すふぉるつぁんど

主に遠藤浅蜊著「魔法少女育成計画」シリーズについて書き残していくブログです。

まいにち魔法少女113日目:リップル(白)

 

 今日は朗読劇の初日です! いや……素晴らしかったですね!!! スノーホワイト育成計画はもちろんのこと、書き下ろし短編こと「青い魔法少女の自己主張」も激烈に良かった。

朗読劇を観劇するにつけ、魔法少女育成計画という物語をこんな形態で体験できることへの感謝や喜びでいっぱいになります。携わっている全ての人が素晴らしすぎる。

 

  朗読劇のしっかりした感想は別記事に書くということで本日のまいにち魔法少女です。

 今日はリップルです。立ち絵付きでの登場はACES(2015)以来、概ね洗脳されてない状態での視点描写はlimited(2013)以来と何とも壮絶な魔法少女人生を送っている魔法少女です。QUEENSの間はオールド・ブルー派閥に確保されて怒りの感情を引っこ抜かれて気力をなくした引きこもりになっていたらしい。サラっと書かれてるけどACESのあの展開からそうなるの悲惨すぎる……。

 現在も「調整」を受けているということで厳密には精神魔法の影響下にないと言えるわけではないんでしょうが、まあ比較的本来のリップル成分が強いリップルを見られるのは久々です。以下感想。余談ですがリップルの新規的なあのあれについてはまだ自分の知覚が追いついてないので言及は避けます。

 

 

 リップル魔法少女育成計画無印でスノーホワイトとともに生き残ってから、やっと、やっとスノーホワイトと戦場を同じくしている……とはまだちょっと言い難い状況ですが、それでもかつてよりはずっとスノーホワイトと近い場所で戦っています。いやJOKERSではめちゃくちゃ共闘してたんですけど。まあそれはそれとして。

 

 現在の相棒(というか共同戦線相手)的なポジションの魔法少女は、ラピス・ラズリーヌ候補の一人である0・ルールー

 QUEENSの間は怒りの感情を抜き取られて腑抜け状態になっていた(改めて書きますが本当に最悪)リップルは、推定多少は感情の誘導を受けてはいますが登場時点ではある程度理性を取り戻し、そしてごく自然に激怒しています。やっぱり怒ってるリップル見てると嬉しくなってしまう……。

 殺人行為を厭わない0・ルールーと初っ端から衝突しつつも、最終的にリップル彼女にスノーホワイトを任せて、自分はピティ・フレデリカを止めるためフレデリカの本拠地に赴くという信頼関係・協力体制にを敷くまでに至ります。

 

 

  この二人の早々の躓きは(意図的に情報を伏せていたオールド・ブルーのせいなんですけど、それは置いておくとしたら)リップルの外側と内面とのギャップがもたらしたものですよね。

 あの凄惨なビジュアルであれだけ殺気立ってて、ピティ・フレデリカに対しては殺す気満々だったはずなのに、ルールーが経歴のドス黒い魔法少女をお手伝い気分で殺したらリップルが激怒するとは。そりゃあ思ってもみなかったことでしょう。

 そのあたりはリップルがlimited時点ではピティ・フレデリカすら殺されようとしていたら思わず手を出して助けてしまうくらい殺人行為を肯定的に思っていないのと、それにも関わらずACESでは物知りみっちゃん、そしてプレミアム幸子を洗脳により自分の手で殺害させられてしまったという体験がより強く影響しているのかもしれません。自分の任意の元にない人死にを許さないという怒りの可能性。

 

 それだけ殺人を忌避し、自分の身がほぼ瀕死状態になってでも命を奪わない形での無力化を繰り返すリップルですが、フレデリカに対しては「確実に殺したい」 *1 という比較しようもないほどの絶対的な殺意を抱いています。無印における「あいつは……殺さないと……」 *2 というトップスピードの仇であるスイムスイムへのそれを思い出す。

 

 トップスピードがいれば、少し落ち着けよ相棒と肩に手を置いたかもしれない。だがトップスピードはもういない。ルールーと話している間に思い出した。

 リップルの肩にはなにもない。死んだように生きていたのだから死ぬことも容易い。ただ死ぬよりは少しでも意味のある死に方をすべきだ。自分自身の生命を使ってピティ・フレデリカを滅ぼす。 *3

 

 ああ……。ここを読んだ時は本当にやるせない気持ちになった。

 昨日書いた雷将アーデルハイトのエントリ(まいにち魔法少女112日目:雷将アーデルハイト(白) - すふぉるつぁんど)ではとある描写にbreakdownでのミス・マーガリートを思い出したと書きましたが、ここでは同じくbreakdownの登場人物であるマナの描写を否が応でも想起させられました。

 

[…]マナが思わず立ち上がろうとすれば、マナの右肩にそっと羽菜の手が置かれる。誰にも見えず、マナ自身にも見えないが、マナを止めようとする羽菜の手がそこにあるのだと感じる。

 そして今は左肩にも置かれる手がある。彼女は監査部門の教導役を長年務め、幾多の優秀な捜査員を送り出し、弟子の不始末で職を辞した後も弱者を護ることは辞めなかった。この島で強敵相手に一歩も退かず、死の間際まで魂を燃やして戦い続けた。[…]

 目的のためであれば如何様な悪でも為そうとする魔法使いを前にしていても、先達二人の掌がマナの心に落ち着きを取り戻してくれる。落ち着きは準備と対策にも繋がる。 *4

 

 同じく信頼しあい、同じ戦線で肩を並べたものと死に別れながらも、マナは自分の両肩に先立ったものたちの遺した力を感じています。彼女らの死を糧とし、自分が悪に対してまっすぐ立ち向かうための心の柱としているのです。

 それに対して、「白」でのリップル自分の肩には何もないと独白しています。それは「死んだように生きていた」*5 というか、正しく言うのなら「死んだように生かされていた」せいではないだろうか。

 洗脳魔法が解けるのは瞬時のことですが、それによって生じた精神への傷は瞬時に治るというわけではありません。リップルが自暴自棄になっているのは2年以上も人権を剥奪されて己の意思とは関係ないところで生かされていたのも大きな要因となっているのではないだろうか、というか、間違いなく要因の一つだろうと思います。自分の人生に益々重みがなくなってしまっている。つい先日まで自分の人生ですらなかったんだから当たり前です。

 

 それはもう……本当に……どうしようもない。今はまだその心の傷をきちんと癒やす暇すらないのです。フレデリカへの復讐を果たすことで1つ区切りになったらいいと思ったけど、「白」では形上は果たしたその復讐も実際には成し遂げられていないという皮肉、えげつなさすぎる……。

 これから「赤」で繰り広げられる戦いを経て、リップルリップルとして生きて、(比較的)平和な世界でリップルとしての感性で自分の身や他人の身に起きたことを消化できる時間が来ればいいなと思うばかりですが。……どうなるのかな。

 

 

 それはそれとして「白」でのリップルの話です。

「黒」と同じく戦闘シーンが少ない印象の「白」ですが、リップルは登場シーンで結構な頻度で戦闘を繰り広げています。戦闘描写自体は細かく書かれているということもないんですが、とにかく戦闘回数が多い。

 

 プロローグから死霊流転キミエラ・カクリョルルナム振原牡丹の3名を相手取り、そこからも 7名を行方不明に、3名の魔王塾生を無力化、さらにさらにはシンディ・ネックチョッパーコッティ・リエール亜魔宮たてる黒騎士グィネフィリアを単身で打ち倒し、協力者たるルールーの協力でショックシンガーサイレント・ウェーヴェを降参させています。モブ魔法少女祭りだ。

 一人で魔王塾主催地獄サバイバルでもやってるのかと思うような連戦っぷり。成熟したリップル(本人の自我有り)の戦闘描写をもう少し細かく見たかったというのは欲目ですが、そこは「赤」でもっと見られることを期待しておきます。

 

 これは本当に好きな遠藤浅蜊先生のツイート。

 

 

 本題に戻ります。そんな感じで自暴自棄とも言えるような戦闘に身を投じ続けるリップルの傷を癒し、同時に監視し、行動を共にするのが前述の0・ルールーです。彼女とリップルは、およそ最悪な友好度でのスタートを切りつつも、「殴り合い」と称されるような自己紹介のぶつけ合いで絆を育みました。

 

 ルールーが余計なことまで話したからにはリップルも余計なことを話さなくてはならない。向こうは本当に包み隠さず話してくれた。リップルだけ隠しているのは、なんというか、リップル自身が気に入らない。普通なら絶対に話すことがないこと、家族のことやクラムベリーの試験で起こったこと、フレデリカに操られていた時のことまで話すはめになった。ルールーが話すのだからこちらも話さざるを得ない。

 形としては殴り合いが近い。殴られたから殴り返す。話されたから話し返す。  

[…]
 勝った、のかどうかはわからない。ルールーの思うようになったというならその通りで、ならば負けたのかもしれないが、しかしリップルの気分としては「殴り合いに勝利した」というのが一番近い。*6

 

 いや~……良いですよね! このリップルの思考! 戦闘の意思がない相手には手を出そうとはせず、しかし殺意には殺意を返すようなリップルらしいというか。「やられたからやり返す」という本人の気質と、同時にその気質のせいで気に入らなかった筈の相手に自分を開示せざるを得なくなる不器用なあり方を感じられてとても良かった。

 

 最終的にはスノーホワイトを助けるために中学校へ向かったルールーを心配するほどまで絆されているリップル。オールド・ブルーががここに至るまで見越してルールーとリップルを組ませたかは定かではありませんが、この先にオールド・ブルーの手のひらの上ではない形で2人が共闘するところが見てみたいなあ。

 

 

 さて好きなセリフです。

 リップルは……自分でも言うように本当に本当に寡黙なので台詞が少ない!その中で、スノーホワイトに関する情報がオールド・ブルーの意図で絞られていたと知ったときの「クズばっかりだ」*7という一言が本当にそうですねという感じで好き。

 

 続いて好きなちょっとした描写。

 ルールーが怪しい魔法少女であるということはなにも変わっていないのに、少し話しただけでリップルの感情が主の意に反して変化している。トップスピードの時も、スノーホワイトの時も、勝手に変わる。*8

 

 ここ!このやや他人事的というか、自分の感情の機微をまだ持て余しているような感じがとても好き。リップルのこういうところが大好き。

 トップスピードに対する「彼女が自分の友達だったと気付いたのは、彼女が死んだ後のことだ」*9 という胸に来るような独白もあり、リップルは他者に対する自分の感情を咀嚼するのに人一倍時間がかかる印象です。怒りの立ち上がりは驚嘆すべき爆速さなのに……。

 

 以上。「白」ではスノーホワイトとフレデリカの二択でフレデリカを選んだリップルですが、「赤」ではスノーホワイトと合流できるのかな。ではまた明日。

*1:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.158 宝島社,2022.2.10(ebook

*2:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画 P.242 宝島社,2019.8.23(ebook

*3:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.158 宝島社,2022.2.10(ebook

*4:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画breakdown(後) No.5469 宝島社,2021.5.10(ebook

*5:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画breakdown(後) No.5469 宝島社,2021.5.10(ebook

*6:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.157 宝島社,2022.2.10(ebook

*7:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.129 宝島社,2022.2.10(ebook

*8:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.159 宝島社,2022.2.10(ebook

*9:遠藤浅蜊 魔法少女育成計画「白」P.156 宝島社,2022.2.10(ebook