に三次元的な贅沢体験だった。よかった。

 

 トットといえばでおなじみな、「30分後……」の演出があったのも、トットポップのこれまでの流れ的にニヤリでしたね。30分経ったにしては7753が全然絆されてないなあと思ったら、原作小説だと5分くらいだったのでちょっと変な納得感がありました。あれは演出としての30分後サービスだったんだなあ。5分ならまあ大丈夫か……。

 

 

 そういえば「監査部門の妖精」では自分の名前をトットキークと誤魔化してたトットですが、人事部門だと元気よく名乗ってましたね。もう少し7753の物覚えがよかったらlimitedとの致命的な破綻が訪れるところでしたが、7753が7753だったのでそれは避けられました。よかった。

 トットが名を名乗れたのは相手がおまわりさん的な監査ではなかったからなのか、それとも本当にまだそんなに後ろ暗いところのない魔法少女だったのか。

 かつてバンドをやろうとしていたトットポップがテロリストの道を歩み始めた短編こと「とっととミュージック」は、restartで大学生してる八雲菊さんが同じく大学生の頃の話なので(時系列整理時特有の迂遠な文章)、無印から最大3年以内と割と近年の出来事ではある(なのでトットのテロリスト歴は多分意外と短い)んですよね。対して「青い魔法少女の自己主張」では、まだトットポップは最高の魔法少女バンドを組むことを目指しています。そのあたりから考えても「青い魔法少女の自己主張」は「とっととミュージック」以前の出来事なのではないかな……と思う。ラズリーヌほどのアレではないですが、短編ではテロリストを制圧してる側だったトットが本編ではバリバリに反体制してるのも朗読劇から入って本編初読する場合のびっくりポイントではありそう。

 

 テロリストだったかどうかは横においておくとしても、師匠であるピティ・フレデリカとトットポップは流石にこの時点でも既知だったのではとは思うんですが。果たして吉岡との接点はあったのかな。というか吉岡はこんな時代から吉岡してたんですね。『魔法の国』の魔法生物社会に普通に人間居たら逆にめちゃくちゃ目立ちそうと思わなくもないんですがその辺は割と埋没できてたんだろうか。

 作中ではトットポップが吉岡に対して特別な言及をすることはありませんでした。トットがフレデリカの変身前としての吉岡のことを知らなかった可能性もまあなくはないし、ラズリーヌがいる手前、何らかの事情でお互いすっとぼけてたという可能性も全然あるかなとは思います(吉岡として秘書的業務に就いているということはつまりフレデリカではない人という体でいるわけだし)。職場にトットがスタンプラリーしにやって来るのすごいかわいいシチュエーションだな……。

 

7753

 

 最後は7753について。7753は寿美菜子さん演じる1日目と日笠陽子さん演じる2日目での出力が最も異なっていたといえるキャラクターでしょう。配信では1日目/2日目を見比べることもできるのでどちらか一方を観たという方はぜひもう片方も観ることをおすすめします。面白いので……。

 

 さて7753について書いていく前に、まず彼女の所属している人事部門についてちょっとだけ。最もサラリーが高いというよくわからないトリビアが開示された(かなり世界が狭い7753視点の描写なので絶対事実とは言い難い 人事から離れさせたくなくて上司がそう言ってるだけかもしれない)人事部門は、その高給取り具合に見合った多忙な職場のようです。ちらっと明かされた業務内容はだいぶ公務員的だったんですが、それで内部が屈指のドロドロブラック伏魔殿なのだいぶ……悪い。

 本編での描写から察するにも、ボスの入れ替わりが大変に激しいという7753の言及はまあ納得ではあります。プフレの前任で人事部門長をしていた魔法使いはミス・マーガリートが監査部門に転向する前というだいぶ昔も人事部門長をしていたらしいですが、入れ替わりが激しいという言及もあわせて考えると、一旦部門長の座を降りる期間がありつつ後で復権した可能性とかもあるのかもしれない。そう考えると一層タチが悪そう。

 

 ともあれ人事部門のお仕事が読めるというのは貴重です。魔法少女命名周りは今までかなり謎スマホアプリのキャラクター名がそのまま名前になることもあれば、本人に魔法少女名を口頭で聞いて決定する(のっこちゃん!)場合もあり、目を瞑って選んだ文字を魔法少女名に入れることができるケースもあると思いきや、本人の意志に依らず妖精のフィーリングで勝手に名付けられていることもある)でしたが、まさか魔法少女の名前が被り禁止なものだとは思わなかったし、それが人力でチェックされてるものとも思わなかった。怖すぎるでしょ……!

 もうヒューマンエラーがいくらでも想定できる。そりゃあできる限り改名させたくないだろうなと思う。考えただけでも色々面倒臭い。読みが同じだと改名にならないシステムも謎に手間を呼んでそうで気が滅入ります。じゃあ逆に読みが違ったら同じ字面でもセーフなんだろうか。そんな訳ないか……?

 よくもまあ無印時点でのスノーホワイトとかリップルとかたまとか名前が空いてたなとか、故人の名前は使用可能なのかどうかとか、なんだか更に気になることが増えてしまいました。あとこれだけ改名が嫌がられてそうな環境で平気で名前弄りまくってる魔王塾、かなり人事部門から嫌われてそうだなと思う。

 

 

 話がだいぶ逸れました。そんな人事部門で日々働き、今日の業務として魔法少女の名前が被ってしまった事故の後処理をさせられているのが……limitedの堂々表紙魔法少女たる7753でした。世知辛い……。

 7753といえば魔法少女の担当区域での現場仕事が多いイメージでしたが、「魔法の国」側で仕事することもあったんですね。窓口で武器を振り回して通報される魔法少女が居たりする危なっかしい職場ですけど、担当区域側でも問題児魔法少女と一対一で面談してるわけだし、危険性にはあんまり違いなさそう。

「こだわりが強すぎる」魔法少女に対する扱いが妙に手慣れている7753からは物悲しい経験値を感じます。それでも流石にラズリーヌとトットポップの2人というとんでもない組み合わせには振り回されっぱなしの風でしたが。

 ゴーグルを褒められてやる気を取り戻し、気合を入れて「まずは一人減らす」とか妙に格好いいことを言ったりする7753も観られて楽しかった。二人からゴーグルの能力を噛ませ犬的に弄られてるくだりはこれプキン戦で見たな……という皮肉な面白さがありました。まさかスカウター値が急上昇するやつを本当に自分でやることになるとは思ってなかっただろうな。

 

 この短編の7753の印象というと、まずは上にも書きましたがやっぱり苦労人なところです。上司には胃を痛め、対応相手のラズリーヌには当然の権利としてゴネられ、何故かトットポップまでやってきてしまうというだいぶ面倒くさい状況。そこに吉岡とかテロリスト魔法少女とかも入ってくるからもう大変です。

 秘密結社「人事部門はもっと魔法少女に優しくしろ同盟」って流石になんなんだ。過去(時系列上で言うと未来)には袋井魔梨華が監査部門の窓口に襲撃をかけるような出来事もありましたし、魔法の国の窓口って割と急襲されがちなのかもしれない。今回は特に出張ってくることはありませんでしたが、人事部門的にもやっぱり腕っぷしの強めな魔法少女を配備してたりするんでしょうか。

 

 7753の日々の仕事の大変さや苦労人具合に思いを馳せつつも、それはそれとして7753の「人事部門の恩人として感謝したはずのトットポップのことをlimitedでの事件中には思い出しすらしていないし短編の中ですら名前をきちんと認識してない」とか「小学校の頃からキューティーレッドに憧れていたのに同じキューティーヒーラーの一員であるキューティーアルタイルに全くピンと来ていない」とかその辺のぼんやり具合もまた……鮮烈な印象を残すような描写でした。わりとベテランのプロ魔法少女が、この短編で魔王塾について言及され勉強不足と言っていながら、その上でlimitedまで魔王パムのことも知らないまま生きてる……! なんで!?

 

 いやすごい。本当にその辺のことに関心がない。人としての生活とビールと貯金にかなり意識を割いて生活してそう。いやそれにしたって魔王塾ワナビとか魔王塾崩れとかを面談する機会とかあったんじゃないかなとか思うんですが、魔王知らないことあるんだな……。

「魔王パムを知らない7753」って、シリーズ通した上でlimitedを振り返った時の地味なおもしろ要素というかツッコミどころだったと思うんですけど、こんな形でその要素が強調されるとは思わなかった。本筋のぼんやり者だった。

 

 

 しかしこれは恐らく、大プライバシー侵害魔法を持つ7753がここまで生き残れてきた理由でもあるんですよね。もう少し魔法の国での政治的なあれこれに関心がある魔法少女だったら、半端に敏い魔法少女だったら、恐らくは絶対にどこかで知ってはいけないことを知ってしまって消されている。

 7753は「こう」だからこそ消されていなかったのだろうなと思うと、単なるコメディ描写で処理しきれないような味わいを感じます。いやあ悪いやつにとっての道具としての使い勝手が良すぎる……。7753は未だに自分のゴーグルがlimitedで魔法の端末の電波ジャミングしてたの知らないんだろうか。そういうことを知る日は来るんだろうか……。

 

 その辺りのキャラクター性の「面白い」の裏側に並立するシビアさみたいなのは、やっぱり職業魔法少女ならではの味わいでした。冒頭で1日目の7753と2日目の7753のキャラクター性の違いについてちょっと言及しましたが、2日目くらいハキハキしてて自分の意見をしっかり言えそうな7753だったらlimited以前で消されてそうだな……と観劇しながら思ってちょっとじわじわ来ていた(ちょっと物騒な言葉になりますが、こんなに楽しく笑顔になる「解釈違い」があるのすごいよかった)。あんなギャグ極振りみたいな舞台でそんな感想になることあるんだな……。

 しかし改めて見返してみても、2日目の日笠陽子さん演じる7753には素で笑ってしまうコントのノリがあった。そういえばこの方むじまぎでもブルゾンルーラとかやってたな……とか思い出して懐かしさに浸っていました。バリバリにノリツッコミしてる7753が見られてよかったです。

 

 

 感想は以上。こうして思い返しても楽しい劇だった。

 上に少し書きましたが、演者の違いによる初日と2日目での温度感の違いを色濃く味わえたのがまた良い体験だったなあと思います。対して同じ演者の方が通しで4公演を演ることで練り上がっていく気迫みたいなものを感じるのも滅茶苦茶楽しかったので、もうどちらにせよ楽しくて劇というものはすごい。

 続く「スノーホワイト育成計画」についての感想は後日に書きます。ではまた。

 

*1:公演台本「青い魔法少女の自己主張」(p.1)オッドエンタテインメント

*2:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画restart(後) P.65 宝島社,2019.8.23(ebook

*3:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画restart(後) P.68 宝島社,2019.8.23(ebook